UJA法律相談所 —第3回—

Augen Law Offices P.C.

古川 裕実


みなさま、こんにちは。波乱の2020年が終わり、2021年を迎えました。アメリカでは、年明け早々に首都ワシントンDCで民衆による暴動が起き、国会議事堂が襲撃されて死者を出すなど、衝撃的な事件を目の当たりにすることになりましたが、バイデン大統領は無事に就任し、政策の大転換が行われています。新型コロナウィルスのワクチン接種も世界各地で始まり、パンデミックの終焉に向けた新たなフェーズに入ってきましたね。


今回は、バイデン大統領による米国移民政策の展望と、申請時期が近づいてきました発行上限数(Cap)のあるH1Bビザ申請に関してお届けします。



トランプ政権下での移民政策の振り返り


トランプ政権は、自国民の優先・移民に対する強硬姿勢を政策の要とし、トランプ元大統領は、在任中、既存の移民制度の廃止や数々の大統領令による移民の制限を行ってきました。記憶に新しいところでは、新型コロナウィルスの蔓延に伴う失業者の増加への手当てを名目として、一時的にH1BやL1、一部のJビザの新規発行や、米国への入国を制限する大統領令がありました。また、大きなものの例として、いわゆる“ムスリム・バン”や、DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals – 主として幼少期に親に連れられて米国に到着した不法移民の強制退去を遅らせ、救済する制度)の廃止への努力、亡命者家族も含めた国境での家族の分離収容、メキシコとの国境の壁の建設などがありました。


1. “ムスリム・バン”


2017年1月27日にトランプ元大統領が署名した大統領令に端を発する入国制限措置で、7つのイスラム教国を対象にしていたため、“ムスリム・バン”などと呼ばれました。この大統領令は特定の宗教に対する不当な制限であるなどとして法廷で争われ、大統領令の仮差止めが発令されました。これへの対応として仮差止めを避けるべく修正された大統領令が発令され、最終的には、2018年6月26日、3回目に出された大統領令が最高裁に適法性を認められるに至りました。


2. DACAの廃止への努力


DACAは、オバマ政権が2012年6月に導入した制度で、この制度により保護される若年者は”Dreamer”と呼ばれています。60万人以上いるとされるDreamerは、米国で基礎教育を受け、英語を母語とし、帰るべき母国を知らない若年者であるところ、DACAで保護されることにより、米国での継続的な就学や就労を可能にしています。他方で、大統領令により移民法を無期限に回避する施策であるなどの批判もあり、トランプ元大統領は、2016年の選挙中からDACAの廃止を公約に掲げ、2017年9月にはDACAの新規申請の受付けを停止しました。しかし、最終的には2020年6月18日、連邦最高裁によって、トランプ元大統領のDACAを廃止する決定は違法であると判断され、DACAは存続することとなりました。


3. 国境での家族の分離収容


また、トランプ元大統領は、”Zero Tolerance(不寛容)”を掲げた移民政策の下、亡命者も含め、適切なビザまたはビザ免除の資格を持たずにメキシコ国境を越えて入国した成人を全て刑事訴追し、収監してきました。この起訴された成人の未成年の子どもは犯罪に問われないため、子どもらは親から離されて収容施設に入れられるか、里親制度に組み込まれることになりました。この政策の実施により分離した家族は数千人に及び、中にはそれぞれの家族の行き先がわからなくなった家族もありました。国際的な批判を受けて2018年6月に家族分離の方針を大統領令により撤回するに至りましたが、2020年11月時点で600名以上の子どもの親の行き先がわからないままであるようです。


4. メキシコ国境の壁建設


2016年の選挙中から公約に掲げ、「メキシコ政府に支払わせる」と嘯いていた、メキシコ国境線上の壁の建設ですが、メキシコ政府が拒否したことにより建設費用の見積り額である150億ドルは米政府が支払うことになりました。トランプ元大統領の就任中に384マイル(そのうち新設は40マイル)が建設されましたが、テキサス州の国境沿いなどの私有地が多い地域では、地主の強い抵抗に遭い、あまり建設が進みませんでした。



バイデン大統領の大統領令


バイデン大統領は、”Unite”をキーワードとして、米国の一体性を高める政策を推進しています。これは、米国内の断絶を深める結果となったトランプ政権の政策からの大きな方向転換を促すものであり、この実現のため、バイデン大統領は、就任から数日の間に過去最高とも言われる数の大統領令を出し、トランプ政権下で発令された大統領令を覆しています。就任式直後に署名された大統領令のうち、移民法に関しては、以下のような大統領令が出されました。今後も、バイデン大統領が副大統領を務めていたオバマ政権下で取られていた移民融和的な政策が取られることが予想されていますので、移民として米国で暮らしていても、少しは息がしやすくなるでしょうか。


