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ベイエリア日本人整形外科の会のご紹介

Stanford大学

宇都宮 健


はじめに


「ベイエリア日本人整形外科の会」は、主に整形外科・リハビリ・筋骨格系領域における医療・研究の国際交流推進に寄与することを目的として活動しています。ベイエリア (カリフォルニア州サンフランシスコからシリコンバレー・サンノゼ一帯)で活躍する日本人整形外科医やリハビリテーション医、形成外科医、当地で勤務しているアスレチックトレーナーや整形外科技師、研究者、学生など多種多様なメンバーで構成され、2020年8月現在、13名の現役会員が所属しています。

発足から約8年間、現役会員同士のローカルな交流に加え、帰国後も同窓会を開催するなど「継続的なネットワーク」を構築し、専門分野や大学、企業の垣根を超えた多様性に富む繋がりとして発展し続けています (図1a)。海外でコミュニティを運営するにあたり、会員数の増減によって活動に影響が出ることや滞在中だけの関係に留まることは珍しくない中で、当会はサステナビリティの課題をうまく克服してきました。コミュニティ運営の一助になるべく、本稿では当会のこれまでの主たる活動とコロナ禍ならではの試みを紹介いたします。


これまでの歩み


当会は、2012年に「UCSF日本人整形外科の会」として、留学生活の情報交換や整形外科領域の臨床ならびに基礎研究の発展や融合を目指し、UCSFの長尾正人教授と留学生3名から始まりました 。その後、UCSFの臨床留学生および研究留学生が増えたことにより、定期的な勉強会に留まらず、施設訪問や他のコミュニティとの交流など活動が活性化されていきました。さらに、現地で活躍する整形外科技師やアスレチックトレーナーらが加わったことにより、多角的な視点から議論ができる環境が整い、勉強会に対する会員のモチベーションが高まっていきました。会が成長する傍ら、日本から研修や国際学会で訪れた整形外科・リハビリテーション医・研究者らとの交流も欠かさず、職種や所属組織、役職を超えた関係性が構築されていく中で会の認知度が向上していきました。2014年には同じベイエリアにあるStanford大学へ留学していた日本人整形外科医が加入し、留学生が増えたことを機に「ベイエリア日本人整形外科の会」へと名称を改め、現在に至ります(図1b)。


当会におけるコミュニティ活動の継続についての課題と取り組みの実際


日本人整形外科医師の留学スタイルは、1~2年間の臨床留学または2~3年間の研究留学に大別でき、当会においても会員数の変化は他のコミュニティと同様に決して少なくはありません。しかしながら、当会には「職種や所属を一切問わず、留学生活の情報交換や整形外科領域の臨床ならびに基礎研究の発展や融合を目指す」というわかりやすい主旨があることによって、短期の訪問者が気さくに参加しやすかったこともあり、留学生が少ない状況においても無理のない工夫を凝らした多種多様な交流が継続されてきました。このように年代や人数などの状況に応じて柔軟に対応しながら、臨床や基礎研究といったそれぞれの領域で活躍する専門家同士が共通点を見出して繋がる機会を提供し、気兼ねなく交流して共有・共感できる環境を整えることこそが、コミュニティ活動の継続に欠かせない要素であると考えています。そうした中で、それぞれの会員が自由に活動しながらも互いを信頼して支え合い、留学生活の苦楽を共にする中で良好な人間関係が何代にも渡って積み重なってきたことにより、今日の継続的なコミュニティ活動に至っています。


