オンライン時代の大学院留学

大学院留学支援コミュニティXPLANE

上原 大樹

末岡 陽太朗


はじめに


大学院留学支援コミュニティXPLANEは、大学院留学がもっと身近な選択肢の1つとなることを目指し、海外大学院留学に関する情報発信や留学生コミュニティの相互交流促進を行っている留学支援団体です。 様々な面においてグローバル化が進展している昨今、教育や研究の機会を求めて海を渡ることを志す日本人が増えているように感じられる一方で、海外大学院留学にチャレンジするハードルがまだまだ高いこともまた事実です。そもそもどのように受験をし、希望のプログラムに合格することができるのか、入学してからどのように周りに適応していけばいいのか、卒業後のキャリアはどう探せばいいのか、海外の教育研究プログラムに進学するという選択をするからこその悩みはつきません。 XPLANEでは海外大学院進学を目指す方々や留学中の現役大学院生、さらに留学を経験した既卒生をつなぐ包括的な留学生コミュニティの運営を通して場所・世代を問わず繋がる場を提供することを目的としています。海外大学院留学をより身近に感じられるよう、本稿ではXPLANEのこれまでの活動について紹介させていただきたいと思います。


これまでの歩み


2021年8月に一般社団法人として正式に発足したXPLANEですが、その活動は2018年末まで遡ります。これまで個人ブログでの情報発信や単発的な留学説明イベント等しかなく包括的な支援が行われていなかった「海外大学院留学」に特化するため、有志の海外大学・大学院生が「留学」を共通項に留学情報発信やキャリアイベント等を行うSELDOONという団体の活動の一環として発足したのがXPLANEでした。活動初期は団体ウェブサイトを通じて現役大学院生への大規模アンケートや個人の体験談を元にした受験情報全般や生活事情を紹介していきました。



しかし、このウェブサイトを用いた一方向性の情報発信だけでは今日の大学院留学支援活動において解決しなくてはならない問題である「留学支援の局所集中化」の根本的解決には繋がらないという危機感が運営メンバー間にありました。


私たちは「留学支援の局所集中化」を、留学志向の強い人や留学経験者で形成されるコミュニティに所属している人、もしくはそのコミュニティにアクセスのある人だけが留学に関する情報を手に入れられたり出願書類の添削など直接的な支援を受けられ、そしてその支援を受けた人がまたそのコミュニティにメンターとして所属し情報がそのコミュニティ内だけで受け継がれていく、といったある特定のコミュニティだけで大学院留学がより身近になりハードルが下がっていくことと定義しています。


例えば、海外大学院進学者を多く輩出している大学や研究室ではそこに現在所属する学生達にとって大学院留学はすでに身近な選択肢の1つとなっていて、指導教官の海外大学院進学や海外の推薦状文化への理解もあり、先輩達からの留学情報や出願書類の準備の支援、奨学金の情報など様々な面で留学準備のためのハードルが下がっていることでしょう。


こういった海外挑戦に理想的な環境と比べて、今まで誰も海外大学院に進学はおろか出願すらしたことがない大学・研究室所属の学生にどれほどの情報格差・大学院留学への挑戦に抱く心理的ハードルがあるかは明らかです。この支援の局所集中化は運営メンバー自身の肌感覚や、前述の現役海外大学院生へのアンケート項目の1つとして集めた「大学院留学以前、どこに所属していましたか?」という質問に対する大きく偏った回答結果からみても、解決するべき問題として確かに存在していると思います。


そういった現状を打破したいという想いから、海外大学院進学を目指す方々誰もが相互に繋がり、留学中の現役海外大学院生や留学を経験した既卒生に質問したり交流したりすることができる「オンライン」留学生コミュニティを開設しました。


Slackをプラットフォームとして利用し口コミでメンバーが徐々に増えていったXPLANEオンラインコミュニティでしたが、活動の重要性が顕著に表れたのはコロナ禍の2020年でした。世界全体でオフラインでの情報収集・交流の場が少なくなり、未曾有の事態の只中で大学院留学を目指す方々の間でも受験や進学の不安が募る中、オンラインでの交流プラットフォームの必要性が増していきました。


