グローバルなライフサイエンス製品開発という夢を掴むまで

更新日:11月18日

Bio-Rad Laboratories

上原輝彦


こんにちは、上原と申します。2014年にMBA留学のため渡米した後、サンフランシスコベイエリア現地で就職および転職を経験、現在はBio-Rad Laboratories米国本社のDigital Biology Group (DBG) に所属し、Global Marketing ManagerとしてデジタルPCRという製品群の開発及びプロダクトマネジメントを行っています。デジタルPCRは市場が生まれてからまだ約10年と比較的新しい技術ですが、現時点でかなりの市場規模に達し、また高成長率を保っています。このような理由から私の属するグループは弊社の成長の軸として期待されています。


Digital Biology Group (DBG)オフィス

大学4年で研究室に配属された頃に先端バイオ技術の社会還元に興味を持ってから約20年、紆余曲折はありましたが、現在では先端技術を用いたバイオ製品開発という念願が叶い、またこれまでのキャリアで得たスキルが全て役立っている実感があります。今後のキャリア開拓として海外を考えている方、また顧客ニーズと先端技術を繋いでバイオ製品を創り出す仕事に興味のある方のキャリア選択について参考になれば幸いです。



創出期:日本のアカデミアから企業就職、そして転職へ


大学では人工制限酵素という、DNAを望みの位置で切断する技術の研究を行いました。2020年にノーベル賞を受賞したCRISPRと目的は同じです。博士課程への進学を真剣に考えましたが、学生団体や授業を通して出会った方々を通じて技術の社会還元に強い興味を持つようになりました。そこで、社会還元にはビジネススキルが必要と考え、デロイトトーマツコンサルティング(以下デロイト)という経営コンサルティング会社に就職しました。


デロイトでは主に、アジアの新興国にビジネス展開を目指す製造業のお客様向けに、市場調査やマーケティング戦略の立案を行いました。大学での研究との頭の使い方やタイムスパンが全く違うため2年目まではかなり苦労しましたが、論点設定・仮説検証サイクルについて深く理解することでブレークスルーを経験した3年目以降は、非常に楽しく難易度の高いプロジェクトを回すことができました。実力がついたことを実感できた後、バイオ技術とビジネスが重なる領域で仕事がしたい気持ちが大きくなり、ご縁があったBio-Rad Laboratories日本支社(以下Bio-Rad Japan)へ転職しました。


Bio-Rad Japanでは、リアルタイムPCR, デジタルPCR等遺伝子解析製品の日本におけるプロダクトマネージャーを務めました。当時は、技術的知識を基に顧客に製品価値を訴求できるという意味で仕事にかなり充実感を覚えていました。



成長期:渡米を決意、留学から現地就職へ


充実した日々の中で渡米を決意した最も大きな理由は、バイオ産業の中心地で先端技術を使った製品を開発したいと思った事です。現状、バイオ製品の多くがアメリカで開発されており、中でもサンフランシスコベイエリアは全米1、2を争うバイオ産業の中心地となっています。顧客ニーズを吸い上げ、技術に落とし込んで製品を開発する一連のプロセスを経験するためには、渡米する事が最も近道だと考えました。そして、決定的な理由となったのは、グローバル会議に出席した際に自分のスキルに危機感を覚えた事です。事前に準備できるプレゼンは無事にこなせましたが、議論で発言できず休憩・食事中の雑談もろくにできない。このままでは世界の同僚に自分の意見を伝えることができず、日本の代表として出席しているのに価値を全く出せないという危機感を覚えました。また同時に、帰国子女でも無ければ留学経験のない自分でも、頑張ればアメリカで通用する事を証明したいという気持ちが生まれました。最終的な決め手となったのは生活環境です。とにかく気候が最高です。サンフランシスコベイエリアは3月から11月までの間は殆ど雨が降らず、突き抜けるような青空を楽しむことができます。また、サンフランシスコベイエリアは多様性を受け入れる人が多い地域のため、最近アジア系に対する差別等の問題が起きてはいるものの、日本人にとってアメリカ国内ではかなり住みやすい地域です。


留学したUC Berkeley

Bio-Rad Japanを退職した後、サンフランシスコベイエリアにあるUC BerkeleyのMBAコースに留学しました。留学の目的が現地企業への就職だったため、ネットワーキングに注力しました。


