東北大学
別所-上原 奏子
名古屋大学
別所-上原 学
私たちは夫婦ともにポスドクとしてカリフォルニア州ベイエリア近郊に研究留学をしました。2018年から2020年の2年間という短い間でしたが、様々な文化や研究環境の違いに触れ、アメリカという国を少し知ることができたように感じています。私たちはそれぞれ、Stanford大学構内にあるCarnegie institution(奏子)と、Moss LandingにあるMonterey Bay Aquarium Research Institute(MBARI)(学)に所属していました。本稿では、各研究所でのインターンシップを取り上げ、アメリカにおける多様なキャリア形成についてご紹介したいと思います。期間が長いことや有給であるなどの点で日本のものとは大きく異なるので、これからインターンシップを考えている学部生や大学院生の参考になれば幸いです。
インターンシップの概略
アメリカでは通常6月から8月の夏休み期間に、おもに学部学生が各地の研究所や企業に3ヶ月ほど受け入れてもらい、実地研修を積むというサマーインターンがあります。たいていインターン先の研究所や企業で働いているポスドクや社員がメンターとなり、インターン生の研究を指導します。インターン生には給与が支払われ、研究実績を積むことができます。期間限定の職員として給与が発生するため、その選考は厳しく、書類審査だけでなく面接があるところも少なくありません。給与は研究所もしくは会社から支給され、採用人数は限定されていますが、人気の研究室であれば1人の枠に100件以上の応募がある年もあります。アメリカでは就職の際に新卒一括採用というものが無く、何かしらの技術・経験を持った人が優遇されるため、多くの学生は夏休みの間に技術や経験を積むためインターンシップに奮って応募します。メンターとなるポスドクにとっては教育経験を培えて履歴書に記載できますし、良い学生をとることができれば研究も2人分進めることができます。私たちもメンターとしてインターン生と交流し、制度の違いやキャリアに対する考え方の日本人との違いなどを学びました。
Carnegie Institutionでのサマーインターンシップ(別所-上原 奏子 著)
Carnegie Institutionは、鉄鋼王と呼ばれたAndrew Carnegie氏が設立したカーネギー財団が運営している私営の研究所で、異なる6つの研究分野を持ち、特に発生学や天文学の研究で名を馳せています(2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑博士もCarnegie Institutionでポスドクをされていました)。私(奏子)の所属していたDepartment of Plant Biology(略称DPB)は、植物の光受容体の1つであるフォトトロピンを発見して国際生物学賞を受賞した故Winslow Briggs博士が所属していた由緒ある研究所として認知されており、小規模ながらも良質な論文をコンスタントに報告するなど、質の高い研究ができる「通好み」の研究所と考えられています。
私は、日本では野生イネと栽培イネを用いて栽培化に関わる遺伝子の同定および機能解析を行っていましたが(1,2)、新しい技術を学ぶためアメリカ留学を決意しました。JSPS海外特別研究員としてZhiyong Wang博士の研究室に所属し、研究材料をシロイヌナズナというモデル植物に変え、植物の形態形成に関わる遺伝子の解析を行うことが目的でした。Wang博士はプロテオーム解析のプロフェッショナルであり、特に近年注目を浴びているTurboIDという近接タンパク質同定技術に精通していました(3)。私は彼のもとでその技術を学びながら、目的タンパク質と相互作用する新規因子の探索に励んでいました。
Carnegie Institutionでは毎年1月ごろサマーインターンの募集を開始し、各研究室2-3名、トータル15名ほどのインターンを受け入れます。Wang研究室には毎年、生化学やシグナル伝達に興味のある学生達が世界中から応募してきました(写真1)。
写真1 Wang研究室集合写真、中央黒いTシャツが著者(奏子)。頭上に*のあるのが2019年のインターン生。茶色のTシャツが著者のメンティーであるSola。
