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「経営学の視点からを考える」UJA論文賞

ミシガン大学MBA 伊藤 有輝

ボンド大学MBA 伊藤 みどり


海外MBAが研究者と交流して感じたこと


 私は2018年から2020年6月までミシガン大学ビジネススクール(MBA/経営学修士)に留学し、妻はその間、ボンド大学のオンラインMBAを受講しました。留学中には夫婦揃ってミシガン金曜会に参加し、同州在住の研究者と交流する機会を得るとともに、2019年のミッドウエストカンファレンスに参加することで、交流の輪はアメリカ中西部の研究者まで広がりました。


 大学も経済学部で卒業後すぐにビジネスの世界に飛び込んだ私にとって、理系研究者はほぼ未知の存在でした。しかし、彼らとの交流を重ねることで、少しずつ理解が進むと同時に、下記の思いが芽生えました。


尊敬する点

  • フロンティア精神

  • 知性及び知的好奇心

  • 努力と忍耐

大変そうな点

  • ポストの獲得が難しい、競争が非常に激しい

  • 専門外の人にとっては、凄いことをしているのに何が凄いか分からない

 私が身を置くビジネスの世界には、アントレプレナーという概念があります。これはリスクをとって新しいことにチャレンジしていく人たちのことです。私はアントレプレナーがとても好きで、果敢にリスクをとって新しいことにチャレンジする姿に尊敬と憧れを感じています。前職では公認会計士として、スタートアップ企業のIPO(新規株式公開)支援をするほど惚れ込んでいるのですが、実は私が研究者と交流する中でも、彼らの中にこのアントレプレナーシップを強く感じています。海外で研究するリスクを取りながら、果敢に新しいことにチャレンジし、知のフロンティアを拓いていく。まさにアントレプレナーそのものです。私はいつの間にか、日夜研究に勤しまれる方々に強く惹かれていったのです。


 これからの時代はInterdisciplinaryが求められているといわれます。従前のようなタコつぼの状況では、新しいものが生まれにくくなっているのかもしれません。研究者と研究者以外の人との交流は、新しい考えの発見やさらには将来的なビジネスへの展開など、Winの関係になるはず-Winです。実際に、研究室発のビジネスも多数あります。研究者とビジネス界隈の交流が、将来的に世界をあっと言わせるようなビジネス・研究の種につながれば非常によいのではないかと思っています。


 さて、今回のUJA論文賞の受賞者は、私と同年代の研究者の方々です。海外でチャレンジするという経験も共有しています。私と同様に、苦い経験もたくさんあったと思います。次世代を担うのは我々であるという共通の思いがあります。そして一緒に未来を創っていきたいとも思います。そんな思いをこめて、UJA論文賞とその授賞式をレポートします。


UJA論文賞の意義


UJA論文賞は非常に大きな意義を抱えています。前述の通り、私が研究者の方と交流する中で、

研究者の皆さんが抱える課題として下記の2点があると考えました。

課題➊ 競争が非常に激しい 、ポストの獲得が難しい

→競争の中で疲弊してしまう。モチベーションの維持が難しい。

課題➋ 凄いことをしているのに、専門外の人にとっては何が凄いか分からない

→よって、地味。目立たない。家族の理解も得られにくい。

UJA論文賞はこれら2つの課題に対するソリューションになっているのではと感じました。


若手研究者のモチベーションとなる、明確な”マイルストーン”としての位置づけ


 UJA論文賞は若手研究者のマイルストーンになると感じています。次世代を担う研究者の目標となるとともに、研究者同士の交流を促すことができる。、また研究者にとり崇高な目標といえるノーベル賞までの果てしなく遠い道の途中で目指す通過点になり得ると思います。受賞者が活躍することで、賞の権威がどんどん上がることを期待します。


やっていることの“見える化”


 UJA論文賞は、研究者の論文がスポットライトを浴びる重要な機会です。この”見える化”で、他の研究者との交流や協業を促すことができるのではないかと思います。


 賞というお墨付きに加え、研究者自身による解説や、選考理由やコメントを通じて、家族や周囲の方も研究の内容や意義を理解することができます。研究者がラボでしていることがわかると、家族などの周囲のサポートが得られ、モチベーションを保つことができるという好循環が生まれると思います。これは課題1 のソリューションともなります。


 UJA論文賞の受賞者として名前が出ることで、自身の仕事について達成感を感じるとともに、仕事について理解してもらうことに繋がると考えます。映画やテレビゲームのエンドロールを想像してみてください。制作にかかわった人は、エンドロールに自分の名前が出ることを誇らしく感じると言います。また、家族や周囲の人に自分の仕事について話をするきっかけにもなるそうです。私も過去に書籍の執筆をした際、巻末に自分の名前が印刷された本が書店に並んだ際は、親や友達に胸を張ることができました。賞を通じて自分の名前が世に出るということは、自分の仕事を他の人に誇りを持って伝えることに繋がります。


 もちろん論文が雑誌に載った時点で名前は出ていますし、業績も明確になっているとも言えるかもしれません。しかし(特に海外でご活躍の研究者の方にとって)、英語論文は本人は理解できても周りのサポーターは理解し難いと思います。賞を通じて日本語で業績が明確になることの意義は大きいと感じました。


ウイルス対策の思わぬ利点


 研究者にとって非常に意義のあるUJA論文賞ですが、新型コロナウィルスの影響で今年度の授賞式の開催は非常に難しい状況となりました。論文賞の選考は例年通り行われましたが、実際に受賞者が集まる授賞式は、感染防止の観点から好ましくありません。中西部各州の緊急事態宣言も続々と発表される中、授賞式の開催断念も一度は検討されました。