主な活動内容


隔月で開催される勉強会はUCSF・Stanford・San Jose 州立大学といった現役会員が所属する各施設持ち回りで行われ、基礎研究や臨床での疾患や外傷、リハビリまでを幅広くカバーする内容になっています。さらに臨床や基礎から企業案件までテーマを一切問わず、自己紹介として留学前の成果から留学中の取り組み、留学後の計画だけでなくゲストによる講演会も企画し、様々な地域・専門分野・職種の人々と多種多様な議論を活発に行なっています。学会とはまた異なる趣のフィードバックが得られることから、勉強会だけでは議論が止まず、白熱した懇親会になることもあり、参加者からも大変好評な企画となっています。さらに、近隣の施設訪問も活発に行っており(図1c)、整形外科という狭いカテゴリーではあっても米国における医療や研究の現場を目の当たりにすることによってイメージがより鮮明となります。具体的に日米間で比較することにより、自らの留学経験だけでは決して知りえなかった視点や価値観を得られるだけでなく、同時に視野を拡げることができ、当会ならではの有意義な機会を提供しています。


サンフランシスコベイエリアの特性として、整形外科医・リハビリ医・研究者・企業・学生など日本からの訪問者が総じて多く、交流を経て会の認知度が向上したことにより問い合わせや訪問依頼が増えました。その結果、留学予定者を紹介される機会も増加したため、留学前からサポートできる体制を整えることができ、当会はまさに日米の懸け橋として教育的な機能も担うようになりました(図2a-2b)。そして、UJAのような留学生を支援する機関だけでなく、JSPSサンフランシスコオフィスや在サンフランシスコ日本国総領事館といった政府機関との連携も欠かさず、会員が安心して異国で活躍できるよう、会として母国との情報共有も大事にしています。さらに、グローバルな交流の重要性を後世へ伝えるべく、異国にいる日本人として精力的に情報発信も行なっています。これまでに海外留学を通じた多様性の重要性についてUCSFの森岡が総説としてまとめ、コロナ禍での現状報告と取り組みについて会長であるUCSFの長尾教授とStanford大学の丸山がウェブ開催した東北整形災害外科学会で基調報告しています。


これらの地道な活動が現地にも浸透しはじめ、ボランティア活動の一環として2015年よりシリコンバレー大運動祭の救護班を毎年務めています。日本の文化である運動会を世界へ拡げる活動として始まったこの企画は、日本人を中心に毎回200人以上が一堂に会する現地の一大イベントと成長し、参加者全員が怪我なく楽しく参加できるよう、当会の会員が有する臨床のスキルを駆使して活動に貢献しています(図3a-3b)。


海と山に囲まれたこのエリアは一年を通して過ごしやすい気候に恵まれ、豊かな自然へのアクセスも良いことから、課外活動として、魚介類や肉、野菜といった海や山の幸をふんだんに使ったバーベキューなど季節ごとのイベントを通じて家族ぐるみの親睦を深めています。また米国の4大プロスポーツが全て揃った地域性と整形外科の専門性を活かして定期的なスポーツ観戦も欠かさず、会員全員で共感を憶える機会と思い出づくりを常に大事にしています(図4a-4c)。

帰国後も続く継続的なネットワーク構築


発足から8年間で実に50名超が当会に入会して苦楽を共にしてきたわけですが、他の多くのコミュニティと同様にメンバーが絶えず入れ替わることは例外ではありません。当会においても多くの会員は既に帰国しており、帰国先も日本国内で北から南まで多岐に及ぶため(図1a)、通常であれば留学時期の異なる人を知る由もありません。しかしながら、幸いなことに今度は当会に在籍していたことが新たな共通点となり、同時期に過ごした間柄ではなくとも様々な活動や思い出を共感・共有でき、苦楽を共にした盟友のようにSNS上でコミュニケーションが始まり、分け隔てのないネットワークが構築されています。期せずして生まれたこの貴重な繋がりは、当会に参加したことによって留学経験という人生の一大イベントがより思い出深いものとなったことでalumni memberに母校のような連帯感が育まれた賜物かもしれません。「留学を経験した西海岸は一生の思い出の地になるとともに、帰国後も当会は現在進行形で継続されているからこそ関心を持ち続けている」という有難いご意見を多くのalumni memberから頂いております。またなによりも、会長である長尾教授の朗らかな人間性や長年にわたる現地でのご活躍に皆が惹かれ続けていることが、メンバーが常に集まる原動力となり、当会が長年に渡り発展し続けている源だと思います。