私は、2019年にUniversity of California, San Diego(UCSD)の学部生のメンターとなり、実験指導を行いました。彼女は非常に真面目でやる気のある学生でした。植物を扱った経験はこれまでありませんでしたが、教えたことを図に起すなどして積極的に学ぼうとする意欲のある学生でした。研究材料のシロイヌナズナは世代時間が約2ヶ月と植物では比較的短い方ですが、3ヶ月のインターン期間中に形質転換を行って次世代の種子をとることは難しかったため、yeast two-hybrid法によりタンパク質の相互作用を検証する実験や、大腸菌で目的タンパク質を発現させて酵素活性を測るといった実験も並行して行いました。植物の研究であっても酵母や大腸菌を用いることが彼女の目には新鮮に映ったらしく、「Plant biologist(植物研究者)というよりmicro biologist(微生物学者)だね」などジョークをとばしていました(写真2)。
写真2 研究室でメンティーへ実験指導中のワンショット
彼女と一緒に仕事をする過程で、生まれ育った環境の違いに起因する感覚の違いを感じることがありました。例えば、彼女は知らないことがあっても常に自信に溢れていて恥ずかしがるそぶりが全くありませんでした。私は自分の無知を恥ずかしがったり落ち込んだりする方なので彼女の度胸に感心し、見習いたいと思いました。また、彼女は環境問題に対する意識が高く、ベジタリアンであり(牧場建設の過程で森林伐採が行われ、畜産により水質汚染が進んでいることを理由にベジタリアンに転向する方は多いです)、ステンレスのストローをいつも持ち歩いていました(カリフォルニアでは多くの人がタピオカ用の太いステンレスストローを持っていました!)。そのような環境に対する意識から、植物を用いたサステイナブルな研究をもっと知りたいという知識欲も旺盛で、私にとっても彼女からたくさんの刺激を受ける日々となりました。
あるランチタイムに彼女の卒業後の進路について尋ねたことがあります。彼女は学部4年生でしたので、大学院へ行くのか、あるいは就職するのか興味をもったからです。彼女は「大学院には興味はあるけれど、企業でも働いてみたい。まずは会社に入って見聞を広めてから、本当に大学院へ行くことに意味があるのか考えてから決めるわ。」と答えました。この答えは非常にアメリカ人らしいなと感じました。実際、彼女のように学部を卒業後2−3年してから大学院に入るケースは決して稀ではなく、卑近な例としては当研究室のラボマネージャーがこれに当てはまりました。彼は4年制大学を卒業後、当研究室のラボマネージャーとして就職し、実験をサポートする傍ら様々な事務作業をこなすことにより研究者の実情を知るとともに、経験と業績を増やして大学院への入学を有利にしたいと語っていました。
日本の多くの学生は、漠然と「就職に有利に働くかも」という理由で、明確な目的も無く修士課程まで進むように思います。アメリカの大学院の多くは5年一貫の博士課程であるため、日本のように修士課程を2年で修了できるところが少なく、また非常に高額な学費であることから決断に慎重になるのかもしれません。アメリカの大学院入試は概して筆記試験がなく、希望する研究室の書類審査と面接だけであり、雇用主である研究室主宰者が採用してくれれば進学が決まります。研究の対価として給与を支払ってくれますし、必要に応じてリサーチアシスタントとして働くこともできます。しかし、5年間の学費や生活費全般を賄えるだけの給与額ではないため、ほぼ全員が奨学金の獲得を目指します。また、人気のある研究室はやはり倍率が高いので、激しい競争を勝ち抜くためには経験や技術、業績を積み上げておくことはもちろん、それを裏付ける成績証明書(GPA)と学部時代のスーパーバイザーから強力な推薦状を獲得しておくことが重要になります。学部時代からインターンを通じて様々な場所で経験を積み自分の将来の選択肢を広げるというアメリカの学生の行動は、新卒一括採用が始まる前の短期間に慌てて数日間のインターンシップに参加する日本人学生とは対照的であり、目的意識を高めるためにもサマーインターン制度を日本の大学や企業でも積極的に登用してほしいと感じました。
サマーインターンの期間は終わりましたが、いまだに彼女との交流は続いており、帰国後も彼女の就職活動を支援すべく推薦状を書きました(写真3)。このようにサマーインターンに参加することで、経験や技術を積むだけでなく、様々な研究室や企業との有機的な繋がりを形成することができます。多くのアメリカの大学でのサマーインターンは世界中に門戸が開かれているので、日本にいる学生のみなさんもぜひ応募を検討してみてください!
