福岡工業大学
赤木 紀之
はじめに
2008年9月より11年7カ月に渡り勤務した金沢大学医薬保健研究域医学系を退職し、2020年4月より福岡工業大学工学部生命環境化学科の教授を拝命いた致しました。
私は1998年4月に横浜市立大学文理学部生物学課程に入学し、生命科学領域への第一歩を踏み出しました。その後、2004年3月に東京大学大学院医学系研究科を修了後、出身ラボで1年間のポスドクを経てたのち、2005年4月から2008年8月までカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) 医学部シーダス・サイナイ医療センターの血液学腫瘍学部門(Dr. H. Phillip Koeffler)にポスドクとして研究留学しました。留学中は白血病細胞の遺伝子異常の網羅的解析や血球分化に関与する転写因子C/EBPの機能解析に従事していました。2008年9月からは、金沢大学医学系再生分子医学研究室(横田崇教授)に助教として着任し、2015年5月に准教授に昇進しました。金沢大学に在職中は多能性幹細胞の自己複製制御機構や、留学時代の研究の続きとして転写因子C/EBPの機能解析を遂行していました。
この度、ご縁がありまして2020年4月に福岡工業大学工学部生命環境化学科の教授として着任し、研究室を主宰することになりました。
福岡工業大学の紹介
福岡工業大学は博多駅から電車で約15分。最寄り駅はJR鹿児島本線の福工大前駅で、駅と大学キャンパスが直結しています。附属高校も同じキャンパス内にあり、高校生から大学院生までがこのキャンパスで学生生活をエンジョイしています。柔道金メダリストの谷亮子選手や、芸能人のなかやまきんに君などが本学附属高校出身と聞いています。福岡工業大学はとても綺麗なキャンパスで、池や芝生など細かなところまで整備が行き届いています。建物や内装もとてもお洒落で、こんなに素敵なキャンパスで学生生活を送れる福工大生がとても羨ましく感じます。
私が所属する生命環境化学科は、「環境//エネルギー」、「物質科学」、「バイオ」、「食品」をキーワードに多岐にわたる研究活動と並行して、「For all the students」を合言葉とした面倒見のよい丁寧な教育を実践しています。
福岡工業大学キャンパス
研究について
私は細胞の増殖や分化の分子レベルでの制御機構に強い興味があり、マウス胚性幹(ES)細胞の自己複製制御機構、並びに血液細胞の分化機構や白血病細胞の遺伝子異常の解析に従事してきました。
ES細胞の自己複製制御機構
ES細胞の自己複製の制御機構は、転写因子STAT3とOct3/4が中心的な役割を担っています。私はこれらの因子を中心とする「転写因子ネットワーク」を明らかにし、自己複製制御機構の解明に取り組んできました。現在までにDax1、Esrrb、ETV4/5、Baf53a、GABPαといった転写因子群に着目し、以下のこと事を解明しました。(1)(1) Oct3/4の転写活性化能は、Dax1により抑制的に、Esrrbにより促進的に制御されている。(2)(2) ETV4/5遺伝子破壊ES細胞は、増殖能が低下し外胚葉への分化が抑えられている。(3)(3) クロマチンリモデリング因子Baf53aはp53の機能を抑制しES細胞の生存を促進している。(4)(4) GABPαはES細胞のG1期と生存を制御している。以上から、これらの因子群がES細胞で転写因子ネットワークを構築し、ES細胞の自己複製制御機構を制御している可能性を見出しました。
血液細胞の分化機構と白血病細胞の遺伝子異常の解析
造血幹細胞は、転写因子による制御を受けながら、増殖と分化を繰り返し成熟した血液細胞を生み出します。一方、分化段階で染色体や遺伝子に変異が入ると、細胞は腫瘍化し白血病などを引き起こします。現在までに私は、(1) (1)ノックアウトマウスの解析から、転写因子C/EBPβは造血幹細胞のサイトカインに対する応答性や、好中球の生存に関与している。(2)(2) C/EBPβとC/EBPεのダブルノックアウトマウスは、好中球の分化障害を示し、両者が好中球分化に重要な役割を担っている。 また、染色体コピー数の変化の網羅的解析から、(3)(3) 正常核型急性骨髄性白血病(AML)、t(15;17) APL 、t(8;21) AMLは、今まで知られていない新しい染色体異常を保持している、などを明らかにしました。
今後の抱負
福岡工業大学に着任することで、私は理学部、医学部、工学部の理系3学部を渡り歩いたくことになります。学部ごとに少しずつ異なるカラーや、研究・教育の方向性の違いを楽しみつつ、今までの経験をフルに生かし、研究推進と人材育成に邁進したいと考えております。
これまでに「ES細胞の自己複製機構の解析」と「白血病細胞の遺伝子異常の解析」を遂行してきました。両者は一見、全く異なる学術領域ですが、最近の研究からがん組織中には、幹細胞性をもつ細胞が含まれており、がん幹細胞こそが根治の標的となりうると考えられています。私はこれまで独立して遂行してきた研究を融合する形で実践し、「多能性幹細胞におけるがん遺伝子を介した幹細胞性制御機構の解明」に取り組みんでゆきたいと考えています。
その上でUJAの編集部ならびに学術企画部の一員として、留学を考える人へ情報・支援を提供する窓口の整備、研究者が日本・国際舞台において活躍し続けるための相互支援とキャリアパスの透明化、教育・科学技術行政機関との情報交換および連携を推進して参りたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいた致します。
著者略歴
赤木 紀之。1998年横浜市立大学生物学課程卒業。2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員DC1、金沢大学医学部再生分子医学ポスドク、UCLA医学部/シーダス・サイナイ医療センター血液学腫瘍学部門ポスドク、金沢大学医薬保健研究域医学系助教、同上准教授を経て、2020年4月より現職。連絡先:t-akagi@fit.ac.jp、Research Map:https://researchmap.jp/read0142200