近年、AIやゲノム編集のような科学技術の発展によって社会や人間、さらには生命の在り方さえ大きく変わろうとしています。また、科学技術にはSDGsの達成や地球規模課題などへの対応が期待され、より良い社会の実現に貢献することが強く求められています。このような状況の中、諸外国においては“Innovative Public Engagement” 、すなわち、一般社会から多様なステークホルダーに研究に参画してもらうことでイノベーションを創出しようという動きが盛んになってきました*1。
その一方で、現在約200万人いると推定されている日本人研究者の家族の中には、配偶者のキャリアパスや子供の教育、親の介護等の問題で海外留学や研究継続を断念するというような不幸な「家族ブロック」の事例が少なくありません。社会の中でも最もイノベーションに近く、研究に参画しやすいところにいるはずの研究者家族がそのエコシステムに加わることができず、むしろ足枷になってしまっていると言っても過言ではありません。 こうした家族に関する懸念なく研究者が安心して研究に打ち込んだり、留学の道を選択したりすることができる環境を整えるためには、研究者の家族を支援する仕組みを作ることが一つの突破口になり、さらには研究者の家族とともにサイエンスを推進することができるのではないか。そのような考えのもと、研究を取り巻くステークホルダーと、家族を取り巻く社会的動向を重ね合わせたこの新たなサイエンス推進のビジョンに共感する国内外の行政、アカデミア・企業の研究者、研究助成機関、学術出版社、医療・教育・法務・会計・ビジネスの専門家、次世代コミュニティの推進者、そして研究者の家族自身の面々が集まり、連携を進めてきました。
具体的には、海外研究者の家族の課題解決に役立つ情報プラットフォームの構築や、配偶者のキャリア支援・子供の教育サポート等に向けた取り組みを予定しています。また、家族を伴って留学する場合、家族全員が生活するのに十分な資金を獲得するのが難しいことも多々あります。そのような状況を解決するため、研究者の家族が応募し自らが受給する給付金制度を設立し、今年(2020年)4月1日より応募を開始します。他にも、一般社団法人慶應反分野的サイエンス会(ASG-Keio)が2019年10月に開催した第1回反分野的生物医療学会(ABiSS)も後援させていただき、「研究を家族で一緒に理解し、支援する」をコンセプトに子育て中の女性研究者が乳児と一緒に参加するなど新しいスタイルの学会開催にも携わることができました。
現在、研究者と研究者を支える家族が抱えている課題を明らかにするために行ったアンケート調査(2020年1月末で終了)の解析を行っています。そこから浮かび上がってきた課題を解決すべく、大学、研究機関、企業、スタートアップなどとも連携し、当法人独自のアプローチで研究者の家族を支援する制度の構築に取り組んでいきたいと考えています。
また、この度UJAの連携団体として承認いただくことができました。ミシガン大学で開催されたUJA Midwest Conference 2019で我々の取り組みをお話しする機会をいただき、多くの方から反響を得られたことを大変嬉しく思っています。今後とも連携を進めながら、「未来の研究発展に不可欠である研究者家族の支援」を推し進めて行きます。
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https://www.cheiron/jp
NPO法人ケイロン・イニシアチブ
小林 沙羅(WGメンバー)
Alexandre Dupuis(理事)
大場 郁子(理事)
足立 春那(理事長)