写真3 サマーインターン生の成果発 表会にて。メンティーのポスター発表を 無事に見届けた後のワンショット。
MBARIでのインターンシップ(別所-上原 学 著)
Monterey Bay Aquarium Research Institute(MBARI;通称エムバリ)は、San Franciscoから高速で2時間ほど南に下った湾に位置し、アシカやラッコが見える砂浜に面した小さな研究所です。科学者、技術者、事務職を入れて200人ほどが働いており、小規模ではありますが世界屈指の深海研究所です。MBARIは、映画「ファインディング・ドリー」の舞台になった水族館のモントレー湾水族館と共に、Packard財団(パソコンやプリンターの会社Hewlett-Packardの創立者が立ち上げた財団)により設立されました。私(学)はSteven Haddock博士の研究室で、深海の発光生物について研究を行いました。
私は、名古屋大学で学部・大学院を過ごし、ホタルやコメツキムシといった昆虫やキンメモドキという沿岸棲の魚などが進化の過程でどのように発光能力を獲得したのかを明らかにしました(4,5)。しかし、深海には陸や沿岸には見られない多様な発光生物が豊富に生息しているため、生物発光の研究を続けていくうちに深海発光生物の研究をしたいと強く思うようになっていきました。2015年と2016年に、国際学会で知り合ったHaddock博士から、調査航海へ招待していただき、深海の発光生物を研究するチャンスをいただきました。そこで体験した、深海生物の魅力や未解明な謎、未解決な課題の数の多さに圧倒され、深海発光生物を研究しようと決意し、MBARIが募集するMBARI Postdoctoral Fellowに応募・採択されて、2年間、ポスドクとして研究に専念することができました。MBARIでは深海に生息するサンゴの発光メカニズムを解明することができました(6)。
MBARIは毎年20人前後のサマーインターンを世界中から受け入れています。私がHaddock研究室に在籍していた2016年の短期留学時と2018-2020年のポスドク期間には合計5人がインターンとして配置され、私はそのうち3人のメンターとして一緒に研究をしました。
MBARIはインターンシップを通して、主に海洋学など海に関する研究をテーマとして与えていますが、実地経験に乏しい学生に対しては理解を深めるべく、調査航海に同行する機会も与えることにも重きを置いています。この貴重な取り組みは多くの学生にとって魅力的であり、そのために競争率は高く、毎年多くの応募があります。各研究室の選考では、その時に計画されているプロジェクトと応募者の専門性が合致することが重要視されています。
写真4 調査航海参加者の集合写真。中央の青色のパーカーが著者(学)。ROV Doc Rickettsの前で撮影。
Haddock研究室では毎年夏に10日ほどの航海があり、もれなくインターン生も同行します(写真4)。調査航海では、深度4,000 mまでの深海探索を可能とする特殊な無人潜水探査機ROV(写真4)を使用し、目的の生物の確保や生態調査を寝る間を惜しむことなく続けます。これまでテレビやインターネットでしか見たことのなかったレアな深海生物を初めて目の当たりにし、またその生の発光の様子を見て、インターンとともに私はいつも大興奮していました。船上での研究生活はかなり特殊であり、全ての引き出しには鍵がかけられ、柱へくくりつけられた顕微鏡や測定機器が無造作にならぶ実験室は他では決して見られない光景です(写真5)。すべて波対策の一環であり、船が傾いて勝手に引き出しが開かないように、そして高価な機械の破損やスタッフの怪我を予防するために、経験に基づく環境に即した欠かせない措置になります。
写真5 船上の実験室。顕微鏡はロープで固定されている。
