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Boston循環器交流会 ー米国一流の研究施設が集まるボストンだからこそ得られる経験ー

Brigham and Women’s Hospital 後藤 信一

Brigham and Women’s Hospital 八木隆一郎

Massachusetts General Hospital 永田 泰史


はじめに


ボストンはハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの米国随一の有名大学が集まる都市です。緯度はだいたい函館と同じで、夏に気温が35度程度まで上昇する一方、冬は-20度を下回ることもあり、四季が比較的はっきりした土地です。アメリカの中では最も歴史が古い街でもあり、趣のある建物や独立戦争時の史跡などが多く残っています。


ボストン市内を中心に林立するハーバード大学関連病院には、長年、多数の日本人研究者が留学に訪れてきました。中心的な病院が集まるエリアは大きく2つに分かれています。


1つ目は、ハーバード系列の病院としては最大のMassachusetts General Hospital (MGH)がある地域で、ボストンのダウンタウン近くの北側に当たります。隣接するケンブリッジにはMITもあり、多くの関連研究施設が集合しています。


2つ目が、ハーバード大学関連病院として2番目に大きいBrigham and Women’s Hospital (BWH) のある地域で、Longwood Medical Area (LMA)と呼ばれています。日本で言うところのハーバード大学医学部にあたるハーバードメディカルスクールも、このLMAにあります。


ボストン循環器交流会の会員も、例年、この2つのエリアにおおよそ半数ずつ留学していることから、MGHとLMAに1人ずつ幹事を置いて会を運営しています。また、ボストンメディカルセンターやタフツメディカルセンターもボストンにあり、こちらで研究や臨床に従事する日本人留学生も当会に参加されています。



ボストン循環器交流会の成り立ち


古くから多くの日本人が留学してきたボストンですが、循環器交流会の歴史は意外に新しく、ちょうど10年前の2012年に会として発足しました。当時は、日本での知己や偶然知り合った研究者同士での限られた交流がほとんどの状況でした。しかし、研究内容や留学生活における苦労などをシェアし、互いに助け合って切磋琢磨できるコミュニティを作りたいという思いを持つ循環器研究者の有志の呼びかけにより、交流会が発足しました。それまでは、どこにいてどんな研究をしているのか、互いに知る機会が少なかった日本人留学生同士の交流の場ができました。そこからできた繋がりがまた繋がりを呼び、現在では約150名の会員が登録されています。


慣れない海外で、研究室外の繋がりを持ちにくい日本人留学生にとって、こうしたコミュニケーションの場はとても大切です。これは研究内容や苦労を語り合うだけでなく、将来の研究の発展やコラボレーションの可能性を生む貴重な場ができたということでもあり、現会員としてその有難みを実感しています。



メンバーの構成

Boston循環器交流会の気のいい仲間たち

会員の多くを占めるのは、循環器内科を専門とする医師です。多くはハーバード関連病院の研究室にて心機能や心筋再生・代謝に関する研究や、検査モダリティーの研究を行っています。


また、ボストンは臨床研究も盛んであり、臨床・疫学研究をメインに行う研究室で研究に従事するメンバーも少なくありません。しかし、研究分野が循環器領域であれば専門を問わず、小児循環器・心臓血管外科の医師や基礎研究者の方も多くご参加くださっており、広く研究の知見を共有できています。


さらには、こちらで医師免許を取得して臨床を行う先生もいらっしゃり、日米での研究のみならず、臨床における大きな違いにも気付かされます。家族帯同で留学なさる方も多く、子育てや旅行など、多岐に渡る話題を共有しています。



交流会の活動


ボストン循環器交流会では、年2回の定期の懇親会をはじめ、ボストン以外の地域も含め、学会などで日本から一時的に渡米された研究者の方にセミナーをお願いしたり、主に会員同士や他地域の留学生との交流を目的に活動しています。一時期はコロナ禍によりin-personの懇親会を開催できませんでしたが、オンライン開催でも多くの会員が集まり、現在も活発に活動を継続できています。先日はコロナによる規制が緩和されたことを受け、久しぶりにin-personで屋外でのバーベキューイベントを企画したところ、多数の留学生とそのご家族の方がお集まりくださいました。



