留学小ネタ集/高岡勝吉

① 執筆者 :高岡勝吉 ② 情報時期: ③ 留学先 :ドイツ・マックスプランク生物物理化学研究所


留学と聞くと「留学とは何かを学ぶために行くのであって、学生でない君が学びにいくとは何事だ」とドイツに来る前に某教授にお説教されたのを思い出す。要するに、日本で培った僕の能力を海外の人々に見せつけてやりなさい、という叱咤激励したかったようなのだが、当の僕はそんな自信もなく、ヨーロッパのサイエンスへの興味と語学の勉強目的が51%、未知の生活や将来の不安が49%で、1%ポジティブ過半数超えだから海外に行こうというノリだった。そんな僕には海外の研究者と切磋琢磨し、とか、海外PIを目指し、などという高尚な文章を書けるはずもないので、ここではこれまで1年半という短いドイツで研究生活を送ってきた間に経験したあるある話を小ネタ集のような感じで書こうと思う。Facebookハイライトみたいなものなので流し読んでもらっても構わないし、これから海外へ行こうとする人の心の準備になればと思う。


ゲッティンゲン。僕が住んでいるドイツの田舎町。ノーベル賞受賞者が40人以上(軽く日本超え)の学問の都市。博士取得学生は飾り付けられた馬なし馬車に乗せられ、旧市庁舎前のガチョウをもった女の子の像にキスをするのが伝統。いろんな有名科学者のお墓があるくらいで、観光地はないので観光目的の方にはオススメしない。日本よりも親切な人が多いので、ドイツ語が話せなくても身振りと情熱でなんとか通じることが多い。財布を落としても返ってくる。


地震。基本的に地震はないので、街中には明らかに傾いている家もあるし、中には倒壊寸前ってのもある。日本の研究室にありがちな地震対策用の鎖とか安全ヘルメットなんて皆無。


食品。スーパーの食材は非常に安いが、外食すると日本並み。ビールとソーセージとイタリア料理が超美味しいが、他はあまり美味しくない。でも、最近ではアマゾンや大都市のアジアンスーパーマケットからネットで色々買えるので、思ったよりも日本食に困らない。けどやっぱり美味しい海産物がなく、日本の流通システムの素晴らしさを実感。


バス。バスが主な交通手段のゲッティンゲン。4, 5分程度の誤差はあるものの割と時間通りくるし、2ユーロちょっとでどこでもいけるので便利。ちなみに学生はなんと無料。ただ日曜の始発が10時だったりするのが日本と違うところ。あと、年に2回ほどストライキがあって、しかもネットで1日前に公表されるもんだから、スト当日は、バス停にネットを見てないお年寄りがバスを待ってたりすることが多々。それと、バスが壊れたとか言われて突然下車を求められたり。日本だったら非難轟々だろう。


歓送迎会。歓送迎会は基本来る人、送られる人が主催。日本みたいに歓迎会ないのかなって待ち続けててもありません。まずは自分からアクション。これ海外で暮らす基本。


飲み会。日本だと上司がおごるのがほとんどだが、ドイツではみんな自分の飲食したものだけ払う。もちろん最後の人は誰が飲んだかわからないものまで払うことになる。日本の学生にたかられてた人々にとってはかなりありがたい環境。日本だとよく花金だとか金曜に飲み会が開かれるけど、ドイツでは木曜によくある。なぜなら金曜の午後から週末は家族と過ごす時間だからで、日本より週末が1日早い感じ。ちなみに日本だと乾杯の際にグラスの口に目をやりがちだが、ドイツではお互いの目を見ないと7年間不幸になるので、お互い目を凝視する。


徹夜。基本、徹夜なんてクレイジーなことはしない。たまに徹夜すると、早く帰れってリアルに制止されてしまう。日本では賞賛されがちなハードワークは、ここではむしろ効率の悪い人がする恥ずべきものなのかも。


時間厳守。ラボミーティングとか大体5分遅れで始まる。日本で5分前集合がルールだったりするが、ドイツでは5分遅れ厳守なのかも。

キレる。突然キレる。何事かと聞いたら、パソコンのソフトがクラッシュしたのだとか。

そんなにキレなくても、、、と言ったら、「俺も穏やかな日本人になりたいよ」って。


話好き。実験中であろうが、問答無用でディスカッション/雑談が始まる。日本でたまにいる超話し好きな人が大多数を占める環境。言葉が通じなくても、なんのその、会話が始まると最低10分は続きます。

オリゴ。PCRなどDNAワークには欠かせないDNAオリゴ。日本にいた頃は夕方17時までに頼めば、次の日の昼過ぎには「すいませーん。◯◯会社ですー。」というダミ声と共におばちゃんがきてたのだが、今では注文してから最低3日。タイミングが悪いと一週間くらいかかるという遅さ。なので、失敗した時のための保険用のオリゴも注文するのがポイント。


有給休暇。全部使って当然。むしろ残してる方がクレイジー。無給休暇がドイツ流。

 業者の対応。超遅い。自分の実験に必要な装置の性能や見積もりを数社に問い合わせたら、早いところは2日遅れ、遅いところは2週間後とか。それもあまりにも遅いから日本支社の人に急かせてもらって。大阪だったら即レスで1ヶ月もあればデモも終えて欲しい装置を購入できたのに、ドイツでは半年以上かかってます。知り合いから、自分のメールにDr.(自分)ってつけると対応が早いそうなので、それ以来お守り代わりにDr.ってつけてます。


