アメリカの教育現場から: 地域社会との繋がりを目指す日本語言語教育 – IUPUI日本語プログラムの取り組み

更新日:5月21日

インディアナ大学

栗山 恵子

2020年に私は被爆者の声を聞く機会を2回得ました。広島で被爆し、その後アメリカで教育を受け、80歳を超えた今でも日本語と英語で講演活動をしている被爆者の話に私は心を揺さぶられました。全力で自分の経験を話し、平和の尊さを伝え、生きていることの尊さ、愛情の大切さを伝える素晴らしい講演でした。お礼を言いに行くと、逆に「あなたに会えて良かった。科学者の皆さんに日本と世界の未来を頼みますとお伝えしてください。」深々と頭を下げてお願いされたのです。この講演をオーガナイズしたのは、インディアナ大学インディアナポリス校の栗山先生とハリス先生でした。お二人の日本とアメリカを結ぶ素晴らしい活動をぜひ紹介して頂きたいと思い、UJAガゼットへの寄稿を依頼させて頂きました。素晴らしい記事を寄稿してくださったお二人にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。また、お二人の活動を通してアメリカの若者に日米の友好と平和の輪が広がって行くことを心から願っています。 
インディアナ大学
河野 龍義

はじめまして。米国インディアナ州、インディアナ大学インディアナポリス校(以下IUPUI)で日本語プログラム主任を務めている栗山恵子と申します。私は2014年の秋学期からここIUPUIで日本語、日本文化、また日本語翻訳セミナーなどのコースを教えています。


Japanese Olympiad of Indiana での日本語プログラム学生ボランティア(筆者中央)

IUPUI日本語プログラムの在籍学生数は約200名で教員は4名、現在14名の学生が日本語を専攻、39名の学生が日本語を副専攻としています。日本語を専攻する学生だけでなく、言語学、歴史、文化人類学、機械工学、コンピューター工学、ミディア・アーツ、経営・ビジネス、化学、生物学と様々な分野を専攻する学生達がいます。いつか日本に行ってみたい、日本のポップカルチャーが大好きだという学生です。


白鴎大学との交換留学プログラムを通し、これまで47名の学生達を日本へ派遣しました。また、英語学部が主催する短期英語研修プログラムを通して、白鴎大学、および津田塾大学から毎夏多くの日本人学生を本学に迎え入れています。日本語プログラムの学生の多くは会話パートナーとして活躍したり、プログラム開催中に行われる交流会(通称:寿司・ピザパーティ)に参加したりと、日本人学生との交流機会があります。


本学には、「ヘルスケア諸分野における異文化理解」という短期日本研修プログラムがあります。私は引率者として、ほぼ毎年6月に7-8名のサイエンス・スクールの学部生達を日本に連れていきます。東京を拠点に、周辺にある大学病院、医療研究所、助産院センター、リハビリ・センターなどを見学・訪問し、2泊3日の京都・広島遠征旅行も含まれます。このプログラムに参加する学生の日本語学習歴は基本的にゼロで、出発前は日本の医療制度について学ぶほか、日本での滞在に最低限必要な日本語を学びます。滞在中は、寝る時間も惜しんで日本を楽しんでいる学生の様子を目に留め、これほど嬉しいことはありません。毎年何かとハプニングが起きるのですが、中でも一番心に残っているのは、品川駅で2人の学生がいなくなったことです。午後5時のラッシュアワーの中、重いスーツケースを引きずっての移動、気づいた時には二人の学生の姿がありませんでした。結局15分後に再会できたのですが、翌年からは、ラッシュ・アワーの品川駅は避けることにしました。その他、1日だけあるフリー・デーにJRパスを利用し北海道まで旅をする学生、ダンキンドーナツやコンビニのおにぎりが美味しいと絶唱する学生、自動販売機の飲み物の種類の多さに感動する学生等々、そんな彼らとの2週間の研修は毎日とても愉快です。最終日には泣きながら、ハグをして「先生ありがとうございました」と言ってくれる学生たち。私はこのプログラムの引率がとても好きなので、今後も引き続き学生達を連れて日本を訪問したいと思っています。


さて、今秋学期は、新型コロナ・ウイルスの影響で1年生の登録者数が減ったものの、ここ数年は定員数を上回る登録状況が続いており、定員数を繰り上げて対応しています。日本語や日本文化に興味を持ってくれるアメリカ人学生が大勢いることは、大変喜ばしい限りで、日本語プログラム教員一同、学生の期待に応えられるよう、日本語会話テーブル、茶道デモンストレーション、毎年恒例のホリデー・パーティーやスピーチナイトを行なってきました。ここ数年は大規模なイベントにも取り組みました。まず、2018年の春学期に日本語を学ぶ高校生が競い合うJapanese Olympiad of Indiana(JOI)を主催、インディアナ州にある9つの高校から100名以上の生徒が参加しました。JOI当日は日本から三味線・尺八演奏家の松本梅頌先生を招待し、民謡コンサートも開催し、インディアナ日本人会、日本語補習校、インディアナポリス、および近郊に在住されている地元の方々にも楽しんでもらいました。2019年の秋学期には、インディアナ日米協会と共催し、インディアナ州では初めての日系企業中心のジョブ・フェアも開催しました。このジョブ・フェアには30の企業・教育団体から約50名の代表者の方々が参加されました。そして、IUPUIの日本語プログラムの学生だけでなく、州内のパデュー・ボール・ステイト、アーラム、インディアナ大学の日本語プログラムの学生達180名が参加し、大盛況に終わりました。また同年には学生と日本語プログラムの「パプリカ」プロモーショナル・ミュージックビデオも作成し、ユーチューブで配信しましたので、ご興味がおありの方はぜひご覧ください。


ジョブ・フェアでの日本語プログラム学生ボランティアのみなさん

このようなイベントを開催する際に特に気をつけているのは、学習者中心のイベントであること、すなわち学生が地域社会の一員として、様々な場面で社会参加できる機会を与えるという点です。学生はイベントの企画、広報、運営とできる限り多くの企画事業に関わります。例えば、ポスター・デザイン、ソーシャル・メディアを使った広告の作成、イベントのボランティア・スタッフや司会をも務めます。学生達は教員が期待する以上の才能や行動力を発揮してくれ、こちらが驚かされるばかりです。実際にイベントに参加した学生達からも大好きな日本語や日本文化を通して参加者に貢献できたことが嬉しかった、もっとこのような機会をもうけてほしい、大学生活において忘れられない思い出になったなど、非常にポジティブなコメントをもらっています。


今後も、様々な学習者中心のイベントを開催し、学生達が地域社会の一員として、日本語や日本文化を通して、社会参加できる機会を設けていきたいと思っています。


謝辞


上記のJOI 及び、民謡コンサートはIUPUIのWelcome Campus Innovation Fund Awardから、ジョブ・フェアはJapan Foundation New York からCo-PIとしてGEN-J Special Activity Fundのご支援を頂きました。


著者略歴


栗山 恵子。2007年ニューヨーク州立大学バッファロー校言語学部博士課程修了。プリンストン大学東アジア学部専任講師、ランドルフ大学アジア研究学科助教、インディアナ大学東アジア言語文化学科助教、インディアナ大学インディアナポリス校外国語学科専任講師、同主任講師を経て、2018年より同特定准教授、日本語プログラム主任。