一般的な深海生物のイメージとは裏腹に、意外にもROVによって捕獲され時間をかけて引き上げられた深海生物は船上でも、内臓が口から飛び出すことなく、数時間から数日は生きています。とはいえ、いつまで元気に生きているかわからない生物ですので、迅速に写真撮影や顕微鏡観察、生物発光現象の観察などを行います(写真6)。船上での顕微鏡観察は動的な環境で静的な操作をすることになるため、非常に高度なパフォーマンスとテクニックが要求されます。具体的には、揺れる船の中で体長5 mmのプランクトンをシャーレにのせ、波と波の間に顕微鏡の視野の中心にセットするのですが、数秒間の猶予時間内にピントを合わせて撮影できないと船の傾きによって視野から消え、シャーレの端へと落ちていきます。この試行錯誤の繰り返しによってもれなく船酔いも促進されるため、わずか10分間の観察後には30分以上の休憩を要し、常に吐き気とプレッシャーにさらされるので船上はさながら戦場と化します。わずか10日間の航海で実のある成果を得るためには、知識だけでなく体調管理も含めた入念な準備と周到な計画、そして時には諦める潔さが必要であり、苦労の末に獲得した貴重なサンプルやデータを駆使するべく、航海後に実験や解析をしっかり進めることが重要になります。船上で固定したサンプルを陸に戻った後、船に積み込めなかった機器を用いてより詳細な解析や実験を行い、インターンは3ヶ月間で学んだことや見つけたものをまとめます。すべてのインターンは、最後の成果発表会で報告し、心身ともに充実した状態でインターンシップは幕を閉じます。
写真6 深海棲クダクラゲの一種Lilyopsis fluoracantha
MBARIでしか成しえない、このような特殊な経験は人生の選択に大きな影響を与えています。メンティーの1人は、MBARIのインターンシップ前年にCalifornia State University(CSU)にある別のラボでもインターンを経験しており、とてもモチベーションが高い優秀な学生でした。当時からPhDを目指していた彼女は、見事に夢を実現して、現在Stanford大学のPhD学生として魚の進化について研究しています。2人目のメンティーは、学部4年生の卒業直後にMBARIのインターンに参加し、認められ技術員としてMBARIに就職しました。その後、頭足類に興味を持った彼女は、MBARIの姉妹機関のモントレー湾水族館で飼育員として経験を積みながら大学院進学を目指して鋭意邁進しています。メンティーの3人目は、もともとはコンピューターサイエンスを専門としていましたが、MBARIインターン後に深海生物に目覚め、Moss Landing Marine Laboratories(MLML)に入学して修士の学位を目指しがんばっています。MBARIは教育機関ではないため学生を直接受け入れることはできませんが、MLMLやCSUなど近隣の大学に所属し、MBARIへ出向という形で研究することができます。
このように人生へ大きなインパクトを与えうるMBARIのサマーインターンシップは、斬新かつ独創的なイベントとして世界中で評判を呼び、非常に狭き門となっています。Haddock研究室には毎年100人以上の応募があり、厳しい選考の末1-2人しか採用されません。実際に選考に関わらせてもらいましたが、多くの学生が優秀で非常に甲乙つけがたく、巡り合わせと運の要素がかなり強いプロセスだと実感しました。候補者の選考とは、審査する人との「その場、その瞬間」の相性や、予定していた計画にたまたま欠けていた技術や要素を有するなど、候補者が想定することができない比較軸による高度なプロセスなのかもしれません。よって、仮に公募で不採用であっても、それは個人の能力不足が原因なのではなく、単に縁がなかっただけと割り切って前向きに次を探すべきでしょう。ちなみに、MBARIでは夏以外にもインターンを採用することがあり、独自のルート(後述)で貴重なチャンスを手にする強者もいますので、アメリカの就職活動はまさに運とコネクションが重要なのだと思います。
その他、サマーインターンシップあれこれ
インターンシップへの応募方法
各研究所や大学は、HPで前年の冬頃からインターン生を募集します。提出書類として、カバーレター(何に興味を持っているか?どうしてその研究室に応募したのか?何を得意とするのか?など)、採用に値する略歴(成績証明書の提出、大学での専攻、研究業績、他の研究室での経験など)を記した履歴書、強い推薦書(概して直属のスーパーバイザーと自らの研究歴を証明してくれる所属の異なるファカルティ2人)が要求されます。いかにもアメリカらしく応募書類に書式はありません。また、書類選考後に面接がある場合もあります。応募者の国籍や在住地域は限定されていないことがほとんどで、世界中どこからでも応募できます。