スター研究者になりたいか?/廣瀬健太朗

① 執筆者 :廣瀬 健太朗 ② 情報時期:2016年4月~ ③ 留学先 :アメリカ・University of California, San Francisco


プロフィール

2011年、広島大学理学部生物科学科卒業。2015年、同大学理学研究科生物科学専攻修了。博士課程では、菊池裕教授の下、ゼブラフィッシュの尾ヒレ再生メカニズムに関する研究に従事する。そして現在、カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員として心臓再生メカニズムの解明に尽力している。将来、アメコミヒーローのデッドプールのように驚異的な再生能力を持った不死身の体を手にいれることを目論んでいる。


留学体験記

私は子供の頃、テープが擦り切れるくらいまで映画「天使にラブソングを」を観ていましたが(実際はDVDだけど)、その舞台であるサンフランシスコに住むことになるとは夢にも思っていませんでした。University of California, San Francisco (UCSF)は生命科学の分野では世界トップクラスの研究機関であり、中堅国立大学出身の自分には天上界のような、完全に未知の世界でした。紹介状などはなく、中国人若手PI (Assistant Professor)のラボに直接アプライし、2016年4月からポスドクとして留学しています。彼は現在41歳で、20年以上前に渡米、ポスドク時代にはビッグラボでトップジャーナルに数報出し、5年ほど前に現在の研究室にて独立しました。私の彼に対する素直な印象は、「こいつ本気でスター研究者を狙っているな」です。どこかの教授になるなんてレベルではなく、「世界トップのスター研究者」を目指しているのです。日本で目標といえば、なんとなく「出世する」よりも「良い研究をする」と言う方が正義であるような風潮がある気がしていたので、研究者として成功することをはっきり目標としているのは、自分にとっては新鮮でした。彼の現在の状況はUCSFのPIになった時点でスター研究者の登竜門をくぐった若手ホープである訳ですが、実際は未だパーマネントではなく、ここで花開くか試されています。隣のラボのAssistant Professorは十分な結果を残せずUCSFを去ることが決まっており、明日は我が身、今の彼はスター研究者となれるか否か、その第1ステージの突破を賭けた正念場です。私の留学経験は多くの収穫がありましたが、「スターを目指している人間と仕事をした」ことは、アカデミックであろうと関係なく、貴重な経験だと感じています。特に私のPIは天才型というより努力型という感じで、より多くの人の参考になると感じます。そこで、私が彼から学んだ「スター研究者を目指すための方法」をここに記そうと思います。 1. 四六時中働け!そして(非強制的に)働かせる雰囲気を作れ! PI曰く「モチベーション=ラボへの滞在時間」だそうです。もちろん結果が最も大事ですが、運頼みなのがこの世界。研究に費やした時間は、成功確率を引き上げます。当然彼自身が非常なハードワーカー。彼のデスクはオフィスではなく実験室にあるのですが、学会参加日などを除いて朝から深夜まで、一年中ほぼ毎日ラボにいます。食事も短時間で、基本的に林檎を1つか2つ食べるだけ。これは我々に対するプレッシャーとしても働くわけで、自然と我々のラボ滞在時間も長くなり、サボることのできない雰囲気が出来上がります。これは推薦書という武器を利用することでさらに効果的になり、“親切にも”我々に対して推薦書の重要性や評価方法を説き、その評価項目には「滞在時間=モチベーション」が存在するとそれとなく伝えるわけです。そうすることで、論理的かつ非強制的に、長時間働く雰囲気を作るのです。一方で、ラボメンバーのメンタルケアやラボの雰囲気作りにもよく気を配っています。彼の最も尊敬すべき点は、決して感情的にならないこと。苛立っているように見えることはあっても、決して表に出そうとせず、相手側が感情的になった時にはスッと謝罪します。この対応によって、研究室の雰囲気は常に良好な状態で維持されているように感じます。結果的に比較的長時間労働しないアメリカ人学生やヨーロッパからの留学生も、自然とラボへの滞在時間が長くなるわけです。この非常に練られた戦略には(皮肉ではなく)本当に感服します!当然、有名ビッグラボになれば自ずとモチベーションの高い人たちが集まってきます。しかし独立直後はそうはいきません。その時、いかに非強制的に働かせるか。それは非常に重要なことなのです! 2. 一般的な幸せはかなぐり捨てろ! 器用で賢く、才能に恵まれた人間は、愛する家族を持ち、気の許す友人に囲まれ、幸せな生活を送りながらもスター研究者になることが可能なのでしょうが、そんなもの凡人には不可能でしょう。私のPIも四六時中働いているため、当然プライベートなどは二の次となっています。彼は未婚で、恐らく彼女(または彼氏)なし、中国の両親に会う機会もほとんどないようです。