UJA法律相談所 —第2回—

Augen Law Offices P.C.

古川 裕実

自宅近くの遊歩道にて撮影。紅葉と雪が一緒になるのは、降雪の多いボストンといえども珍しいです。

みなさま、こんにちは。私の住むニューイングランド地方は10月後半から11月前半にかけての紅葉の美しさで有名ですが、先日、ハロウィン前夜に早すぎる雪が降り、翌日には紅葉と積雪の入り混じる景色を満月が照らすという幻想的な世界を見ることができました。2020年はいろいろなことが起きますね。



さて、11月のアメリカは、大波乱の大統領選挙の話題一色です。投票日から4日経った11月7日、ようやく“正式な”勝利宣言が出されました。UJA法律相談所の第2回は、今回のアメリカ大統領選挙の振り返りとUSCIS(米国移民局)の申請料の値上げに関してお届けします。






アメリカ大統領選挙の仕組み


雪の重みで枝が折れそうなほどにしなっています。

アメリカの大統領は選挙人(electoral college)によって選ばれる旨が、合衆国憲法に定められています。選挙人の総定数は538人で、各州の人口に比例して配分されています。各州の州法に従って有権者が投票により選挙人を選出することになっており、メイン州とネブラスカ州を除き、その州で最も多く得票した候補が、その州の選挙人全員を獲得することになります。11月の第1火曜(今回は11月3日)が大統領選挙の日とされていますが、これは有権者の投票日であり、有権者が選出した選挙人による投票(合衆国憲法に定められた大統領選挙)は、後日(今回は12月14日)ということになります。ただし、選挙人が有権者の民意に反した投票をすることは、ほぼありません。そこで、有権者の投票により過半数である270人の選挙人を獲得することが確実となった候補者が次期大統領として勝利宣言(victory speech)を行い、それを受けて対立候補者が敗北宣言(concession speech)を行うのが通例となっています。多くの場合、投票日の深夜〜翌日の明け方頃までに各候補が獲得した選挙人数が判明するので、投票日の深夜または翌日に勝利宣言と敗北宣言が行われます。


異例の“勝利宣言”と逆転劇


今回の大統領選挙の主要候補者は、現職である共和党のドナルド・トランプ大統領と民主党のジョー・バイデン元副大統領でした。過去120年で最高とも言われる投票率とCOVID-19の影響で増加した郵便投票の影響で開票作業に通常よりも時間がかかり、その上、ジョージア州、ペンシルべニア州をはじめとするいくつかの激戦州では非常な接戦だったので、どちらの候補者が勝利確実であるかの判断がなかなかつきませんでした。


ところが、トランプ大統領は、投票日の深夜、勝利確実の報せのないままに一方的に”勝利宣言”を行いました。この狙いは、”勝利宣言“を行うことで自分に有利な結果を出している激戦州の開票作業を止めることにあったなどと言われていますが、定かではありません。当然のことながら、この”勝利宣言“以後も全ての州で開票作業は続けられました。


ジョージア州、ペンシルベニア州でのバイデン候補の追い上げ・逆転劇を経て、11月7日夜、バイデン候補とハリス副大統領候補による正式な勝利宣言が出されました。なお、トランプ大統領は、敗北宣言を拒否し、敗北した州のうち接戦した州では再集計を申し立て、また不公正な選挙が行われたことを理由に各地で訴訟を提起する計画を発表しています。


トランプ大統領再選の可能性??



子どもと一緒に雪だるまを作りました。

さて、万が一訴訟による混乱が続いた場合は、何が起きるのでしょうか?大統領選挙と訴訟というと、2000年のブッシュv. ゴアの事件が記憶に新しいところです。この時は、州による選挙結果の認定の日(州レベルでの選挙に対する紛争の解決期限日)までに連邦最高裁の判断が出たため、無事に選挙人による投票が実施できました。では、この期限日(今回は12月8日)までに選挙に関する紛争が解決できなかった場合、どのようにして大統領を決することになるでしょう。


一つの可能性として、州議会が選挙人を選び、その選挙人が投票を行う方式が考えられます。合衆国憲法は「選挙人」が大統領を選ぶと規定していますが、選挙人の選出方法については「各州が州議会の支持する方法で選挙人を指名する」と定めるのみなので、有権者の投票により選挙人を選出するのは憲法上の要請ではありません。州議会が選挙人を選出する州が多数であった時代もあったなどの歴史的経緯からも、このような方法が可能性として挙げられています。共和党議員が過半数を占める州でこのような事態となれば、共和党に有利な選挙人の選出となる可能性があります。


もう一つの可能性として、期日までに選挙人を獲得する者が決まらず、過半数の選挙人を獲得した者がいない事態になった場合、合衆国議会が選ぶ方式が考えられます。大統領は下院が、副大統領は上院が、それぞれ投票で選びます。この場合、改選前の議会が選びますので、現時点ではいずれも過半数を占めている共和党に有利な結果が予想されます。