ただ、勤務場所までの渡航費や滞在費用(家賃など)が出るかどうかは研究所によりますので、応募時に確認する必要があります。他にも個人的に伺った独自のルートとしては、親が研究所の職員でありそのつてを利用したケースや、学会でたまたま知り合って意気投合した先生の特別な計らいなどがあるそうです。身元がある程度保証されている学生の方が安心して受け入れられる点については頷けますが、決して再現性の高いコネの手段ではないかもしれません。サマーインターンの給与の財源は確保されていますが、それ以外のタイミングの場合、雇用に充てられる予算はその時々の都合に依るため、研究所ないし研究室の経済状況も採用について重要な要素になります(が、そんな事情は知り得ないので、やはり運の要素が大きいと思います)。
所属大学での成績の良さはもちろんのこと、カバーレターの文章構成やインターンへの志望動機が魅力的であるかが採用の際には重要視されます。応募者の知的好奇心が研究所のテーマと一致していると採用の見込みは高まります。一方で、どこの研究室にでも当てはまるようなジェネラルな書き方をしているカバーレターではどんなに成績が良くても引っかからないことがほとんどです。どれだけその研究室の研究に興味を持っているかは文面に表れますので、志望する研究室もしくは研究所から出版されている論文を読み、またラボHPのResearch missionなどに記述されている研究理念などを読み込むことが鍵になると言えます。
サマーインターンシップ中の生活
サマーインターン期間中は、同じ境遇の学生が世界中から集まるため、同じ志を持つ同期と知り合うチャンスです。インターンの説明会や昼休み、またインターン専用の寮などで交流する機会はたくさんあるので、積極的に交流することで世界中に知り合いを作ることができます。また、インターンシップ期間中は世間の夏休みとも重なっているので、夏季限定イベントが開催されることも多いです。例えばDPBではポスドク・学生向けの論文書き方セミナーや植物園ツアーが、MBARIでは地域住民に施設紹介を行うオープンハウスイベントがありました。研究だけではなくそれらの活動を通して、研究者が普段どのように物事を捉え、また地域に貢献しているかを肌で実感することができるのがサマーインターンの特権と言えます。また、通常のアルバイトよりも高給であることが多いので、学生にとっては「稼ぎ時」かもしれません。実際、MBARIのインターンの給与は、当時の学振DC(月20万円程度)よりも多かったので驚いたとともに、期間限定とはいえ正規スタッフとして扱われる厚遇にアメリカ文化の善さを感じました。
メンターとなることのメリット
概略で述べたように、メンターになることのメリットの1つは、教育経験が積めることです。日本の大学を出て日本でポスドクをすると教える対象はほとんど日本人になるかと思いますが、海外でメンターになると多様な国籍の学生を受け持つチャンスがあります。自分とは異なる環境で生まれ育った学生と意思疎通を図ることでこれまで考えたことがなかった視点に驚かされたり、対話を通じて滞在国の社会的・文化的背景を学ぶことができたりと、「生きた」多様性を実感します。
また、個人的な意見ですが、英語ネイティブのメンティーに対して、非ネイティブな著者らは、相手が陥りそうな失敗ポイントや疑問に思いそうなポイントについて事前に伝えるようになりました。これまでは相手が日本語話者であったからか(そんなことは特に意識していませんでしたが)質問がきたら返す、という対応をしていましたが、咄嗟の質問に英語で詰まって答えられない状況にならないよう、事前に想定を行うことが習慣づけられました。そしてその習慣は助教となった現在に生きていると感じます。このようなメリットがあるため、留学中のポスドクの方にはぜひ滞在国の学生のメンターとなることをお勧めします。
おわりに
日本には、アメリカの優秀な学生と比較しても能力が劣らない学生はたくさんいますが、近年は積極的に海外に留学する例をあまり聞きません。海外の研究所でのインターンシップは期間限定であってもとても良い刺激になると思いますし、そこでの経験や出会いはかけがえのない人生の宝物になると思います。そして、経験しないことにはそれを知り得る手段はありません。この記事が、読者のみなさんが海外でのインターンシップ、そして留学に挑戦してみようと考える一助になれば幸いです。
