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UJA法律相談所—第5回—

更新日:2023年6月21日

Augen Law Offices P.C.

古川 裕実


みなさま、こんにちは。薫風吹き渡る気持ちのいい季節になりました。アメリカではMask Mandateが緩和されるなど、パンデミックの終焉を感じさせる出来事が続いています。国際的な人の移動の機会が増えてきている実感もありますので、まだまだ気は抜けませんが、パンデミック前の生活に近づいてきたと感じています。


今回と次回は、知的財産権のうち、著作権について日米の法制度を比較しながら概要をご紹介したいと思います。



著作権とは


著作権は、「著作物」を保護し、著作権者は自己の著作物を一般に公開しながら独占的に利用することができます。


日本の著作権法が定める「著作物」とは、「思想又は感情を創作物に表現したもので、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」をいい、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」「その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法」は著作物には当たらないとしています。


米国著作権法では、“original works of authorship fixed in any tangible medium of expression…from which they can be perceived, reproduced, or otherwise communicated, either directly or with the aid of machine or device”と定め、“idea, procedure, process, system, method of operation, concept, principle, or discovery”については保護の対象ではないとしています。


日米ともに、単なるアイディアで表現されていないものや、事実を記したにすぎないものは著作物として保護されず、例えば料理のレシピなどの物の作り方や材料を記したにすぎないものは著作物に該当せず、著作権による保護の対象ではされないとされています※1。

※1ただし、個々のレシピ本の具体的内容によっては、レシピ本に著作物性が認められることがあります。また、料理の完成写真や料理を作成する過程を記録したレシピ動画には、著作物性が認められることがあります。

現行の著作権制度は、日米ともに、登録などを要せずに権利が発生するところに特徴があり(無方式主義)、その著作物が創作された時点で権利が生じ、ベルヌ条約※2等の国際条約によりほぼ世界中の国で著作権保護を受けます。

※2 1886年に定められた著作権に関わる国際的ルールに関する最も重要な条約の一つでで、実体法に関する最新の改正条約である1971年改正条約(パリ条約)の加盟国は176カ国に上ります。

ただし、米国では、著作権保護に方式主義を採用していた歴史的経緯もあり、現在においても著作権侵害について訴訟を提起するには著作権登録が必要であるとされています(権利行使要件。かつては権利保護要件にもなっており、著作権保護を受けるためにも登録が必要でした)。日本にも著作権登録の制度はありますが、訴訟提起の必要条件とはされていません


なお、米国では、1989年3月1日以前に公表された著作物については、著作物として保護の対象となるためにはcopyright noticeの表示が必須とされていました。現在はcopyright noticeの表示は必須とはされていませんが、著作権の存在や著作権者を公衆に通知するのに有益であるなどとして、表示する慣習が続いています※3。

※3 その他”All rights reserved”や℗などの著作権表示もありますが、現在は著作権の権利保護要件として必須の表示ではありません

著作者の権利・著作隣接権


著作者の権利には著作権と著作者人格権があり、著作権は保護の対象となる創作物の財産的な権利を保護するもので、著作者人格権は著作者の人格や名誉に関わる権利を保護するものです。著作権は譲渡・相続が可能ですが、著作者人格権は譲渡も相続もすることができません。また、著作権法には、著作物を公衆に伝える人の権利である著作隣接権(実演、レコード制作、放送等)や実演家人格権も定められています。


これに対して、米国著作権法には著作隣接権の概念はなく、実演等もそれが“fixed in any tangible medium of expression”である限り、著作物として保護されるとしています。著作権・著作者人格権のそれぞれの具体的な内容については、次回、概観します。



なお、米国がベルヌ条約に加盟するために必要であったことから、現行の米国法上も他の条約加盟国と同等程度の著作権や著作者人格権についての概念があります。しかし、著作者人格権について明文上定められているのはvisual artの著作者に関するもののみで、文学作品等のvisual artに該当しない著作物の著作権者に関する著作者人格権の直接の定めはありません。ただし、これらの著作権者に関しても、他の米国法上認められている保護により一定程度の著作者人格権が認められていると解釈されています。ベルヌ条約と米国のベルヌ条約加盟の経緯についても、次回概観したいと思います。



著作権の保護期間


日本における著作権の保護期間は、公表後70年が原則であり、個人の著作物について公表の事実が不明の場合は死後70年、団体名義や映画の著作物の場合で創作後70年以内に公表されていないものについては、創作後70年とされています。