その結果、2019年には初めての同窓会が日本整形外科学会中に開催され、世代を越えた多くのalumni memberが結集して旧交を温めただけでなく、新しい繋がりも生まれ大変な盛会となりました(図5a)。翌2020年にはコロナ禍のためオンラインを活用して、留学中の現役会員と多くのalumni memberが初めて直接繋がる同窓会を開催し、互いの活動に改めて敬意を抱くとともに、絆を深める貴重な機会となりました(図5b)。まさに当会を通じて世代を越えた「継続的なネットワークの構築」を具現化しており、留学したからこそ、入会したからこその有意義な出会いを提供しています。


おわりに


我々「ベイエリア日本人整形外科の会」は、専門領域に特化したコミュニティですが、会長の長尾教授が掲げるボーダーレスな交流を深めるという理念に従って情報発信に留まらず情報共有を重んじ、当会ならではの特色を活かして日米交流の促進に尽力しています。当会は発足から8年が経過し、施設訪問者や短期留学者を含め800人以上と交流してきました。むしろ狭い共通点だからこそ多くの共感を得ることができ、単なる情報交換だけでなく時には各人が抱える課題を解決するために知恵や経験を共有し、一致団結する機会を通じて強い絆が生まれています。留学前にはつい躊躇してしまうことの多かった大学や役職、世代、職種などの垣根を超えたコミュニケーションについても、会員は当会を通じた経験を活かすこともでき留学中ならではの多様性を身に付け、うまく活用できるようになっています。


当会は現在、コロナ禍の影響のために御多分に漏れず従来の対面での活動が難しい状況にありますが、逆にオンラインを活用した情報交換を兼ねた勉強会という新しい試みを円滑に行なうことができています。開催を継続することにより定期的な活動として日常生活に浸透してきていることから、来たるnew normalライフスタイルへの一つの方向性を体感かつ提示できているのではないかと考えています。


発足から10年近くもの間、整形外科に関連する狭い共通点だけで見知らぬ日本人が異国で集まり、マインドを共有しながら世代を超え、国境を越えてコミュニティが運営されていることは非常に嬉しい結果です。一方で、米国政府からビザについて更新制度が撤廃される改正案が示されるなど、今後さらなる留学生の減少が懸念され、引き続き日本人が海外で活躍するためにはこれまで以上にコミュニティ活動を継承・発展させていく必要があります。一生涯の繋がりを築けることが留学の醍醐味の一つですが、当会はその一翼を担い留学をかけがえのない人生経験にするプライスレスなサポートを提供するだけでなく、グローバルな交流の重要性を次世代へ伝えられるよう取り組んでいきたいと考えています。


職種や分野を問わず「ベイエリア日本人整形外科の会」にご興味がございましたら、文末の連絡先までお気軽にご連絡ください。


謝辞


本稿を執筆する貴重な機会を与えて頂きましたUJA Gazette編集部の皆様に感謝を申し上げます。また大変僭越ながら、会を代表して本稿の執筆という大任を与えて頂いた会長の長尾教授や森岡先生に拝謝するとともに、コロナ禍にあっても活動を共にしてきた現役会員の皆様から大きなサポートを頂きましたことを厚く御礼申し上げます。最後に、帰国後も変わらず交流を続け、当会の活動を支えてくださるalumni memberの皆様に心から敬意と感謝の意を表します。

(文責:ベイエリア日本人整形外科の会 2020年当番幹事 宇都宮 健)


著者略歴


宇都宮 健


2009年長崎大学医学部医学科卒業。2011年初期臨床研修医修了後、九州大学整形外科入局。2015年九州大学大学院医学系学府機能制御医学専攻。2016年日本整形外科学会専門医。2019年学位取得 (医学博士)。2019年Stanford大学整形外科Goodman Laboratory Postdoctoral research fellow。


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