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【COVID-19クライシス#16】城戸 達雄(アメリカ・University of California San Francisco )

更新日:2021年2月15日

執筆者:城戸 達雄 執筆日:2020年5月10日 国名:アメリカ 所属:University of California San Francisco (UCSF) トピック:研究室運営、海外生活、雇用状況

doi: 10.34536/covid19-017 University of California San Francisco(UCSF)があるサンフランシスコ市は、アメリカ西海岸中程の小さな半島に位置している人口約90万人の都市です。今回のCOVID-19の感染拡大を受けて、サンフランシスコ市では3月17日に外出禁止(shelter-in-place)が始まりました。幸いなことに感染者数も死亡者数も低く抑えられていますが、外出禁止は何度か延長され、現在は5月31日まで継続する予定です。

UCSFはDentistry, Medicine, Nursing, Pharmacyのみの大学で付属病院を擁し、ミッションベイやパルナサスをはじめとする、大小10を超える複数のキャンパス及び関連機関を市内に構えています。ファカルティー3400人やポスドク1200人を含めた約3万人が働き、全体の歳出が$7billionにも及びます。研究資金として1300件近くのNIHグラントも獲得しており、非常に活発に医療・基礎生物学関連の研究が進められています。日本人も80人前後が、ポスドク、学生、ファカルティーなど様々な立場で活躍されています。しかしながら、外出禁止が始まった3月17日以降、医療部門はessential businessとして業務を続ける一方で、研究部門は原則的に実験を休止してリモートワークに切り替わりました。論文のリバイスやグラント申請の為の実験も戒められています。ただし、COVID-19関連の研究やマウス系統の維持、あるいは進行中の長期実験などはessentialな業務と位置づけられ、それらに従事するスタッフは事前に申告をした上で研究室に来ることが認められています(social distanceを取れるように、各研究室1〜2人程度)。大学では多くの実験動物が飼育されていますが、出勤できる飼育スタッフが減って施設の飼育能力が下がることが予想されるため、ケージ数を最小限にまで減らすることが求められました。加えて、飼育スタッフの不足に備えてボランティアの募集と飼育作業のトレーニングが行われています。

この原稿を書いている時点では外出禁止が続いているため、まだそれほどCOVID-19に関連する悩みや対応について周囲の情報は聞こえてきていません。普段は基礎生物系の研究生活を送っている私自身も、実験が滞ったり買い物が不便なことには困惑していますが、まだ悩むほどの状況ではないように感じています。給与に関しては、最大で128時間の特別有給休暇が認められています。また、今後影響が出てくるであろう学位論文やキャリア・就職活動に関するアドバイス・Q&A集を掲載したWEBサイトも充実してきており、相談窓口も設置されました。UCSFでは6月上旬頃から段階的に研究が再開される予定で、これから徐々に具体的な問題が表れてくるのではないかと思います。ですが、新規雇用に関しては既に厳しい方針が発表されました。上で説明したUCSFの歳出のうち60%余りが人件費に当たります。COVID-19の影響で医療部門が$90Mー$120M/月の減収となり、その他諸々の収入も著しく下がることが見込まれるため、来年の6月30日まで全てのポジションについて新規雇用をしないことが決まりました。ポスドクもこの対象になりますが、給与の扱いによっては例外措置で承認されるそうです。また、年度毎のファカルティーの昇給も見合わされる可能性があります。これらは厳しい方針のようにも感じますが、UCSFでは少なくとも6月30日までCOVID-19を理由としたlayoffが認められておらず、それ以降も可能な限りlayoffをせずに乗り切る為にやむを得ない決定だということです。

外出禁止令が解かれた後にもCOVID-19感染の第2波が到来する可能性があり、大学の研究再開プランの中でも”Co-existence with the virus, not recovery. We may need to turn back”と念押しされています。出口がまだ見えない状況の中、UCSFの日本人研究者間でもできるだけ情報を共有して、研究にまつわる問題や心理的なストレスを軽減することができればと考えています。


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