なお、本稿を起案している11月9日現在のメディアによる予想では、トランプ陣営が計画している訴訟により選挙結果が影響を受ける可能性は低いとのこと。本稿発行日頃には大勢が決していると思われますが、どうなっているでしょうか。


各州で投票された重要事項


大統領選挙の際、合衆国議会の上院・下院議員選挙のほか、各州での重要事項について住民投票も行われました。多くの注目すべき投票結果がありましたが、ここでは生活に関係するかもしれないもの2つを取り上げたいと思います。


カリフォルニア州


好きな時に好きな場所で仕事したり、複数のサービスを掛け持つ柔軟な働き方を可能にするいわゆる”ギグ・ワーカー“ビジネスが盛んですが、カリフォルニア州では、ギグ・ワーカーを独立した契約労働者(independent contractor)ではなく「従業員」に分類し、雇用主が福利厚生を提供することを義務付ける法律が2020年1月に施行されました。これを受けて、2020年5月、UberとLyftは同社らのドライバーを従業員に分類せず、不当な競争上の優位性を得ているなどとしてカリフォルニア州の司法長官らが同社らを訴えており、UberとLyftが従業員雇用の負担に耐えきれずにカリフォルニア州でのサービスを断念せざるを得なくなるような報道もされていました。


今回の住民投票では、これらのギグ・ワーカーを独立契約労働者と分類することを許す法案であるProposition 22について投票され、約58%の賛成票を得て可決されました。従業員として受けられる福利厚生よりも働き方の柔軟性を住民が選択した形です。


オレゴン州


大麻の娯楽的使用を認める州は増加傾向にあり、今回の選挙では、新たにアリゾナ州、ニュージャージー州、モンタナ州、サウスダコタ州が娯楽用大麻使用を合法化しました。オレゴン州はさらに一歩踏み込み、アメリカで初めて、コカインやヘロイン、覚せい剤などのいわゆるハードドラッグの少量の所持を非犯罪化しました。少量の薬物所持が発覚した場合、$100の罰金を支払うか、薬物治療センターで”health assessment”を受けるとのこと。多量の所持の場合は軽犯罪(misdemeanor)として、さらに多量で薬物取引に十分だった場合は重罪(felony)として扱われ、ハードドラッグの製造や流通に関わった場合も刑事罰を受けるとのことです。この法案が可決されるに至った背景には、刑務所の確保の問題、人種差別的な薬物犯罪の取締りなどがあるようです。他州でも同様の問題は存在するので、オレゴン州の動きに追随する州が出てくるかどうか、今後に注目です。


USCISの申請料の値上げと差止め


話題変わって、今年の10月2日、USCISは、多くの申請について申請料の値上げを予定し、また申請料の新設も予定されていました。例えば、これまで無料であった亡命者(asylum)申請に$50の申請費用を新設し、また郵送による米国市民権申請料は$640であったのが$1,170に、米国内でのグリーンカード申請では申請費用の$1,140に労働許可申請と一時渡航許可申請の費用が含まれていたのが、別個に支払うことになりました(変更後の申請料の総額は、$2,270)。H-1B申請($460から$555に増額)や、Lビザ申請($460から$805に増額)も値上がりが予定されていました。


しかし、9月29日、カリフォルニア北部地区連邦裁判所において、この申請料の増額について仮差止め命令が出されました。国土安全保障省長官代行のKevin McAleenan氏とその後同代行に任命されたChad Wolf氏の任命過程に問題があったこと、USCISが訴訟において適切なデータを提出できず、行政手続法(Administrative Procedure Act)に反していることなどが理由です。国土安全保障省はこの仮差止め命令について争うことが想定されており、訴訟の動向によっては、予定されていた値上げの実施が決定される可能性があります。USCISに申請する際には、必ず最新の申請料をご確認ください。


また、この差止めは、近時施行された特急審査料(Premium Processing Fee)の値上げには影響しません。同審査料は、10月19日付けで$1,440から$2,500に増額されていますので、ご留意ください。


ご相談をお待ちしています!


引き続き、皆様が日常生活で感じた法律に関する疑問や、興味関心のある米国の法律分野など、その他日米の法律に関することについて、随時ご質問を募集しています。また、UJAを通じた法律相談の一部は無料相談としていますので、個別の法律相談がある場合も気軽にご連絡ください。


著者略歴

2004年早稲田大学法学部卒業。2006年弁護士登録(59期。現在は一時的に登録抹消中。)。2012年University of Washington School of Law (LLM in Intellectual Law & Policy)卒。長島大野常松法律事務所(2006年〜2015年)、Davis Wright Tremaine LLP(Seattle Office, 2012年〜2013年)、Augen Law Offices(2015年〜2019年)を経て、2019年よりAugen Law Offices P.C.。

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