米国シカゴ留学体験記:君の街にもコミュニティを作ろう

ノースウェスタン大学

片木 宏昭


ノースウェスタン大学日本人研究者の会前代表幹事の片木宏昭と申します。2017年から2020年まで3年間、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴにあるNorthwestern University(以下、ノースウェスタン大学)に研究留学し、難治性小児脳腫瘍であるびまん性橋膠腫のトランスレーショナル研究を行いました。研究の傍ら、シカゴダウンタウン近隣にあるノースウェスタン大学、ラッシュ大学、イリノイ大学シカゴ校、シカゴ大学などへ留学している日本人研究者から構成されるコミュニティ「ノースウェスタン大学日本人研究者の会(NUJRA)」を仲間と共に発足し、海外日本人研究者ネットワーク(UJA)へ加盟して活動していました。客観的に語ることは難しい研究留学ですが、自らの経験が後世への一助となれば幸いです。


2017年留学開始時、ノースウェスタン大学シカゴキャンパスにはNUJRAの前身となる日本人有志で運営していた勉強会があり、知人の紹介により運よく参加することができました。主な活動内容は、月1回の勉強会および懇親会と年数回の招待講演でした。勉強会では、日本人研究留学生の自己紹介と研究内容や成果の発表があり、質疑応答が活発に行われ、好奇心を刺激する機会となりました。また、会場のノースウェスタン大学シカゴキャンパスはレストランが充実したダウンタウンの中心にあるため、懇親会も大いに盛り上がり、当会の醍醐味の一つでした。海外留学しているにも関わらず日本人同士で頻繁に集まることには賛否両論があると思います。しかし、私の場合は研究の悩みなどを日本語で共有することができ、皆それぞれ悩みを抱えながら研究に取り組んでいることがわかり、気が楽になったとともに気を許せる仲間との共感が重要であることを改めて認識しました。慣れない海外生活に関する情報収集も効率的にでき、いつの間にか留学生活を支える貴重な存在となっていました。


私はこれまでに幹事を任せられる機会が多く、個人的にも人集めが好きだったこともあり、今回も積極的に幹事として運営に携わりました。この会は発足当時より近隣の日本人留学生の交流と勉強会だけが目的であったため、会の名前はなく、人づての紹介と個人的なつながりのみで運営されていたため、公に当会の存在を知る術が長らく存在しませんでした。そこで前任者から幹事を引き継いだ際、当会の活動をより活性化するために「ノースウェスタン大学日本人研究者の会(NUJRA)」と名付け、これまで近隣にいながら会を知らなかった人や新規留学者のみなさまがウェブで検索してアクセスしてもらえるようにウェブページを作成しました。思えば、この試みが未知への経験と繋がる第一歩でした。


NUJRAのさらなる活動の発展を期して地域を超えた交流を促進するためにUJAに参加しました。2019年にはミシガン州アナーバーで開催されたUJA主催のミッドウェストカンファレンスに幹事全員で参加し、NUJRA共同幹事の高田望さんが最優秀口頭発表賞を受賞するという快挙を成し遂げました(UJA Gazette創刊号参照)。また、アナーバーでは多くの優れた日本人研究者と出会い、刺激的な交流に恵まれただけでなく、そこで生まれた繋がりが後述のJapan XR Science Forum 2020の共催に至りました。アメリカ中西部4州を中心に開催されたUJA論文賞にも参加しました。当時、私がびまん性橋膠腫に対する放射線の効果が薬剤(GSK-J4)によって増進されることをこの分野で最も認知度の高いジャーナルの一つであるClinical Cancer Research誌に報告した論文が、幸運にもUJA論文賞2020の優秀賞に選出され(UJA Gazette第2号参照)、UJAのウェブページだけでなく、複数のSNSで幅広く拡散され、素晴らしい留学の想い出になるととともに、自らの発見が広く認知された実感が湧きました。


留学前は日本で病理診断医として働いていたので、臨床検体には親しみがあるものの基礎的な解析にはほとんど馴染みがなく、研究留学を通じて目的に即した高度な手法や結論へ導く考察方法を学ぶことができました。また、多くの研究者と協力して研究する価値と研究を実践するためのコミュニケーション能力を培うこともでき、今後への大きな財産を手にすることができました。具体的には、この論文のリバイスの鍵となった統計解析について適切なアドバイスをNUJRA共同幹事の田中仁啓さんからいただき、データの信頼性と説得力をより強固にしてアクセプトへ導くことができました。この場を借りてお礼を申し上げます。


