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学部生の研究留学

California Institute of Technology

川手里桜


憧れの大学院留学という夢に向けて学部生から取り組まれた川手さんの留学体験記です!いかにして学部生として留学され、夢のCaltechの大学院留学に繋げられたのか必見です!(編集部:土肥)


はじめに

「研究留学」と聞くと、大学院生以上の方が年単位の長期間に渡って、海外の大学院や研究機関で研究に取り組む、というイメージを持たれている方が多い気がします。実際、研究留学を希望する学生向けの国内の奨学金は、そのほとんどが一年以上の長期滞在を行う予定の大学院生を支援対象としています。これには、学部生で研究留学を志す人が少ないこと、ある程度専門知識が身につき、研究経験のある大学院生を支援した方が、学術的成果を得られる可能性が高いことなどが理由として挙げられると思います。しかし、マイノリティながら研究留学を希望する学部生は一定数います。現に私もその一人でした。


なぜ学部生で研究留学?

大学1年時より、国内で学士号を取得した後に、ストレートで米国の大学院(Masterではなく、Ph.D.課程)に進学することを私は夢見ていました。一般的に、ペーパーテストで合否が決まる日本の大学院とは異なり、米国の大学院は3通の推薦状と出願先の教授陣とのコネクションが合否を左右すると言われています。研究活動に関する具体的で、かつ定量的なエピソードが書かれた推薦状が高く評価されるため、推薦者となる 3 人の先生方といかに研究経験を積めるかが重要になります。最も強い、すなわち入学審査時に合格を後押しする推薦状は、「出願先の大学院に在職する先生から、出願者の研究能力について具体的な記述がある」推薦状です。それゆえ、私は第一志望校であったCalifornia Institute of Technology(以下Caltech)への研究留学を志しました。


図1  Beckman Institute


「学部生の研究留学」で立ちはだかる壁

Caltechへの研究留学を実現するために、乗り越えるべき3つの壁がありました。


1. 受入先のラボ探し

留学準備の開始時、私はCaltech関係者との繋がりが全くありませんでした。しかし、良いご縁に恵まれたおかげで、無事に受入先の研究室を見つけることができました。詳しい経緯につきましては、こちらをご参照ください。


2. 適切な留学時期の設定

民間団体等より複数の給付型奨学金を頂いていた関係上、大学を正規の修学期間(4年)で卒業する必要があり、留学実現のために「休学」という選択肢を取ることはできませんでした。学部3年生までは卒業要件を満たすために必須な講義が開講されていたため、学部4年時が留学する最後のチャンスでした。加えて、私が在籍していた学科では、学部4年の8月上旬に行われる「卒業研究の中間審査会」に対面で参加することが義務だったため、留学開始時期は早くても8月中旬と決まりました。また、後に触れる「トビタテ!留学JAPAN」が3カ月以上の留学を推奨していたこと、12月には帰国する必要があったことから、8月~11月を留学期間として設定しました。


3. 留学資金の確保

私の認識が正しければ、外部の学部生がCaltechで研究する際には、以下の6つの制度のいずれかを利用することになります。


SURF

VURP


このうち、アメリカ国籍や永住権を持たない、日本の大学に通う留学生が応募できるプログラムがSURF / LIGO SURF / VURPの3つで、私はVURPを利用して留学を行いました。ちなみに、VURPの募集要項は一般公開されておらず、閲覧にはVPN接続が必要です。受入先のラボの大学院生に紹介されるまで私はVURPの存在を知りませんでした。


VURPは最低10週間、最長で24週間に渡って学部生がCaltechで研究に取り組むために作られた制度です。他の制度と同様、滞在中に学生は受入先のラボの教授からstipends(俸給)を頂いて研究します。しかし、そのfundingに関しては例外もあり、教授がstipendsを支払うのに十分な研究資金を持っていない場合、学生は学外で奨学金を獲得する必要があります。私の場合は、Caltechが定めたstipends全額をカバーするのに十分な資金を教授が有していなかったため、外部で奨学金を獲得することを前提に話を進めました。その後、運良く「トビタテ!留学JAPAN」とキーエンス財団の奨学生に選んでいただけたため、funding関係の問題を解決することができました。


渡航準備

VISAの取得/住居探し/予防接種/海外旅行保険の申込/SIMカードの購入/各種書類・契約書の提出など、渡米までにやるべきことは色々とありますが、自分のような短期留学で最も苦労するのは「住居探し」だと思います。Caltechでは6月中旬~8月中旬以外の期間に留学する学生は、大学が保有する寮などには住めず、自分で家探しを行う必要があります。私の場合は、大学院留学支援コミュニティXPLANEのSlackを通じて出会った方がお力を貸してくださったおかげで、キャンパスから1ブロックのところにあり、家賃が$1050/月という破格の物件を見つけることができました。日本にいながら、土地勘のない異国の地にある物件を自力で探して契約するのは、なかなか大変だと思います。今後留学する方には、XPLANEをはじめとする留学コミュニティを活用して、現地にいらっしゃる先輩方に助けを求めることの重要性をお伝えしたいです。


図2 滞在したアパート


Caltechで過ごした14週間

一言で表すと「がむしゃら」な日々でした。進学を希望する大学院で研究留学を行うことのメリットは、志望校に在職する先生方に自身の能力や働きぶりを見ていただける、受入先のラボのPIに推薦状を書いていただける、といったことが挙げられます。逆に、留学中に大した成果を挙げられなければ、自ら大学院合格の可能性を下げることになりかねません。これまでの経験から、私には特筆すべき研究能力はないと痛感していましたので、朝は誰よりも先にラボに行く、メンターである大学院生から頼まれたタスクをできる限り多くこなす、土日を返上して働くといった地道な行動を繰り返しました。運の良いことに、そうした私の姿を評価してくださるメンターや先生方と出会い、彼・彼女らの元で働く機会が得られた結果、Caltechからオファーレターを貰うことができたのではないかと思います。


研究留学を行う予定の大学生へ

本記事を読んでくださった方の中に、学部生の方がどのくらいいらっしゃるのかわかりませんが、私が辿ったのと同様なルートで米国大学院の進学を目指している方に向けて、僭越ながらこちらで三つアドバイスをさせていただきます。1)直属の上司にあたる方(例.大学院生、ポスドクさん)との関係を良好に保つようにしましょう。あくまで個人的な意見ですが、何か大きな成果を挙げてから報告に行くのではなく、小さな進捗でも構わないので、毎日こまめに報告を行った方が良いです。直属の上司からの評価が高いことは、ラボのPIからの推薦状の質の向上にも繋がると考えられます。2)実験ノートを丁寧に書きましょう。特にスピーキングに自信がない方は、その時に考えたことなどを詳細に書き込んでおくことで、ラボ内でのディスカッションで自分の意見を主張する際に、実験ノートがカンペとして役立ちます。3)メンター含め周りのラボメンバーに、米国大学院に進学したい旨を打ち明けましょう。これは完全にn=1の体験談になりますが、周りの大学院生たちにCaltechに進学したいことを打ち明けたところ、当時大学院に提出したエッセイの共有やSoPの添削、出願校や研究室選びのアドバイスなど、私の大学院出願を様々な形でサポートしてくださりました。


皆さんの研究留学が実り多いものになることを願っています。留学楽しんでください!

図3 ライトアップされたBeckman Auditorium


著者略歴

川手里桜(かわてりお)

2024年3月に明治大学理工学部機械工学科を卒業。同年9月より、California Institute of Technology 機械工学専攻 Ph.D.課程に進学。船井情報科学振興財団 奨学生 (2024 - )




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