この年の5月に開催された研究分野ごとの留学志望者・現役留学生交流会を皮切りに、現在のXPLANEの活動の核となるイベント企画が数多く始動しました。その中でも一際大きく留学支援に貢献した企画としてSOP(Statement of Purpose)執筆支援プログラムが挙げられます。大学院受験を控える受験生それぞれにXPLANEオンラインコミュニティ内の大学院生・既卒生がメンターとして付き、エッセイを一緒に完成させていくというプログラムです。


最終的に40組弱のマッチングが成立しエッセイ執筆の支援することができました。直接的な添削に加えて英語ライティングの専門家を講師として招待しオンラインでのエッセイ書き方講座やメンター向けのライティングコーチング講座なども開催しました。出身校も経歴も全く違う、オフラインでは直接出会ったこともない受験生と現在海外大学院に通う先輩達がXPLANEのオンラインコミュニティを通して繋がり、そこから大学院留学に関するアドバイスを受け合格を勝ち取るという、XPLANEが掲げるモットーを体現化したかのようなプログラムとなりました。


2021年に入ってからは、UJAと共同で申請した米国国務省・在日米国大使館による留学支援活動助成プログラム(Promoting Study-in-the-United-States and Fostering English Language Learning Program)に採択され、8月には非営利徹底型一般社団法人として認可が下りたことから、活動の幅を大きく広げていくこととなりました。


XPLANE発足当初から掲げている「大学院留学をもっと身近に」という志はそのままに、活動資金の拡充に伴い運営メンバーがもっと自由にアイディアを出し合い情報発信コンテンツやイベントを企画していくことでより多様なニーズに対応することができる団体となるよう、これからも活動していきたいと思います。


活動内容


XPLANEではSlackとウェブサイトの二つの媒体を使って交流や情報発信を行っています。ここではその活動の一部を紹介していきたいと思います(図)。


~Slackを用いたメンバー間の交流~


XPLANEの存在意義の1つは留学生と留学志望者・既卒者がつながる空間を提供することです。そのために、XPLANEのSlackグループではさまざまな共通項をもとに交流できるチャンネルを提供しています。


受験の手順から出入国の際の書類まで一般性の高い質問を投げられる質問相談チャンネルから、より専門性の高い内容についての質問・議論ができる分野別チャンネル(神経科学・経済学・宇宙工学など)、その年の受験生同士で情報交換を行えるチャンネル、留学国地域別チャンネルなどが揃っており、メンバ―間で相互に質問相談をすることで1300人以上が参加する(2021年11月現在)コミュニティの集合知を最大限活用しています。加えて非営利型一般社団法人設立に伴いSlack加入プランをアップグレードし過去に投稿された質問やチャンネルの履歴全てをいつでも遡ることができるようにしたため、それぞれのチャンネルにコミュニティのノウハウが蓄積されていく様子が目に見えてわかります。


もちろんメンバー間の交流は大学院留学に関する質疑応答というドライな関係だけではありません。同じ趣味を持ったメンバーが話し合うことができる趣味チャンネルはとても活発で、ゲームチャンネルでは定期的にオンラインでゲーム対戦を行っていたり、料理チャンネルでは最近ハマっているレシピを共有したりなど、アカデミックな内容を離れての交流を通して本来の意味でのつながりが形成されているのではないかと思っています。コロナ禍が落ち着いていけば、XPLANEコミュニティを通じたオフライン→オンラインという当初の流れからオンライン→オフラインのつながりも発展していくのではないでしょうか。

~海外大学院の受験サポート~

XPLANEのミッションの1つとして海外大学院への進学のハードルを下げる、というものがあります。そのハードルの大きな一因となっているのが受験の際に必要なエッセイです。アメリカやヨーロッパなどの多くの大学では受験時に推薦状や成績、テストのスコア以外にStatement of Purpose(SOP)やDiversity Statementなどのエッセイを提出しなければなりませんが、これは普段エッセイを書きなれていない人には大きな壁として立ちはだかります。


