研究者を辞めます!

最終更新: 5月16日

子供の頃、映画「天使にラブソングを」を、テープが擦り切れるくらいまで観ていたわけですが、その舞台であるサンフランシスコに自分が住むことになるとは、当時の廣瀬少年は、夢にも思っていませんでした。田舎育ち、かつ地方中堅国立大学出身の自分にとってのサンフランシスコは、まさに第3新東京市のようで、ゴッサムシティーのようで、タトゥイーンのように、未来感が溢れ、危険な香りが漂い、多様な人種が住む映画の世界のような街で、これを体感するだけでも、留学する意義があったのだろうと思います。


私が所属するUniversity of California, San Francisco(UCSF)は、医学生命科学の分野では世界トップレベルの研究機関で、ハトがトンビ、いやギャオスの群れに放り込まれたような気持ちで、この3年半頑張ってきました。所属研究室のボスは、中国人若手PI (Assistant Professor)です。ポスドク時代にビッグラボでトップジャーナルに数報出し、独立したばかりの、若手のホープ。私の彼に対する素直な印象は、「こいつ本気でスター研究者を狙ってやがるな」です。「教授になって生き残る」なんてことは至極当然で、そのさらに先、「世界トップのスター研究者」を見据えているのです。日本では、「出世する」よりも「良い研究をする」ことが正義であるような風潮を勝手に感じていたので、研究者として出世することを前面に押し出すスタンスは、自分にとっては新鮮でした。私の留学には多くの収穫がありましたが、「スターを目指している人間と仕事をした」ことは、アカデミアであろうとなかろうと、貴重な経験であったと感じています。とは言え、PIとしての実績のないボスの元でポスドクをすることは至極リスキー。留学から3年半が経過し、結論から言うと、成果面において、この選択肢は大正解。三大誌へ論文を掲載することに成功したわけです。


研究テーマは、再生能力を制御するメカニズムの解明です。我々ヒトなどの哺乳類と比較し、ゼブラフィッシュやイモリなどの脊椎動物は、驚異的な再生能力を保持しており、腕や心臓などの一部を失ったところで、平然と再生する。実はこのような再生能力は、我々哺乳類にもプログラムされているにも関わらず、発揮されていない。その証拠に、ヒトやマウスは、胎児期や新生児期には、イモリ同様の高い再生能力を示すが、成長と共にその能力を失う。では、その再生能力の違いを生み出すメカニズムは何か?それを解き明かすことができれば、我々もデッドプールのような不死身のスーパーヒーローになれるのではないか?と考えたわけです。我々は、心臓の再生に着目し、種間および発生ステージで心臓の再生能力の違いを引き起こすメカニズムとして、甲状腺ホルモン経路が重要であることを特定し、マウスの心臓再生能力の向上に至った次第です。詳細はHirose et al., Science 2019にてご確認ください。


きっと多くの方が「どうせ、君は順風満帆、助教のポジションを見つけて、研究者として出世するんだろう」とお思いでしょうが、ハズレです!研究辞めます!


If you wanna be somebody

If you wanna go somewhere

You better WAKE UP and PAY ATTENTION

(Pay Attention ―「天使にラブソングを2」 挿入歌)


私は「研究者」と「お笑い芸人」が重なって見える時があります。両者とも先行きは不透明、必要なのは運と実力。テレビに毎日のように出る芸人もいれば、ラジオだったり、営業だったり、ものまねパブだったり・・・、芸人を辞めてしまっても、芸人の経験を活かして俳優や放送作家、政治家、絵本作家になる人もいます。これは研究の第一線で活躍する研究者もいれば、ニッチな分野で活躍する研究者もいる。アカデミアの道を辞め、研究経験を活かして企業に就職するなど、別の道を歩む人々に近いような気がします。


これは適材適所。誰もがスターになれる(なりたい)わけではなく、自身の素質、才能、本当の望みを冷静に判断し、正しい方向に舵取りをすることは、むしろ利口だと思います。一方でスターになった人間が幸せとも限らず、スティーブ・ジョブズが死の間際、「仕事以外では喜びの少ない人生だった」と言い遺したように、偉人も最期には後悔することだってあります。これまでとは全く異なる価値観に触れ、その分野の最前線に突入し、様々な困難を経験し、自身の限界、得意不得意、最も大切なものを見出すことで、初めて自ら人生の舵を取ることができるようになるのではないでしょうか。


ポスドクになると、研究者との接触があまりに増え、盲目的に「教授になることだけが成功」であるかのような錯覚に陥ることがあります(PIがそのように仕向けますし)。そんな時、お笑い芸人のことなんかを考えてみて冷静になるのもいいかもしれません。ポスドクは将来の舵取りが比較的自由にできる最後のチャンスかもしれません。これはいわばモラトリアム期間の再来みたいなもので、自分が誰になりたいのか?どこへ行きたいのか?研究がどうしても好きなら、研究室に所属せずに、バイオハッカーになっても、バイオアーティストになっても、野良研究者になってもいい。自分の目指す未来像、私の場合は「久米宏」「有吉弘行」「東出昌大」のような魅力的な大人になるにはどうすれば良いかを考えていきたいと思っています。


皆様も、自分が何をして、誰のようになりたいのか、冷静に判断し、自身を常にWAKE UPさせ、研究だけではなく様々な事柄にPAY ATTENTIONすれば、本当に有意義な人生になると思います。


廣瀬 健太朗(UCSF)


著者近影: Folsom Street fairにて。サンフランシスコは、人種の面でも、性の面でも、最も多様性が許される街です。その象徴の一つが、フェチの祭典であるFolsom Street fairです。一度は行くことをお勧めします。この写真は、オープンなマインドで、新しいことにチャレンジした私です。何か面白い話があればhirosekentaro@outlook.jpまでご連絡ください。

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