具体的には、Haas Healthcare Associationという団体のキャリア担当役員になって会社訪問を自ら企画したり、学会にできるだけ参加してブースやカクテルパーティー等でネットワークを広げました。その中で、DEFTA PartnersというVC(ベンチャーキャピタル)のディレクターの方とお会いする機会があり、深くお話をする中でヘルスケアファンドの立ち上げを行っていることを知り、バイオ技術をグローバルレベルで事業化する事に関わりたいとの思いから長期インターンを行いました。

DBG10周年パーティー

また別の学会では、Bio-Rad米国本社のブースに立ち寄り以前の同僚と話した際にインターンのポジションがあることを知り、MBAの夏休みに数週間のインターンを行う機会を得ました。


MBAを卒業した後に就職したDEFTA Partnersでは、ヘルスケアファンドの立ち上げに伴う投資家の募集や、投資先候補であるスタートアップの技術評価等を行いました。将来性のあるバイオ技術を見つけて事業を創出する助けになることができるという意味で、充実した仕事を行えていました。



成熟期:米国での転職から現在


DEFTA Partnersでは、現地のスタートアップ役員のピッチ(投資を募るプレゼンテーション)を頻繁に聞く機会に恵まれました。ただ、起業はおろか事業創出・製品開発の経験も無い自分が、渾身のプレゼンを評価することに申し訳なさを覚えるようになりました。またVCには開示されることの少ない、詳細な技術について理解した上で製品開発を行いたいという、渡米のきっかけになった思いが込み上げるようになりました。


この様なタイミングで、インターンを行ったBio-Rad Laboratories米国本社でデジタルPCRのProduct Managerポジションの募集を見つけ、通常の面接プロセスを経てオファーをいただくことができました。2017年に転職した2年後にはGlobal Marketing Managerに昇進して現在に至ります。



キャリアの軸を持つことの重要性


2004年に大学の研究室に配属されてから18年間で、大学での研究→コンサルへの就職→事業会社への転職→MBA留学→アメリカ現地就職→アメリカ現地転職と、3-4年おきに5回の大きな変化を経験しました。一見すると単に頻繁にフィールドを変えているように見えますが、「バイオ技術」「ビジネス」「グローバル」「製品開発」という4つのキーワードに沿って必要な経験を得るためにキャリアを変えながら構築しており、自分なりの軸が通っています。そして現在のBio-Rad米国本社での仕事は、これら4つのキーワードの輪全てが重なった部分にちょうど位置しており、自らの希少価値を活かせる環境で本当にやりたい事を実践できています。現在このように充実した幸せな状態にあるため、Bio-Rad米国本社でのキャリアは6年目と人生最長期間を更新中です。


皆様もぜひ、ご自身にとって重要なキーワードの棚卸しを行い、キャリアのベン図を作ってもらえれば自ずと道は拓けてくると思います。全てが重なる所は本当にやりたい事と、自分に希少価値がある事が両立するいわば最強の分野です。また、1つでも輪が存在する分野は自分が対応可能な範囲のため、ベン図全体の面積が広いほど対応力がある人材と理解できます。



アメリカ産業界への就職ノウハウ

キャリアベン図の例

私の就職は、プロダクトマーケティングといういわゆる文系就職に属するため、研究者の方々の就職とは少々違う面があることをご了承ください。


アメリカで現地就職するためには、機会の数と採用確率の両方を上げることが重要です。私の場合、機会の数を増やすために学会に月1回は出席して片端から名刺交換をしたり、Haas Healthcare Associationでキャリア担当役員となり自ら会社訪問を企画するなど、ネットワーキングに注力しました。


次に採用の確率を上げる必要がありますが、その際に重要なのは信用を得る事です。私の場合は、インターンシップで結果を出す事で信用を得られると考え、長期インターンシップを行えるよう依頼したり、インターン先でランチ等を通したネットワーキングを行いました。その結果、インターンを行った現地企業2社両方からオファーをいただくことができました。ちなみに、一旦就職して結果を出せば、その後は経験に基づく信用を積むことができるため、転職を行いやすくなります。