この問題をサポートするため、XPLANEではSOP執筆支援プログラムを開講しています。二年目を迎えた昨年は約70人の受験生に対して、志望大学に通っている若しくは分野が近い海外大学院生にメンターとなってもらい、オンラインでエッセイ執筆の支援を行っています。


さらにXPLANEのSOP執筆支援プログラムは、1人の受験生につきメインメンターに加えて専攻や大学、留学志望国が異なるサブメンターが付く「サブメンター制度」という仕組みとなっています。これは同じ専攻やバックグラウンドのメインメンターからの支援だけではなく、留学志望者自身と大きく異なる専門・研究・経験をしているサブメンターがそのエッセイを読んで感じたフィードバックもより良いSOP執筆のために重要だと考えられるからです。ネイティブスピーカーによる支援と異なり、同様に非日本語のエッセイを苦労しながら書いたメンターだからこそできるアドバイスを通して、メンティーと三人四脚でのエッセイの完成を目指しています。

~オンラインでのイベント開催~

XPLANEコミュニティ内外の留学に関係している人たちとつながりを作ることもオンラインプラットフォームならではの醍醐味ではないでしょうか。 月例で行っている研究交流イベント「XPLANE CAFÉ」はコミュニティに所属する海外大学院生二名を招待し、各人が大学院で行っている研究について他専攻の人でもわかるように発表をしていただくサイエンスコミュニケーションイベントです。これまで人工知能の医療応用からアメリカ文学研究まで、様々なトピックについて発表していただきました。 その他にも、専門家をお呼びして留学生のメンタルヘルスや健康に関するトークセッションを行ったり、UJAやトビタテ!留学JAPANと共同でのパネルディスカッション・キャリアイベントを開催したりと、「留学」というキーワードからコミュニティ内外でオンラインのつながりが広がっています。これからもより多くのテーマの情報発信・交流ができたらと考えています。

~オンラインでの留学情報発信~

これまで挙げてきたような留学に関係する情報を一か所にまとめるプラットフォームとして、XPLANEではウェブサイトを運営しています。海外大学院の受験プロセスやエッセイの書き方のコツなどの情報はもちろんのこと、海外大学院の受験生からの生の声や海外の学部受験など多種多様なテーマでの記事・コラムも掲載しています。 また、PodcastやYouTubeといった様々なメディアを使っての留学情報発信も行なっています。Podcastでは運営メンバーをパーソナリティ、コミュニティメンバーをゲストとした対談形式で留学に関する様々なトピックに関してざっくばらんに議論・会話をしていき、毎週金曜日に定期配信しています。YouTubeではSlackコミュニティに所属する人や外部の方がいつでも見られるようにXPLANEが開催したオンラインイベントをアーカイブ配信しています。

最後に

大学院留学にまつわる様々なニーズに答えるため活動しているXPLANEですが、一番の強みは必要だと思うコンテンツをコミュニティ内のメンバーが提案し、他のメンバーたちと実装していくという自給自足のコミュニティとなっていることです。今後さらに留学をサポートするコンテンツを制作し、また交流の場を提供し続けられることを祈って筆を置くこととします。


謝辞

イベントやプロジェクトの共催を通して日頃からXPLANEの活動を支えていただき、また本稿の執筆の機会を与えていただいたUJAの皆様に、心からの感謝の意を表します。



著者略歴

上原 大樹。大学院留学支援コミュニティXPLANE代表理事。 東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業後、The University of Texas at Austin, Department of Aerospace EngineeringにてPhDを2019年に取得。大学院卒業後から現在までノースカロライナ州でホンダの航空機事業子会社として小型ビジネスジェットHondaJetの開発製造販売を手がけるHonda Aircraft Companyにて航空機エンジニアとして勤務。

末岡 陽太朗。大学院留学支援コミュニティXPLANE理事。 2020年Massachusetts Institute of Technology 生物工学科・神経科学科を卒業。現在は Johns Hopkins University 神経科学科のPhD課程に所属し、海馬での記憶形成について研究している。