「論文読んだ」を可視化する『Quotomy』のご紹介

Quotomy代表

大谷 隼一


Gazette読者の皆様、こんにちは。

Quotomyの代表をしている大谷隼一(おおやじゅんいち)と申します。


最初に自己紹介をしますと、私は日本の整形外科医で、2015年にUniversity of California, San Franciscoに留学しており、長尾先生や森岡先生をはじめとするベイエリア日本人整形外科の会の先生方には大変お世話になりました(ベイエリア日本人整形外科の会についてはGazette第4号に宇都宮先生が詳しく書かれています)。医師の「論文読んだ」を可視化するQuotomy(https://quotomy.com/)を2020年8月より立ち上げ、実名参加型の医学知見共有サービスとして運営しています。「UJA Gazette」のコンセプトが、研究に携わる人たちが情報を発信し共有し合うニューズレターということで、Quotomyの思想と近しいと感じておりますので、寄稿の機会をお願いさせて頂きました!読者の皆様の中には、医師以外の方も多いとは重々承知しておりますが、海外留学を経験した医師の起業話を共有させてください。「へー、日本の勤務医でこんな課題感をもってインターネットサービス作っているやつもいるんだ」くらいに思って、ご笑覧いただければ幸いです。


ベイエリア日本人整形外科の会の皆さんと。筆者は右上。


立ち上げ経緯

おそらく私だけではなく、米国から日本へ帰国した医師の多くが、日本の環境に対して違和感を感じるのではないでしょうか。理由として、医師として勤務しながらサポートの少ない環境で論文を制作するには、日本の臨床現場は多忙過ぎる。そして、多大な努力の末に論文を書いてもアメリカほど評価されず、結局は論文とは無縁の生活を送るようになる。また、大学などアカデミック関連所属の先輩方の中には「教授」を目指すアカデミックな競争に勝てないと人生に失敗したかのように元気がなくなっていく医師が多い気がします。このように、日本の現状だと、どうしても論文に関するモチベーションを上げることが難しいと推測します。


では、米国の状況はどうかというと、私が留学中に体験したのは、医師がPrincipal Investigatorの臨床研究チームですが、そこには激しい競争社会の中でポジションを獲得するための、医療研究に関わる様々な立場の人々の思惑がありました。医師がアカデミックポジションを得ると、社会的名誉と資金が集まってきます。具体的には、リサーチアシスタントや統計家を雇うことができ、学生や留学生などの無給で手伝ってくれる人材も業績欲しさに集まってきます。作業効率が良くなり論文をより多く生産できるようになります。すると、また社会的名誉と資金が集まってくる、という好循環が生まれるわけです。特に研修医や医学生などの若手が持つ医療論文に対するモチベーションは私とは比べようもない高さで、 競争社会の中で生き残るための術のようでした。お金や地位を目的とした外発的モチベーション主導の研究システムが、人的・金銭的リソースの潤沢なアメリカでは上手く機能していると感じました。


とはいっても、多くの日本人にとって競争は息苦しいし、効率性を重視した分担作業でのアカデミックワークにも慣れていない。なにより、潤沢な研究資金や寄附は日本には乏しい。そこで、日本の医療研究活動を盛り上げるには、個人の内発的モチベーションを高める方が向いているのでは?という仮説を持ちました。内発的モチベーションとは、楽しいと思える活動そのものから生じる達成感・社会貢献などの非金銭的報酬です。すでに医師は個人の内発的モチベーションを高める方法を知っているように思います。医師は、時には臨床現場を離れて、新しい知見に触れたり、視座を高めたり、刺激的な人物に出会いに行ったりします。具体的には、学会に参加することだったり、大学院に入学したり、そして留学したりすることでしょう。もっと身近な行動だと、抄読会も同様の効果があると思います。これらは、普段の臨床業務とは関係のない行動にあてられた時間で、この効用で医療研究活動が続いているのだと体感しています。しかし、実際の臨床現場では、時間的・空間的制約があるため、そんなに多くの時間を学会や勉強会参加などに費やすことはできないことも多いでしょう。この内発的モチベーションの保ち方は、オンラインで持続可能ではないか、と考えたことがサービスを立ち上げた背景です。