1. “ムスリム・バン”の正式な終了


まず、いわゆる“ムスリム・バン”は、大統領令により、全て正式に撤回されました。


2. DACAの強化とDreamerの市民権取得への道


また、バイデン大統領は、DACAの維持と強化について大統領令を出しています。これを支持する法律を作成することも示唆しており、これまで制度として存在しなかったDreamerが市民権を得るための道筋を作る法律を作成することを提言しています。


3. 壁建設の終わり


さらに、バイデン大統領は、壁建設を可能にする一助となっていた国家緊急事態宣言を即時に終了し、メキシコ国境の壁建設の停止と、予算の振り分けについての大統領令を出しました。



H1B Cap Season


いわゆるCap付きH1Bの申請手続きが3月9日から始まります。H1Bは、専門職に従事して米国で一時的に就労するための滞在資格で、申請にあたっては、就労ポジションと学位との関連性や、学位がない場合は一定以上の職務経験、また一定以上額の賃金の支払いなどの要件があり、雇用者がスポンサーとなって申請します。ここにいう「専門職」は、通常学士以上の学歴を要求する職種であることが求められます。当初の申請では3年まで申請可能であり、最大6年まで延長可能です。H1Bは”dual intent(移民目的と非移民目的の競合)”が認められていますので、グリーンカードを取得する場合は、H1B資格からグリーンカード申請することが一般的に行われています。


1. Capped or Cap-Exempt


H1Bには、発行上限数の定め(H1B Cap)のあるものと、定めのないもの(Cap-Exempt)があります。Cap-Exemptは、主に大学などの高等教育機関やその他非営利の研究機関などがスポンサーとなる場合に申請可能で、研究者がH1B資格を得る場合は、多くがこのCap-ExemptのH1Bを取得します。企業などが就労予定者のためにH1B資格の申請をする場合には、Cap付きH1Bの申請をすることになります。Cap-Exempt対象の雇用者からからH1B Cap対象の雇用者に転職する場合は、多くの場合、新たなCap付きH1Bの申請が必要になりますので、転職などをご検討の際にはご注意ください。H1B Capは、学士以上の学歴のある者について65,000、修士以上の学歴のある者について追加で20,000の合計85,000が用意されています。多くの場合、申請希望者数がH1B Capを大幅に超えるので、抽選が行われます。


2. 手続き概要


Cap付きH1Bは、申請する年の10月1日以降からの雇用について、雇用開始予定日の6ヶ月前から申請が可能です。この申請に先立って、まず雇用者は、一定期間内にUSCISに申請予定者を電子登録し、抽選結果を待ちます。抽選に当たれば、その通知から90日以内にH1B申請を行うことになります。H1B申請は、追加費用($2,500)を支払うことで早期審査(Premium Processing)の請求が可能で、この場合は、15日以内に申請の審査結果を受け取ることができます。H1B申請の申請費用は、会社の規模や従業員の構成などにより異なり、$1,710〜$6,460で、これに加えて弁護士費用がかかることが多いです。

3. 留意点


H1Bの申請準備には、2〜3ヶ月かかることがあります。十分に余裕を持って申請できるよう、申請予定の年の1月頃から雇用者との間で調整を開始し、弁護士に依頼するようにされてください。

H1B申請にかかる費用は、USCISへの申請料・弁護士費用共に、雇用者が負担するように法律に定められています。違反した場合、H1B資格の剥奪や当該雇用者から以後のH1B申請ができなくなる等の結果が生じることがありますので、十分にご注意ください。


OPT期間中にH1B申請をしたが、OPTが10月1日より前に満了する場合、満了日から10月1日まではCap GapとしてOPTが継続される取り扱いがされます。I-20の発行者側での手続きが必要になりますので、H1B申請をした場合には必ずI-20の発行者にご報告ください。



ご相談をお待ちしています!


引き続き、皆様が日常生活で感じた法律に関する疑問や、興味関心のある米国の法律分野など、その他日米の法律に関することについて、随時ご質問を募集しています。また、UJAを通じた法律相談の一部は無料相談としていますので、個別の法律相談がある場合も気軽にご連絡ください。


著者略歴

2004年早稲田大学法学部卒業。2006年弁護士登録(59期。現在は一時的に登録抹消中。)。2012年University of Washington School of Law (LLM in Intellectual Law & Policy)卒。長島大野常松法律事務所(2006年〜2015年)、Davis Wright Tremaine LLP(Seattle Office, 2012年〜2013年)、Augen Law Offices(2015年〜2019年)を経て、2019年よりAugen Law Offices P.C.。

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