テキサス工科大学
山本 真実
私は学生時代、自分の進みたい未来が分からないまま留学という未知の領域へ進みました。皆さんには、自分自身がどのような人生を送りたいのか、そのために通過したいと思う道がスポーツ留学なのか、ぜひ一度止まって考えて見てほしいです。学業とスポーツの両立はとても大変なものであり、目的がプロになり活躍することであれば、スポーツだけに集中できる道を選択した方がいいかもしれません。人生は全て自分自身の選択で出来ていきます。私にとってアメリカで過ごした大学卒業までの8年間はとても価値のあるものでした。振り返った時、行って良かったなと多くの人に思ってもらえる様に、私の経験が少しでもヒントになれば幸いです。
私は東京生まれ東京育ち、ゴルフは子供の頃から週1回ほど両親と一緒にやっていました。中学3年生の途中、家族でハワイに引っ越し、カポレイ公立高校に通いながらゴルフを毎日練習するようになりました。島の大会で優勝できるようになった私に、母がフロリダのゴルフアカデミーに行ってみないかと提案してくれました。知らない場所でゴルフ漬けの毎日を過ごすことは不安に感じましたが、そのままハワイの学校に行き続けたくなかったので、母の提案を選択しました。そして残りの高校3年間をフロリダ州のモンテバードアカデミーという私立高校に通いながらGGGAとBGGAゴルフアカデミーで過ごしました。その後テキサス工科大学から全額奨学金をいただき、会計士にもなれるよう会計学を専攻しながら4年間Devision1ゴルフチームに所属しました。

大学ゴルフチームの仲間と、左から3人目が著者
ネット上では得られないこと
情報を得ることは今やインターネットを通して簡単にできますが、その場に行かないと経験できないことが本当に多いです。世界トップレベルのレッスンを受けたり、ネイティブレベルで英語が話せるようになったり、文化の違いを感じるためにはやはり実際に「海外へ行く」という選択は得策だと思います。
ゴルフ留学を通して、ビジョンを持つ大切さ、いい目標設定の仕方、優先順位の付け方、タイムマネジメント法、ゴルフの練習ツールが増え、メンタルヘルスやマインドフルネスについても学びました。さらに、語学力の向上、コミュニケーション能力の向上、多国籍な環境で多くの価値観に触れ、世界中に友人ができました。言葉がやっと伝わるようになっても、自分の考え方や当たり前が通用しない時は辛いですが、それでも受け入れてもらえたり、相手とすり合わせをして妥協点を見つけたり。辛い環境の中で小さな成功体験をたくさん重ねて、忍耐力も自信もつきました。
物事を様々な視点から大きな流れで捉えられるようになったのはメンタルコーチ、先回りして戦略的に考える癖がついたのはゴルフコーチのおかげです。ゴルフの技術だけでなく、人生にも役立つ知識と自分で考え行動する力を叩き込んでくれたゴルフアカデミーの方々には本当に感謝しています。そしてそんな環境へ送り込んでくれた両親にも感謝しています。多くの出会いと支えの中でたくさん学ばせていただいたなと、書きながら噛み締めています。
世界が広がった
世界中から集まったチームメイトやクラスメイトたちと過ごした時間はとても楽しいものでした。日本人よりも比較的オープンで価値観も多様なので、色々な話を聞くことができ、とても刺激的でした。夢のスケールが大きかったり、セクシャリティーも様々でしたし、地元の話ひとつをとっても知らないことが多かったので、どんな話もとても面白かったです。多くの価値観に接したことで、周りと違っても自分らしくいられればいいと思えるようにもなりました。世界中に散らばった友人との関係は大切な宝物です。
アジア人は謙虚でどちらかというと引っ込み思案な人が多いです。せっかくなのでどんどん関わって色々話してみた方が楽しいと思います。私は黄色人種なのに中身は白人みたいだからと、ニックネームがバナナになってしまいました。自分の考えは一旦おいて、その地に染まってみるのもいい経験になると思います。自分の身の回りだけでなく、世界全体をベースに考える視野の広さを持つことができるようになったのも、色んな人と関われたおかげです。
エネルギー溢れる成功者の方々にお会いして話を聞けたことも私の財産です。日本で普通に生活していたら、プライベートジェットで移動してオーガスタをプレーするなんて出来なかったでしょう。学費、ゴルフにかかる費用、そして日常生活にかかる費用、全て奨学金がカバーしてくれました。毎年アンダーアーマーのウエアや靴をたくさんいただき、クラブもオーダーメイドで全て新調していただきました。スポンサーの皆様がいて初めて、豪華な大学生活を送れたと思うと本当に感謝しかないです。いつか寄付をする側になれるよう精進したいと思います。
知らない世界がまだまだある、そして楽しめる場がまだまだあると思うと、私はワクワクしてしまいます。自分のコンフォートゾーンから飛び出し、新しいことにチャレンジする楽しさは、これを経験した者にしか分かりません。目の前に留学できるチャンスがあって、少しでも気になるなら行ってみる。行ってみて嫌なら気づいた時に帰ってくればいいのです。経験できるものはしておいて絶対に損はないと思います。