医学知見共有サービスQuotomy


プロダクト作り

読んだ論文の内容を共有する、学会のような場所をオンライン上につくろう!と思いたったのですが、自分でプロダクト作成をマネージメントした経験もなければ、コードを1行も書けない状態でした。そこで、留学後の初めての夏季休暇を利用し、渋谷道玄坂でプログラミング教室に缶詰状態になり、当時の技術で「こういうサイトであれば作成できそうだ」というアタリをつけました。けれども、サイトを立ち上げには多くの時間を要しそうでしたので、そこからは自分の構想するサイトを周りに語る日々で、なんとか知り合いの知り合いとプロダクトを作ってもらえる関係になりました。しかし、プロダクトマネージャー未経験の私が外注するような形で始めてしまったため、コミュニケーションコストも開発コストも高くつく上に、内部に知見が貯まらないので、なかなか上手くいかない時期が続きました。とはいえ、ゼロからイチに形をつくったことは大きく、それを叩き台に外部のコミュニティと交流を続け、現在のChief Technical Officerと出会うことになりました。なんとか後述する最低限の機能が実装できて、ユーザーさんに使ってもらえるような状態になったのが2020年8月でした。


Quotomyを使うと、ユーザーは論文情報をオンラインに記録することができます。Quotes(タグの様なもの)を論文に付けることで興味の近いユーザーが繋がり、お互いの活動を知ることで、切磋琢磨することができます。2021年2月からは、読みたい論文をストックしておくこと、読んだ論文の感想をEmojiでシンプルに表現できるようになりました。使えば使うほど便利になっていく仕様になっていると思います。


他社サービスとの比較

医師同士が繋がるサービスというと、Facebookで良いのでは?とよく言われます。Facebookには医師以外にも友人はいるわけで医学知見を共有する場として適しているか疑問です。Facebookグループ機能もありますが、読んだ論文を共有していくとユーザーが便利になるようなストック性があるかというと、そういう設計にはなっていないです。


研究者同士のコミュニティということでResearchGateは意識しています。ResearchGateは、自分の書いた論文をアップロードすることで研究者のオンラインCV的なユースケースが多いと思います。また、著者ユーザーに論文をリクエストできる点も面白いサービスです。Quotomyでは、ユーザーがpublishした論文をアップロードしていく、のではなく、より日常的な「読んだ論文をアップしていく」ようなサービスにしていくつもりです。ユーザーさんにとって内的モチベーションが上がるような習慣化に繋がり、まだ業績の少ない若手や医学生にもステータスを更新していける機会になればと思っています。

コンセプト動画はこちら → https://youtu.be/tRRvgB4GYYU


最近の動き

初期はオリジナル記事もあった方が、コンテンツが充実して面白いと思い、いろいろな企画をしています。「リーダーの履歴書」「Tips for Surgical Tech.」などを配信していますので、ぜひご覧ください。既存の医師向け情報サービスができなかった実名医師の論文活動をトピックにしたオリジナル記事配信を定期的にできればと思っています。ほとんどの記事がオンラインでのインタビューに基づいておりますので、海外でご活躍中の研究者の方々にフォーカスしたオリジナル記事も作成させていただければと思っています。自薦他薦を問いませんので、論文に関するエピソードをシェアしたい方は、インタビューさせていただきますので、ぜひ、ご連絡ください(contact@quotomy.co.jp)。海外でご活躍中の皆様にもご協力いただければ嬉しいです!


審査員と視聴者に向けてのピッチ風景@Healthtech/SUM 2020


昨年末にHealthtech/SUM 2020というヘルスケアスタートアップが集まるイベントがあり、ピッチコンテストでファイナリストになりました。新型コロナウィルスの影響でハイブリッド型の開催となりましたが、様々な方面から日本のヘルスケア領域に対する期待を感じることができました。これを起点に多くのスタートアップ界隈の方と繋がるきっかけとなりました。彼らはファイナンスや事業開発の知見を与えてくれますので、ありがたい存在です。プロダクトをグロースできるように頑張ります!


おわりに

興味をもっていただけましたら是非Quotomyを触ってみてください!とはいっても、まだまだ初期段階のプロダクトで、医師限定かつ整形外科領域にユーザーが偏っています。まず小さな領域でスタートしてプロダクトを洗練させていますので、ご容赦ください。また、どんな小さなことでも良いので、フィードバックをいただけると本当に嬉しいです。

私がこのようなプロダクトを作ろうと思いついたのも、米国西海岸での留学体験が基礎になっていると思います。留学の際に日本人ネットワークの存在のおかげで充実した留学生活となりましたし、現在も励まして頂いていると思っています。

UJAのコミュニティ活動を応援しています。これからも何卒よろしくお願いします。


著者略歴

大谷隼一 医学知見共有サイトQuotomy代表。https://quotomy.com/

2006年 名古屋市立大学医学部卒業。東大整形外科医局関連病院に勤務したのち、2015年University of California, San Francisco留学。帰国後、2017年より日本赤十字社医療センター脊椎整形外科。

脊椎疾患。臨床疫学研究。C向けインターネットサービス、vertical social事業に興味あります。

Twitter:https://twitter.com/11Ohya

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