兼子 拓也 Takuya Kaneko, PhD.

(Department of Cell and Developmental Biology, University of Michigan Medical School)

【ミシガン州】 審査員: 三品裕司先生(Professor, University of Michigan School of Dentistry) 鎌田信彦先生(Assistant Professor, Internal Medicine, Division of Gastroenterology, University of Michigan Medical School)

​受賞者紹介

受賞者氏名:兼子拓也 研究分野:Neuroscience 留学期間:> 6 years 論文リンク https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(17)30558-5

​審査員コメント

生育環境が成熟してからの行動にどう影響するのかという問いに対し、ショウジョウバエの痛覚刺激と回避行動を利用して、セトロニンを介する神経回路のフィードバックがかかわることを証明した興味深い論文である。辛味物質への回避行動を体の回転運動として測定するなど、各所に工夫がみられる実験デザインである。この論文は筆頭著者のPhDワークの集大成であり、北米でポスドクとして基礎研究を続けるための土台となった論文でもある。(三品先生) 本論文はショウジョウバエを用い、幼児期(幼虫期)の痛覚刺激が成熟期の同様の刺激に対する寛容を誘導するメカニズムがセロトニンによる痛覚神経受容神経の修飾を介することを示した研究である。ヒトを含む哺乳類においても乳幼児期の環境刺激が将来的な同様の刺激への寛容を誘導し、食物アレルギーや自己免疫性疾患のリスクを減少させることはすることは示唆されており(主には免疫学的寛容であるが)、免疫学的寛容だけでなく幼児期の神経科学的寛容がこれら疾患に関与する可能性もあり興味深い。また、申請者の博士課程在学中の仕事が神経科学のトップジャーナルであるNeuronに掲載されたことも評価した。(鎌田先生)

​論文内容

動物は周囲の状況に応じて行動を選択する。このような“情報認識”および“反応行動”は体内を巡る神経細胞同士の回路によって成り立っている。周囲の外部情報は感覚刺激として感覚神経によって受容され、その情報は脳などの中枢へ伝達される。一方で、中枢神経系は運動神経に働きかけ、行動を導く。このように動物の根幹を担う神経系は、全てが遺伝情報に基づいて機能しているのではなく、環境に合わせて柔軟に性質を変化させる。それにより遺伝情報を共有する同一種内の個体間であっても、それぞれ固有の生育環境に適した行動が選択される。さらには、発生過程に周囲の環境から与えられた感覚刺激が、成熟期の神経機能に影響を及ぼし得ることも明らかになっている。しかし、どのように発生期の“経験”が、長期にわたり神経の働きに影響を与え続けるのかに関しては、未だ多くが謎に包まれている。この問いに答えるため我々は、ショウジョウバエ(Drosophila Melanogaster)幼虫の感覚神経系に着目した。ショウジョウバエ幼虫は、痛覚刺激(痛みの刺激、刺激性化学物質など)の多い環境で発生すると、成熟期において、痛覚刺激に対する忌避行動(体の回転行動)が抑制されることを我々はまず見出した。一方で、この痛覚刺激の経験は、振動刺激など他の刺激への応答に影響を与えなかった。さらに本研究において我々は、その神経メカニズムとして、セロトニンによる痛覚受容神経の修飾を明らかにした。中枢神経系のセロトニン分泌神経は痛覚受容神経の下流で活性化されると、痛覚受容神経の軸索末端に働きかけ、そこからの情報伝達を抑制するようである。重要なことに、発生期に痛覚刺激を多く経験した幼虫では、痛覚受容神経のセロトニン感受性が上昇し、実際に痛覚受容神経からの情報伝達は抑制されていた。したがって本研究により、痛覚刺激からの忌避行動が発生環境に応じて最適化されること、さらにそのメカニズムがセロトニンを介したフィードバック神経回路であることが明らかになった。このフィードバック神経回路を通じて、痛覚刺激に対する忌避行動のみが、発生環境に応じて特異的に調節されると考えられる。他の反応行動に影響を及ぼさず、痛み刺激に対する逃避行動のみを特異的に調整する仕組みによって、環境に適応し、生存率を上昇させていると考察できる。

​受賞者コメント

動物は周囲の状況に応じて行動を選択する。このような“情報認識”および“反応行動”は体内を巡る神経細胞同士の回路によって成り立っている。周囲の外部情報は感覚刺激として感覚神経によって受容され、その情報は脳などの中枢へ伝達される。一方で、中枢神経系は運動神経に働きかけ、行動を導く。このように動物の根幹を担う神経系は、全てが遺伝情報に基づいて機能しているのではなく、環境に合わせて柔軟に性質を変化させる。それにより遺伝情報を共有する同一種内の個体間であっても、それぞれ固有の生育環境に適した行動が選択される。さらには、発生過程に周囲の環境から与えられた感覚刺激が、成熟期の神経機能に影響を及ぼし得ることも明らかになっている。しかし、どのように発生期の“経験”が、長期にわたり神経の働きに影響を与え続けるのかに関しては、未だ多くが謎に包まれている。この問いに答えるため我々は、ショウジョウバエ(Drosophila Melanogaster)幼虫の感覚神経系に着目した。ショウジョウバエ幼虫は、痛覚刺激(痛みの刺激、刺激性化学物質など)の多い環境で発生すると、成熟期において、痛覚刺激に対する忌避行動(体の回転行動)が抑制されることを我々はまず見出した。一方で、この痛覚刺激の経験は、振動刺激など他の刺激への応答に影響を与えなかった。さらに本研究において我々は、その神経メカニズムとして、セロトニンによる痛覚受容神経の修飾を明らかにした。中枢神経系のセロトニン分泌神経は痛覚受容神経の下流で活性化されると、痛覚受容神経の軸索末端に働きかけ、そこからの情報伝達を抑制するようである。重要なことに、発生期に痛覚刺激を多く経験した幼虫では、痛覚受容神経のセロトニン感受性が上昇し、実際に痛覚受容神経からの情報伝達は抑制されていた。したがって本研究により、痛覚刺激からの忌避行動が発生環境に応じて最適化されること、さらにそのメカニズムがセロトニンを介したフィードバック神経回路であることが明らかになった。このフィードバック神経回路を通じて、痛覚刺激に対する忌避行動のみが、発生環境に応じて特異的に調節されると考えられる。他の反応行動に影響を及ぼさず、痛み刺激に対する逃避行動のみを特異的に調整する仕組みによって、環境に適応し、生存率を上昇させていると考察できる。

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