また、友達=共同研究者で、研究者以外に交友はないように思います。人の記憶の方法も「彼は〇〇を研究している△△君だよ」といった感じ。人の顔が遺伝子名で見えているのか!?と思うこともあります。ラボで会話するときは当然サイエンスの話題がメイン。それは、たとえ学生が嫌な顔をしようとも。すべての生活を研究に捧げることができなくては、スターを目指すことは難しいということでしょう! 3. 確実にスター研究者になるための研究をしろ! 研究の目的といえば、好きな研究をすること、ある研究目標を達成すること、などをよく聞きますが、それは比較的リスクの高い研究になる場合があります。かなり賢く、運が良ければ可能でしょうが、確実にスター研究者になるためには、確実に良い結果を出し続けなくてはなりません。そこで私のPIが推奨する方法が「20個の研究テーマを同時進行する」です。要は「数打ちゃ当たる」の方式で、興味とはあまり関係なく、とにかく比較的簡単に検証可能な実験を考えまくり、当たりの研究を探し出すのです。彼曰く、研究の成功率は10%くらい。20個やれば2個くらいは当たりが見つかるとのこと(彼の言う当たりとはトップジャーナルクラスの当たり)。これにより、何も研究成果がないという最悪の事態は避けられます。また確実に結果の出せる研究テーマも重要とのこと。例えば、今ならSingle-Cell RNA-Seq解析をユニークな組織や変異体で行えば、それなりの結果を確実に出せます。つまり今現在何よりも優先されるべきことは、研究への関心や信念よりも、どれだけ良い論文を量産することができるかです。好きな研究をするためには、まずスター研究者としての地位を確立し、潤沢な研究費を獲得する必要があります。ひとまず研究への興味は二の次なのです! 私のPIは上記を実践することで実際に結果を出しているので、非常に理にかなっていると私自身も納得しています。これを読んでの反応は、「当然だろ」とか、「それ以外の方法だってある」とか、「まぁ中間くらいで頑張るよ」とか、「もう研究者なんて無理無理―」とか様々だと思います。それを考えること自体が大事だと思います。 If you wanna be somebody If you wanna go somewhere You better WAKE UP and PAY ATTENTION (Pay Attention, 「天使にラブソングを2」 挿入歌) 私は「研究者」と「お笑い芸人」が重なって見える時があります。両者とも先行きは不透明、必要なのは運と実力。人生をお笑いに捧げるお笑い怪獣の「明石家さんま」、かつてはブレイクし、挫折しながらも再起を果たした「有吉弘行」、ラジオのようにニッチな分野で絶大なる支持を受ける「アルコ&ピース」、メディアでの目立った活躍はなくとも営業などでサラリーマン以上の収入を得ているものまね芸人、数多くの一発屋芸人など、なんとなく研究者を想起させませんか?また、芸人を辞めてしまっても、芸人の経験を活かして俳優や放送作家、政治家、飲食店等の経営者になり成功している人も数多くいます。これはアカデミックの道を辞め、研究経験を活かして企業での就職など別の道を歩む人々に近いような気がします。やはりこれは適材適所。誰もがスターになれる訳ではないので、自身の素質、才能、本当の望みを冷静に判断し、正しい方向に舵取りをすることは、むしろ利口だと思います。一方でスターになった人間が幸せとも限らず、スティーブ・ジョブズが死の間際、「仕事以外では喜びの少ない人生だった」と語ったように、誰もが尊敬する人間でも最期には後悔することだってあります。その舵取りを行うためには、一流の研究者に刺激され、これまでとは全く異なる環境で生活し、自身が外国人になり、様々な困難を経験して、自身のできること、必要なもの、大切なものを見出すことが大事だと思います。特にポスドクにまでなると、研究者との接触があまりに増え、盲目的に「スター研究者になることだけが成功」であるかのように錯覚することがあります(PIがそのように仕向けますし)。そんな時、お笑い芸人のことなんかを考えてみて冷静になるのもいいかもしれません。ポスドクは将来の舵取りが比較的自由にできる最後のチャンスかもしれません。これはいわばモラトリアム期間の再来みたいなもので、自分の目指す未来像、私の場合は「久米宏」のような大人になるにはどうすれば良いかを考えたいと思っています。皆様ももし留学するのであれば、自身を常にWAKE UPさせ、研究だけではなく様々な事柄にPAY ATTENTIONすれば、本当に有意義な留学経験を得られると思います。 この文章を書いているうちに、自身の考えをまとめた自己啓発的な文章になってしまった気がしており、まとまりのなく、大変読みづらい部分もあったかと思いますが、ご容赦ください。 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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