著作者人格権及び実演家人格権は、その権利の一身専属的性質から、著作者又は実演家の生存中が存続期間となります。著作隣接権は、実演、レコード発行が行われた時から70年、放送又は有線放送が行われた時から50年です。


米国の著作権保護期間は、1978年1月1日以降に創作及び公表された実名著作物については、著作者の死後70年間の保護が原則となります。著作者不明やペンネーム著作物、職務著作等の実名著作物以外の著作物は、原則として、公表から95年又は創作から120年のうち早い方、という基準が適用されます。



ミッキーマウスが米国の著作権法を変えた?


1790年に米国で最初の著作権法が成立した時は、著作物の保護期間は14年という短いもので、著者が生存している場合は14年の更新が1回だけ可能という制度を採用しており、さらには著作権保護を受けるには登録手続きも必要でした。当時の米国においては、その成立の歴史から、ヨーロッパの著作物を自国で自由に使用したいという要請があり、あまり手厚い著作権保護を与えたくない、できるだけ早く著作物をパブリックドメイン化したいという人々の要望があったことが推察されます。その後、米国の発展とともに、米国人を著作者とする多くの著作物が誕生します。その代表作の一つが、ミッキーマウスです。米国人を著作者とする著作物が増えるにつれ、米国の著作権保護期間も延長されていきました。



ミッキーマウスが短編アニメーション「蒸気船ウィリー」でスクリーンデビューを飾った1928年の時点では、著作権保護期間は公表から56年でした。しかし、1984年の著作権失効が迫ってきた1976年、米国議会は著作権保護制度の大幅な見直しを決定しました。1978年時点でパブリックドメインになっていない著作物の保護期間について、実名著作物については当時のヨーロッパ基準である「著作者の死後50年間」に延長され、さらには著作者不明著作やペンネーム著作、職務著作については「公表から75年間」が適用されるようになりました。ミッキーマウスの著作権はディズニー社が保有していましたので、初代ミッキーマウスの保護期間は2003年まで延長されました。2003年に予定される著作権失効が近づいてきた1998年、米国議会は、さらに著作権法を改正します。Sonny Bono法、またの名をミッキーマウス保護法と呼ばれる著作権保護期間の延長法が可決され、1977年までに公表された著作物の保護期間は「公表から95年間」となりました。この法律については違憲訴訟が提起されましたが、米国最高裁は2003年に7対2の多数で合憲判断を下しました。蒸気船ウィリーは1928年11月18日に公表されたので、米国では、現行法通りであれば、2024年1月1日にパブリックドメイン化することになっています※4。

※4 では日本ではどうなのか?というと、日本の著作権保護期間の計算には複雑な問題があり、既にパブリックドメイン化しているとの見解と、まだパブリックドメイン化していないとの見解が、いずれも成り立ち得ます。(参考:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/skillup/00009/00073/)


ディズニー社は今回も著作権保護の延長のためにロビー活動をしているものと思われますが、米国内でも「ミッキーマウス特権」が維持されることについて意見が分かれており、国際協調の立場からも今回は著作権保護期間の延長は行われないのではないかとの意見も強いようです。


なお、ディズニー社は商標権など他の知的財産権でもミッキーマウスを保護していますので、蒸気船ウィリーがパブリックドメイン化しても初代ミッキーマウスを全く自由に使用できるわけではないこと、ご留意ください。



ご相談をお待ちしています!


引き続き、皆様が日常生活で感じた法律に関する疑問や、興味関心のある米国の法律分野など、その他日米の法律に関することについて、随時ご質問を募集しています。また、UJAを通じた法律相談の一部は無料相談としていますので、個別の法律相談がある場合も気軽にご連絡ください。



著者略歴


古川裕実。2004年早稲田大学法学部卒業。2006年弁護士登録(59期(現在は一時的に登録抹消中))。2012年University of Washington School of Law (LLM in Intellectual Law & Policy)卒。長島大野常松法律事務所(2006年〜2015年)、Davis Wright Tremaine LLP(Seattle Office, 2012年〜2013年)、Augen Law Offices(2015年〜2019年)を経て、2019年よりAugen Law Offices P.C.。 連絡先:yfurukawa [at] augenlaw.com 事務所HP:www.augenlaw.com


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