常温で届く制限酵素。日本の過剰包装も問題だが、これもどうかと思う。今のところ問題なく使えているのでクレームはつけないが、なんでこんなことが。。。運悪く休みと重なると丸2日常温放置されてしまう。でも、こんなのはよくあること。


コンタミ。共通試薬や培地のトラブルがよく起こる。大勢の人が使うからしょうがない点もあるけど、日本で厳しく仕込まれた僕からすると、ピペットマンの使い方や計量の仕方からなってない。ある時、きちんとした培地の作り方を僕に聞きに来た学生に「みんな手技が適当なんだけど、ヨーロッパってこんな感じなの」って逆質問したら、「適当な人が多いけど、厳しいラボはめちゃくちゃ厳密って」。研究してる分野にもよるのかな。で、コンタミを恐れて自分用の試薬のストックを作ってたらフリーザーが他の人の3倍。たまにトラブル起こると僕のストックの供出。本末転倒な気もするけど、まぁいいか。


貸し借り。隣のベンチのポスドクがちょいちょい僕の実験ベンチの溶液を何も言わずに使ってるのを目にする。自分の溶液があるのに。。。不思議に思って尋ねると、僕の溶液の方が信頼できるから使ってるんだとか。不特定多数が使うとコンタミ起こるやんって思っても、笑顔で「OK、使ってもいいよ。」と答える。でも、ある時チューブがきれて、倉庫のストックもきれてたので、そのポスドクに使ってもいい?って尋ねると、「なんでそんな些細なことを聞くんだ?いつでも使っていいに決まってるだろ。今後は尋ねなくていいよ。」って。「いや、尋ねてくれよ!」心の中でツッコミ。ドイツの感覚に慣れるのは中々難しい。


日本人。研究所には4人日本人がいるがほとんど会わない。でも、実験装置を借りている部屋の実験補助員のおっちゃんが言うには、大昔ジャマダーとマサイダという日本人と一緒に働いたのだとか。そんなキラキラを通り越してファンキーな名前の日本人はいないだろって思ってたら、山田と雅秀だった。ドイツではJaはヤって発音するから混同したのかな。ちなみにお2人とも立派な教授です。


実験のお願い。研究所全体で実験の手伝いをしてくれるスタッフが数人いる。その中にいつもネットサーフィンしてるおじさんがいて、何か仕事あったら言ってくれよと時間を持て余してそうなので、ルーティンワークをお願いしたら、「これから始めるとクリスマス休暇と重なるから来年」って。「緊急でとても大事な実験だから途中までお願い」ってちょっと押してみたら、「お前働きすぎだ。クリスマス休暇くらい休めよ!」だって。で、結局自分でやることに。どうやらクリスマス休暇の一週間前から休みモードらしい。中々、日本のノリで実験をお願いするのも大変だ。


学生。みんなかなり優秀。自分の頭で考えて理解できないことは納得できるまで質問するし、理解したことはすぐに応用する。なので、ラボの共通プロトコールはあるけど、みんなちょいちょい自分なりに変えて使ってる。僕の日本の学生の印象は、とりあえず原理を理解せずにプロトコール通り実験する感じ。どっちがいいかはわからないけど、僕がPIだったらドイツの学生のような学生がラボにいると楽しいと思う。


研究環境。色々なステップで時間のくう研究環境なのになんで論文がでるのか?まだ明確な答えはまだわからないけれど、たぶん必要な実験が分業されてたり、誰かが長期に休んでもバックアップされるシステムがきっちりしているからかも。良くも悪くも、いかに効率よく最短距離でインパクトのある論文を出すかが確立されている。一方で、何か興味のある現象を解き明かすことをモチベーションにしている感が希薄のような気がする。むしろ研究を始めて日の浅い修士の学生の方が、自分の興味のある生物現象が明確だったりする。


週末と平日。もし金曜日に病気になったら、日本だと週末寝て治すって言うけど、ドイツではせっかくの週末が台無しだって残念がる。週末の楽しみのために平日働いている感じ。日本だと研究や仕事があると、プライベートな生活を削りがちだが、ドイツでは生活ファーストでその上に研究を効率よくどう組み合わせるかを考える。よく日本人PIが外国人は働かないって言うけど、その原因はここにあるのだろう。ドイツ人からすると、日本人は燃費の悪い実験ばかりするハードワーカーと思われているかも。

ドイツで研究していて思うのは、研究活動というものがいかにその風土の生活に基づいた活動であり、音楽とか芸術なんかの文化活動の一部だということ。例えば、街を歩いていると至る所に教科書にも載っているような有名科学者の住んでた家とか、研究室の跡地なんかの記念モニュメントが残っていたり、一般向けのサイエンス関連のイベントが開かれたり、サイエンスが生活に根付いているのを感じる。日本は明治維新でそれまでの日本独自のサイエンスに自信をなくしたのか、まだ文化としては日が浅く成熟していないような気がする。でも、今後日本にサイエンスがどう文化として根付いていくのか考えるとちょっと興味深い。

これから海外に行く人は日本スタイルを無理に持ち込むような無粋なことはしないで、最初の半年ないし1年でも郷に入っては郷に従えで行き先の研究スタイルに順応してみるのもいいかも。そうすると同じ研究をするにしても景色が一色増えて見えるかもしれない。

 ちなみに、冒頭にでてきた某教授と別れ際に「ゲッティンゲンは文化的に良い町だから、文化をんできなさい」というお言葉を頂いた。「やっぱ留学でいいやん」って。

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