2020年3月からCOVID-19の流行に伴い、シカゴには自宅待機命令が出されたため多くの研究者は自宅でのリモートワークを余儀なくされました。共同幹事とコアメンバーで相談し、少しでもメンバー間で研究交流する機会を作るため、ウェブ会議ツールZoomを用いて週に1回ほど勉強会を企画しました。Zoomを使用することで自由なタイミングで参加することが可能となり、チャット機能などを用いて質問も効率的かつ容易にできたことからオンラインでのプレゼンテーションのメリットを実感し、会としての活動を継続することができました。また、UJAとも先述のJapan XR Science Forum 2020について、開催へ向けて会議を重ねていました。当初、NUJRA主催で今年度のミッドウェストカンファレンスを在シカゴ日本国総領事館との共催として準備をしていました。しかし、COVID-19のために現地での開催が著しく困難となり、延期も念頭に置きながら限られた環境に即した新しいスタイルを必死に模索しました。その結果、UJAのネットワークを駆使して仮想現実空間での開催へたどり着き、Japan XR Science Forum 2020 in US Midwestと題して準備を再開しました。研究者と家族が参加する仮想現実空間での生命科学学会の開催はこれまでに例がなく、運営者にとっても参加者にとっても未知への挑戦となり苦難の連続でした。開催にあたり異分野も含めた世界中の多くの方々と綿密な会議を重ね、我々にはないノウハウの共有などより多くの協力が必要不可欠でした。本学会の詳細について本稿では割愛させていただきますが(https://www.japanxr-science-forum.org/参照)、当会のウェブページを構築してUJAへ加入したことによって想定外の発展へと繋がり、コミュニティの活動の幅を広げて活性化できただけでなく、個人的にも多くの交流を経験して素晴らしい留学経験となりました。


留学している日本人研究者の多くは経済的制約と時間的制約に直面しながら研究生活を送っていることと思います。一人の力だけで研究を進めていると壁にぶつかることも時にあるのではないでしょうか。シカゴには多岐にわたる分野で日本人が研究をしており、それぞれが得意とする知識と実験技術を持っています。日本人同士がNUJRAのような地元のコミュニティを通じてコラボレーションをすることにより、お互いの長所を生かしてより効率的に自身の研究成果へ繋げられるのではないかと考えています。私自身、留学期間中に発表した論文および近日発表予定の論文ではNUJRAのメンバーらに実際に協力してもらっており、結果として留学の成果について生産性をより向上させ、より大きな発見へと繋がりました。そして、コミュニティを通じてできた仲間を自らの論文の共著者あるいは謝辞へ掲載できたことは、留学生活を通じてお世話になった感謝を形にすることができ、一生涯の想い出となりました。まさにこの地へこのタイミングで留学し、NUJRAで出会えていなければ成しえなかった真の成果でした。また、NUJRAではメンバーの留学中のみならず留学後も継続する関係を目指しており、帰国後もNUJRA日本支部の一員として活動することや、居住域が離れていても繋がれるよう日本支部主導で勉強会や懇親会、ウェブ会議ツールを用いた在米のメンバーとの研究交流などを企画しています。



COVID-19によりこれからの海外研究留学の在り方を再考せざるを得ない状況ではありますが、それらを解決するために、私達のように既存のコミュニティを上手く組織化することや、もしコミュニティがなければ自身で作ってしまうのも有用な手段だと思います。そして、直接会わずとも世界中でコミュニケーションできる環境が整ってきていますので、新しい時代や新しい環境に即した手段でネットワークを常に絶やさないことが重要だと考えます。読者のみなさまの実りある留学生活とキャリアパスを心よりお祈りし、結びとさせていただきます。


謝辞

UJAとの出会いと執筆の機会を与えていただいたUJA理事の森岡和仁さん、研究だけでなくネットワーキングの面でも大きな支えとなってくださったNUJRA元幹事である和佐野浩一郎さん、共同幹事の高田望さん・田中仁啓さんならびに各メンバーに、心からの感謝の意を表します。


著者略歴

片木 宏昭。2009年東京慈恵会医科大学医学部卒業。2017年よりノースウェスタン大学脳神経外科研究員。