 しかし、UJA論文賞の意義を改めて振り返りますと、やはり授賞式はいかなる形であっても実施し、受賞された研究者の方々を称えるべきであると運営各位が確信。新型コロナウィルスの感染防止策として、UJA論文賞始まって以来初めてオンライン授賞式が開催されました。


 オンライン授賞式は、アメリカ時間の2020年4月24日金曜日に開催され、論文賞と特別賞の受賞者を称えるため、世界中から総勢70名以上が参加する大規模な授賞式となりました。


 授賞式のオンライン開催は初の取り組みで不安も大きかったですが、蓋を開けてみれば、アメリカ中西部に留まらず、東海岸のボストン、西海岸のカリフォルニア、さらにはアメリカを飛び出し、日本、フランス、オーストラリアなど世界中から参加者が集いました。これはまさにオンライン開催でなければ実現し得ない、嬉しい驚きでした。開催時間はアメリカ東部時間の19時であったため、欧州は深夜、日本は早朝と大変な時間だったと思いますが、出席いただいたみなさん、ありがとうございました。


初のオンラインのUJA論文賞授賞式。画面越しに受賞者に拍手を送る様子。

初のオンライン授賞式


 授賞式は定刻通りに司会の河野ゆりかさんの挨拶で開始されました。まずはUJA理事であるインディアナ大学河野龍義さんから開会挨拶があり、UJA論文賞の意義や選考プロセスの説明に加えて、UJAの設立経緯をパデュー大学名誉教授である根岸英一先生との会談内容を交えながらご紹介いただきました。根岸先生の「日本人同士が馴れ合うだけの場ではなく、分野を問わず切磋琢磨できる組織であってほしい」との想いから、UJA論文賞も分野を問わないユニークな論文賞になっているそうです。


 授賞式のメインイベントとして、受賞者が研究内容を発表しました。研究者が生活のほぼすべてを捧げて、たどり着いた研究成果。成果にたどり着くまでにどれだけの実験どれだけのディスカッション、どれだけの書き直しがあったのか全く想像もできないほどの時間・苦労があったのだと思います。今回UJA論文賞を受賞した、みなさんのお名前と研究内容をご紹介します。

特別賞受賞者には賞状が、論文賞受賞者には盾がそれぞれ送付されました。



論文賞の今後の可能性


 UJA論文賞の今後の可能性として、①さらなる拡大と②さらなる見える化の2点があると考えられます。


さらなる拡大


UJA論文賞の他分野、他地域に広げることが重要と考えます。

  • 今回の受賞分野としては、生命科学分野での受賞が比較的多いと感じました。今後は他分野にも積極的に広げていくほうがよいと考えており、分野についてはノーベル賞の分類に合わせては?という意見もありました。

  • 他の地域への拡張。UJAの活動もグローバルに拡大し続けていることもあり、アメリカの中西部以外でも実施できるとよさそうです(授賞式後20団体以上からの参加希望があり拡大予定とのことです)。ビジネス分野で有名なアンゾフの成長戦略の理論に当てはめて考えますと、新製品開発(他分野拡大)と新市場開拓(新地域拡大)の両方が求められていると考えます。

さらなる見える化


 ビジネス分野に身を置く私のような門外漢の人間が関与することで、研究の意義をより強く発信することもできるかもしれません。UJA論文賞の新しい風になれればと思います。


 公認会計士の間では有名な話ですが、会計とは無縁のある研究者が書いた簿記の本がとても分かりやすいことで、有名です。この研究者は大学運営に携わるようになったことを契機に、簿記の知識が必要となり、独学で簿記を身につけたそうです。そして、その学びを活かし、簿記の書籍を執筆しました。この本は簿記や会計の専門家が書いた本よりも分かりやすいと評判になっています。


 つまり、「専門分野に長らく浸っている立場では、自分にとっての当たり前が、「外から見ると全く当たり前ではないということがあると思います。専門分野を極めた人と、外部から新しく入ってきた人が交流を持つことで、。初めて外部に伝えられることもあると考えられます。それが、UJAに所属する研究者のみなさんの努力の、さらなる見える化に繋がればと思います。


最後に


 授賞式の最後には、UJA審査責任者である佐々木敦朗さんから閉会の言葉として、留学という大変な生活環境の中でも着実に成果を残されている研究者のみなさんに対する称賛のメッセージがありました。


 また、論文賞運営、UJA、ケイロン・イニシアチブ、協力・協賛など全てのステークホルダーに対する感謝の言葉もあり、とても温かい雰囲気に包まれての閉会となりました。


 最後に佐々木さんのメッセージの一部をご紹介して、本レポートを締めくくります。

「新型コロナウィルスの影響を受ける中でも 、海外で活躍する研究者たちがこうしてオンラインで集まり、サイエンスをシェアし、素晴らしい時間を共有できることが素晴らしい。この機会を明日への活力にして、新しいサイエンスを私たちの手で生み出していきましょう。」


2020年UJA論文賞受賞者一覧 (8名、順不同)



参照情報・図


UJA論文賞の開催内容、応募規定、選考規定、受賞内容等の詳細については2020年UJA論文賞特設サイト をご参照ください。

論文賞への参加、スポンサー支援の問い合わせ先: JapanX.ScienceForum@gmail.com

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