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アメリカのスポーツ留学で得た人生観

女子サッカー選手

梅原 万輝


プロサッカー選手として活躍する梅原万輝さんが、自身のアメリカ大学スポーツ留学経験を紹介してくれました。UCLAでの充実した4年間や、海外生活から得た貴重な洞察を共有。強さよりしなやかさを重視するメンタリティや、今を楽しむことの大切さなど、留学を考える人々への示唆に富んだエッセイです。ぜひご覧ください!(UJA編集部 赤木紀之)


はじめに

現在、チェコのプラハでサッカー選手として活動している梅原万輝です。同時期にアメリカの大学に留学していた黒﨑優香さんにバトンをつなげていただき、今回この「スポーツ留学のすゝめ」を書かせていただく機会をいただけたこととても嬉しく思います。私にとってアメリカ大学での4年間は現在の自分自身、周りの人、置かれている環境などとの向き合い方を形成させた大切な時間になったので、少しでも共有できればと思います。


自己紹介・海外生活の経緯

幼稚園の年中から年長に上がる時に転園した幼稚園で、サッカークラブが練習していたところに体験させてもらったことをきっかけに、サッカーの楽しさを知り現在まで続いています。

中学1年の夏に、父の仕事の転勤で家族とアメリカのニューヨーク州に引越し、3年間現地の学校に通いながら、地元のサッカーチームに所属しました。高校の入学式に合わせて、日本に帰国した時点では大学はアメリカに行くんだろうなとぼんやりと想像をしていました。日本の高校生活はとても充実していて、日本の大学に行くことも何度も悩みましたが、サッカーでアメリカの大学に入学する可能性があることを知り、高校3年生の夏前にスポーツ留学を決心しました。先生方にたくさんのお手伝いをしていただき、自分が合格をもらったいくつかの大学の中で、自分が学業とサッカーを両立し、人間としても最も成長できるであろうと思ったカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に入学を決めました。UCLAでは4年間、経済学と会計学を主に学びながら、サッカー部の一員として活動しました。卒業時に、サッカーを続けるか、企業に就職して働くかを悩んでいたところ、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの国ではサッカーができない状況になってしまったので、ひとまず会計士としてアメリカで働くことにしました。1年強の間、ロサンゼルスの会計事務所で働き、社会人としての生活に充足感はありました。しかし、コロナによって止むを得ず断念したサッカー選手としての道は常に頭の片隅にあったので、コロナも落ち着き海外渡航が許されるようになった2022年の2月にオーストラリアのブリスベンに渡航し、サッカー選手に転向しました。それ以来、現役選手としてサッカーを続け、現在チェコのクラブに所属しています。


アメリカの大学にスポーツ留学をするということ

学生アスリートとして過ごした4年間の大学生活を振り返ると、ほとんど休みなく常に頭と体を動かし続けた充実した時間でした。中学の3年間、ニューヨークで生活をした経験があったので、英語に問題はなかったものの、家族と一緒に生活するアメリカ生活と、親元を離れ、生活のほとんどを自分の決断で進めていく大学生としてのアメリカ生活は全く異なるものでした。1年生の間は寮生活をしていて食事もカフェテリアでしていましたが、2年生以降の3年間はキャンパス外のアパートにハウスメイトと住んだので、通学、食事、家事など全て自分次第という生活を初めて経験し、とても楽しくも、困ることもたくさんありました。もちろん、アメリカの大学ではアスリートも一般の学生と同じ量の課題やテストを課せられる上、ある一定の成績を保たないと部活動が禁じられてしまうルールもありました。一般学生としての勉強量と毎日の部活動、そして校内の図書館のアルバイトもしていたので、今振り返るとなかなか詰まったスケジュールで朝から晩まで動いていました。アスリートとして睡眠時間は最低限確保していましたが、朝ベッドを出てから夜ベッドに入るまで頭と体がフル稼働の日々で人として大きく成長した4年間でした。


UCLAサッカー部



アメリカ留学・海外生活を通して学んだこと

1.  強いメンタルより、しなやかなメンタル

スポーツの世界でも頻繁にメンタルという言葉を耳にしますが、アスリートに限らず、全ての人にとってメンタル・心の状態はとても重要になってきます。人間は変わっていく環境の中で、自分と違う意見を持った人と社会の中で生きていく動物です。特に海外に出ると、今まで自分が作り上げてきた「当たり前」や「常識」というものが、いとも簡単に覆されることが多々あります。日本人同士の間では黙認されている振る舞いや社会での当然のルールだと思っていたものが、一歩外に出ると意外とそうでもなかったりします。そのように自分の常識が通用しない環境でも上手くやっていくには強いメンタルが必要なのだと思って、なるべく芯を強く保とうと努力したものです。しかし、強いものはある程度のものに耐えられるのですが、予想の範囲を超えたものに出会ってしまうと、逆に脆く、修復するのに時間がかかるものです。それに気づいてからは、強さよりもしなやかさを意識し始めました。細かく説明すると長くなってしまいますが、違いを跳ね返して自分を律するのではなく、違いも柔らかく吸収しつつ、上手く交わしながら自分の形を変えていくイメージです。