交流会で得たもの


留学開始時には、すべての生活を1から異国の地で立ち上げなければならず、わからないことや不安なことが多々あります。循環器交流会の会員は皆、必ず同じような困難や不安を乗り越えています。そのため、彼ら彼女らからの助言や情報は、渡米直後の右も左も分からない頃には、特に大きな助けになりました。


例えば、最初は「日本食の食材はどこで買えるか」といった生活の基本情報すら分かりません。交流会や懇親会の機会に少し雑談をするだけで、このような不安の多くは簡単に解決しました。


さらに、マサチューセッツ州では運転免許の取得がやや難しく、一大イベントと言えるのですが、交流会の会員から、試験問題の過去問や実技試験の申し込み方といった細かいことまで教えていただくことができました。


日本人の先達がいて、情報共有する仕組みがあることは、初めて留学する人にとって、非常に大きなメリットがあり、非常に心強いことだと感じています。



ボストン留学のすすめ


終わりに、ぜひ多くの方にボストン留学に興味を持ってもらえるように、留学のメリットを少しお話ししたいと思います。近年、日本の大学からの留学者は減少傾向にあるという話を多方面から聞きます。実感としても、ボストン周辺における日本人の存在感は小さく、東アジアから来る留学生の多くが中国人や韓国人です。役所等で提供される翻訳文書も、中国語、韓国語、タガログ語、アラビア語まであるのに、日本語はありません。


背景として、日本の研究環境が発展して、わざわざ海外に出なくてもほとんどのことは日本でできると認識されている可能性が挙げられます。また、私のように医師で研究を志す者にとっては、留学によりむしろキャリアが中断され、日本でのポストがかえって得られにくくなると思われていることなどを聞き及びます。これらは、ある面では正しいでしょう。しかしながら、実際に留学に来てみると違う面が見えてきました。


例えば研究環境です。確かに、日本でできないけれど、米国でならできる研究というものは、そう多くないかもしれません。でも、研究論文を掲載する雑誌のエディターの多くが米国一流施設に、つまりハーバード関連施設に在籍している事実は、無視できない重要事項です。


ボストン留学により接することができる多くの研究者は、権威のある雑誌のエディターでもあり、彼らと話すことで、実際に「どのような視点で研究を評価し、どのような論文を掲載したいか」という情報を直接得ることができます。日本にいた時よりも、論文を書く力を格段に磨けていると思います。


また、研究者・研究室間の交流は盛んで、米国内だけでなく、欧州や南米の研究者や研究室とのコラボレーションも珍しくありません。お互いに不足している部分を補いながら、最先端の研究を追求する姿勢を感じます。世界中からそれぞれの分野のトップランナー達が集まるボストンならではの光景ではないでしょうか。こういったコラボレーションに参加することによって、同年代のフェローとも友人になる機会が増え、将来の学会での再会を約束することも、楽しみの1つになっています。



このように、ボストンは米国一流の施設が集まっており、貴重な経験ができるだけでなく、日本人研究者の先達が多くいます。孤立無援になることはなく、生活の立ち上げも簡単です。日本の研究環境に満足している研究者でも、一度外の世界を見てみると視野が広がります。ぜひ、若手の研究者は内向きにならず、世界に目を向けて、積極的に海外留学を検討して欲しいと思います。



謝辞


この度ボストン循環器交流会の成り立ちを詳細に教えてくださった松本知沙先生、原稿執筆の機会をいただきました田中仁啓先生に感謝申し上げます。



著者略歴


後藤信一。2013年慶應義塾大学医学部卒業。2018年慶應義塾大学医学部医学研究科博士課程修了。2019年ハーバード大学Brigham and Women’s Hospital ポスドク。


八木隆一郎。2015年慶應義塾大学医学部卒業。2021年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程終了、同年ハーバード大学Brigham and Women’s Hospital ポスドク。


永田泰史。2007年産業医科大学医学部卒業。2016年同医学研究科博士課程修了。2018年マサチューセッツ総合病院ポスドクを経て、2021年より同インストラクター。


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