謝辞
執筆の機会を与えてくださった森岡和仁さんに感謝の意を表します。
著者略歴
別所-上原 奏子:東北大学生命科学研究科進化ゲノミクス分野 助教。2017年名古屋大学生命農学研究科、博士課程修了。日本学術振興会特別研究員DC2、同海外PDを経て、2020年より現職。連絡先:kbessho512@gmail.com
別所-上原 学:名古屋大学高等研究院YLC特任助教。2017年名古屋大学生命農学研究科、博士課程修了。日本学術振興会特別研究員DC2、Monterey Bay Aquarium Research Institute Postdoctoral fellowを経て、2020年より現職。連絡先:bessho.manabu.lumi@gmail.com
*最近、2人が分担執筆者として執筆した本が出版されました。お手にとっていただけると幸いです。
「研究者の結婚生活」日本の研究者出版
「研究者の子育て」日本の研究者出版
サイト(インターンシップが募集されている期間はこちらのサイトから募集要項を見ることができます)
Carnegie Institution, DPBウェブサイト:https://dpb.carnegiescience.edu
MBARIウェブサイト:https://www.mbari.org
※MBARIの場合は、例年11月から2月にサマーインターンの募集がかけられます。
参考文献
Bessho-Uehara K, Nugroho J, Kondo H, Shim R and Ashikari M. Sucrose affects the developmental transition of rhizomes in Oryza longistaminata. J. Plant Res. 132(4): 693-707. (2018)
Bessho-Uehara K, Wang DR, Furuta T, Minami A, Nagai K, Gamuyao R, et al. Loss of function at RAE2, a previously unidentified EPFL, is required for awnlessness in cultivated Asian rice. Proc Natl Acad Sci U S A. 113: 8969-8974. (2016)
Branon TC, Bosch JA, Sanchez AD, Udeshi ND, Svinkina T, Carr SA, Feldman JL, Perrimon N, Ting AY. Efficient proximity labeling in living cells and organisms with TurboID. Nat Biotechnol. 36(9): 880-887. (2018)
Fallon TR, Lower SE, Chang CH, Bessho-Uehara M, Martin GJ, et al. Firefly genomes illuminate parallel origins of bioluminescence in beetles. eLife, 7: e36495. (2018)
Bessho-Uehara M, Yamamoto N, Shigenobu S, Mori H, Kuwata K, and Oba Y. Kleptoprotein bioluminescence: Parapriacanthus fish obtain luciferase from ostracod prey. Sci adv, 6(2), eaax4942. (2020)
Bessho-Uehara M, Francis WR, and Haddock SH. Biochemical characterization of diverse deep-sea anthozoan bioluminescence systems. Mar biol, 167(8): 1-19. (2020)
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