入学する大学が決まった時・チームメイトと練習ラウンド・試合会場でのチームの様子
いい事ばかりではない
私にとって留学で得たものは本当に多いのですが、スポーツで一流になりたいと思う人にとって留学は大きなデメリットになるかもしれません。まず大学のスポーツチームに所属するためには、大学に入学できるだけの語学力が必要です。語学の壁があるために感じるストレスや、勉強に費やす時間は日本にいる時の何倍にもなるでしょう。
私はアメリカ1年目、ハワイの公立高校に英語がほとんど喋れない状態で入学しました。地元の学校だったので日本語を喋れる人は生徒の中にはいませんでした。授業中に教科書を読むために当てられた時、発音が明らかにおかしかったのでしょう、クラス全員に笑われたのを今でも覚えています。教科書を一ページ解読するのに辞書を使って2時間かかりました。最初の3ヶ月ぐらい毎日寝る前に泣きました。私は高校4年間でかなり英語が身についたので大学で語学の壁を感じることはありませんでしたが、スポーツの腕を磨きながら語学の習得はかなり大変です。
個人とチームの違い
大学チームに所属すると個人でやっている時に比べ自由度がかなり減ります。大企業の社員とアルバイトぐらい違うでしょうか。奨学金を出してくれるコーチが、練習方法、練習時間や試合出場者の決定権などを持ちます。コーチの上にはコーチを評価する上司がいたり、問題が起きた時に相談に行けるコンプライアンスがあったり、もちろんチームメイト間でも色々なトラブルが出てきます。大きな組織の中でプレーすることになるので、高校生の時とは訳が違いました。
チームメイトが練習をサボるために、練習方法が細かく定められていく悔しさ。自分のプレースタイルを買って奨学金を出してくれたはずなのに、コーチのプレースタイルを半強制させられる悔しさ。試合のメンバーに選ばれたいから、奨学金を増やして欲しいから、チームメイトを陥れるような情報をコーチに告げ口する者が現れる悔しさ。自分でコーチと良い関係性を保つ努力が必要でした。もちろんチームメイトがいて乗り越えられたことも多かったですが、自由だった高校生活と大学での環境はかけ離れていて、私にとってかなりのストレスになりました。コーチやチームによって環境は変わるので、行ってみないと分かりませんが、全てがうまく回っているチームはほぼないでしょう。


NCAA, Division 1 Regionalsにて・大学ゴルフチームのメンバーと
選択
学業とゴルフの忙しい日々に揉まれる中で、私は何のために頑張っているのかを見失ってしまい、大学卒業前には耐えるのに精一杯の日々を過ごしていました。それまでに積み上げてきたことが私に会計士かプロゴルファーという卒業後の道を示してくれましたが、どちらも、「やりたい!楽しそう!」という気持ちにはなれませんでした。悩みに悩んで、どちらも選択しないという決断をして、卒業と同時に帰国したのが5年前です。もし私が本気でプロゴルファーになりたかったのであれば、高校卒業時に大学へは行かず、プロテストを受ける選択をすればよかった。今思い返せば、当時の自分には先を見据えて選択をしていくだけの経験がなかっただけでした。
大学ではストレスも多く、ゴルフの調子はあまりよくありませんでしたが、そのおかげでメンタルヘルスについてたくさん学び、自分自身の声も聞けるようになりました。また、誰かの指示を受ける立場は苦手だということもよく分かりました。何事にもデメリットは付きものですが、私はそこから気付き得たものが大きかったので、人生というスケールで見ると大学での辛い時間があって本当に良かったと思っています。
自分にとっての幸せ
帰国後は自分自身を知るために、それまでの経験を元にたくさん考えました。何が好きで何が嫌いなのか、何が得意で何が苦手なのか。スポーツ留学はそれをたくさん炙り出してくれました。そしてたくさんのツールを私に残してくれました。
私は大学卒業時に積み上げてきたもの全てを手放す選択をしました。新卒カードは使わず、ゴルフも完全にやめました。周りの人からは勿体無いね、と言われることが多かったです。ですが私にとっては、そのまま進み続けることの方が勿体無いことでした。煌びやかに見えても、自分が幸せでなければ辛いだけです。
自分にとっての幸せとは何なのか。真剣に自分と向き合うようになってから世界が変わりました。現在は自身のアメリカでのトレーニング経験を生かし、パーソナルトレーナーとしてお客様の体を見させていただいています。天職だと思えるほど仕事が楽しく、充実した日々を送らせていただいています。全ての人に共通して健康は必要ですが、ただ運動をすれば健康な身体が手に入るとは限りません。私が思う心身ともに健康であるために必要なことを伝えるべく、独自のカリキュラムの開発と提供を目指しています。当時夢であったLPGA優勝は叶いませんでしたが、今また新たな夢を描きそれに向かって進んでいます。
最後に
これから世界へ飛び出して行こうと思う全ての方へ。思いっきり楽しんできてください!何でもポジティブに生かして、自分自身を第一に過ごせたら素晴らしい留学になると思います。そしてがむしゃらに頑張っていれば必ず多くのものが得られます。心から応援しています。
私の留学は思っていたより茨の道でしたが、そのおかげでたくさんの経験と学びを得て、自分にとって本当に大事なものが見えるようになりました。有限である時間を何のために使いたいか、人それぞれ自由ですが、人生は全て自分自身の選択で出来ていると痛感しています。ゴルフが上達していく過程で分析と修正を繰り返してきましたが、人生も同じだと思います。考える力と粘り強さ、それが私のアメリカで得てきた最大の財産です。みなさんも経験という財産をぜひ増やしてください。
まだまだこれからの私ですが、今回記事のお話をいただき、私の経験が少しでも誰かの役に立てばいいなと思い執筆させて頂きました。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
著者略歴

山本真実。東京都出身。両親の影響で幼少期からゴルフを始める。2011年家族でアメリカへ移住、ハワイ州カポレイ公立高等学校に入学。2012年単身フロリダ州モンテバードアカデミー高等学校へ転入。ゴルフアカデミーに所属する。2015年に高校卒業。その後テキサス州テキサス工科大学入学。ゴルフチームに所属し会計学を専攻、2019年大学卒業後日本へ帰国。現在パーソナルトレーナーとして活動しながら、自身の事業を展開するため奮闘中。