そして応募すべきポジションを見つけた際に重要となるのは、Job Descriptionを良く理解する事です。アメリカにおける採用は、各ポジションの職責(Job Responsibility)を明確に定義した上で行われます。そのため、募集ポジションのJob Descriptionには、どのような業務を行うか、どんな経験・スキルが必要になるか適性が明確に書かれています。これをよく読みこんだ上で自分を表すキーワードを当てはめ、履歴書(resume)をカスタマイズします。


採用する側として何十枚もの履歴書を読む立場になって思うのは、応募までの職責や成果がJob Descriptionとできる限り適合している応募者が魅力的だという事です。そして面接の際には、質問をしっかり理解した上で明確な返答を行う事が大事です。結局は、相手が知りたい事を理解した上で必要な情報を提供するという、職種や国を問わず重要な事がアメリカで採用されるための一番の近道だと思います。



外国の企業でビザサポートを獲得する方法


アメリカで働くためにまず最も重要なのは、ビザを得る事です。特にアメリカの企業に現地就職する際に重要となるのは、ビザ取得に関して親身になって協力してくれる味方をつくることだと思います。ビザ取得は、多かれ少なかれストレスのかかるプロセスです。そのため、上司・同僚・移民弁護士といった理解者を多く持つことが、心理的にも実際のプロセス上もプラスに働きます。


取得するビザの種類に関しては、グローバルではH(特殊技能職)ビザが主流です。米国国務省の2020年時点でのデータによると、B(商用/観光)ビザ及びF(学生)ビザを除くと45%がHビザで、その次に多いのが15%のC-1/D(通過/クルー)ビザとなっています。一方で日本人のビザの取り方はかなり異なります。2020年時点でE(投資家)ビザ(36%)、L(企業内転勤者)ビザ(16%)、A(外交・公用)ビザ(16%)が多く、Hビザは日本人の中ではわずか3%と少数派です。そのため、日本人がアメリカで就職するための選択肢として、投資家ビザを得られる会社への就職や、外資系日本法人から米国本社もしくは、日系企業本社から米国支社への転籍も考慮されると良いと思います。



留学生や若い人に伝えたいこと

R&Dの同僚

まず、アメリカでの生活は多様な視点を得られるという意味でお勧めです。もちろん食事、環境、マイノリティとしての立場等といった日本にはない不便さは常にあります。しかし、日本では決して得られない視点を獲得することができ、結果として自分の柔軟性を向上できることから非常にプラスになります。徹底した優先順位付けといったアメリカならではの仕事方法、常識の枠を超えた個人ベースでのコミュニケーション等はどこで生活する上でも活きるでしょうし、アウェイの環境でも活かせる自分の強みを見つけることに繋がります。


また研究者の方々にもアメリカでの就職はお勧めです。私の現在の仕事相手の半分以上はR&Dチームで、ほぼ全員がPhDホルダーです。会社によるかもしれませんが、アメリカ企業に勤務する研究者の特徴として、常に顧客ニーズを意識していることが挙げられます。市場需要を意識して創られるProduct Requirementを基に製品を開発するため、顧客ニーズの理解が重要となります。実際、自らの技術とニーズをつなげて顧客に貢献できることにやりがいを感じる同僚の研究者が多いです。また必然的にマーケティング等他部署との交流が重要になるため、チームワークのスキルや新しい視野を得られます。私自身まだまだ修行中の身ですが、この経験談が皆様の今後のキャリアの参考になれば幸いです。



著者略歴

上原輝彦。東京大学工学部卒業、同大学修士課程修了後、デロイトトーマツコンサルティングにて製造業の新興国におけるマーケティング戦略立案等に従事。その後Bio-Rad Laboratories社日本法人に転職。プロダクトマネージャーとして遺伝子解析関連機器のマネジメントを実施。同社退職後、2014年にUC BerkeleyへのMBA留学のため渡米。MBA取得後、ベンチャーキャピタルのDEFTA Partnersにて勤務。2017年2月にBio-Rad Laboratories社米国本社にGlobal Product Managerとして転職。以来、デジタルPCR機器・消耗品のマネジメントやR&Dと協働した新規製品開発を担当。2019年2月にGlobal Marketing Managerに昇進し、現在はデジタルPCR製品開発を主業務とするCore Productsチームを率いている。2022年4月に東北大学特任教授(客員)に就任。