2.  自分にも相手にも素直でいること

海外での生活に限ったことではないかもしれませんが、常に自分と向き合い、自分にも相手にも素直でいることは、成長していく上でとても大事です。自分が積み重ね、培ってきたものに自信や誇りを持つと同時に、実はそれが間違っていたかもしれない、もしくはもっと改善できる方法があるかもしれない、と気づいた時に新しいアイデアを取り入れられる素直さは人を飛躍させます。メンタルの話の際にも触れましたが、海外に出ると突拍子もない角度から意見を言われることがあります。それに反抗するのではなく一旦素直に受け入れてみると最終的に取り入れるかは別としても、新しい視点で自分と向き合えたりすることもあるので、素直さは海外で活躍するためには大事です。


3. 今を楽しむこと

特に大学4年間は、その後の社会人としての準備期間として捉えられがちですが、本当の意味で今を楽しむことは、大学の4年間もその後の人生でも大事なことのような気がします。私自身、もう少し大学生活を楽しめばよかったと思っています。入学した瞬間から、卒業した瞬間のことを常に意識して、自分なりの定義での社会人としての成功に向けて逆算しながら生活していた気がします。将来のことを考えるのは大切なことですが、そればかりを考えて焦ってしまったり、今しかできないことをないがしろにしてしまったりするのは勿体ないことです。大学4年間ほど同世代の人と触れ合って、多くの想いや経験を共有して、自分のために時間を費やせる時間はないように思います。大学を卒業して社会人になって企業で働くことと、サッカーの選手として活動することの両方を経験してからようやく「一瞬一瞬を大切にしていれば、いつか点と点がつながる時が来る。未来のために無理に現在を犠牲にする必要はない」と感じることができるようになりました。今、目の前にいる人と、今の自分と向き合って、全力で楽しむことが、最終的には将来の成功にもつながるのではないでしょうか。


留学を悩んでいる方々へ

私自身、まだまだ未熟でアドバイスできる立場ではないかもしれませんが、高校時代にたくさん悩んでアメリカへの大学進学を決めた経験から学んだことを少し共有します。人生において、何か選択肢が複数あって悩む時に考えることですが、選択肢自体に正解や不正解はないと思います。どれを選んでも、もう一方を選ばなかった後悔が少し残るだろうし、選ばなかった方を選んでいればより良い結果につながっていたかもしれないという可能性はあります。しかし、だからこそ自分が決断をしたら、その決断に責任を持って、自分が納得いくように向き合えば、必ず成長につながるはずです。私にとって日本の大学に行く選択や、アメリカの他の大学に行く選択は捨てがたいものでした。しかし、この大学に行くと決めた以上、その環境で得られるものを全て吸収したいと思い、自分なりにサッカーと学業に向き合いました。その中で、失ったものも得たものもたくさんあるとは思いますが、現在の自分の土台になるものを身につけられたので、今となってはどうしてあんなに悩んでいたのかと思うほど、自分の決断に感謝しています。たくさん悩むことはあると思いますが、自分の心の奥底では実は自分が何をしたいのかというのはわかっているはずです。その直感を信じて、新しい挑戦への準備ができたら、あとは行動に移すのみです。環境が変われば必ず成長できるとは言えませんが、新たな環境で自ら積極的に学びの好奇心を追求すれば、新しい視点でものが見られるようになり、少しだけ世界が変わるかもしれません。


終わりに

まずは、ここまで読んでくださってありがとうございます。頭の中で考えていることはたくさんあるのですが、文章に起こすとなると難しいもので、どこからどこまで書けば上手く伝わるか試行錯誤でした。読んでくださった方の今までの経験や、現在の心境によってこの文章は全く違うように捉えられると思いますが、これは現在の私の考えていることの一部に過ぎません。スポーツ留学に興味がある方に実際お会いしてお話ができれば一番良いのかもしれませんが、この記事で何か一つでも気づきや発見があれば嬉しく思います。皆様のご活躍を心から願っています。


筆者略歴

梅原 万輝

2016年渋谷教育学園幕張高校卒。2020年カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒(経済学専攻、会計学副専攻、サッカー部所属)2021年公認会計士として会計事務所、米ロサンゼルスオフィスにて勤務。2022年豪ブリスベンにてPeninsula Powerに所属。2023年より現在のサッカークラブPrague Raptorsに所属。



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