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多様性に関する活動指針

更新日:2021年3月8日

多様性に関する活動指針

doi: 10.34536/uja_diversity



赤木紀之, 足立剛也, 伊藤みどり, 黒田垂歩, 河野龍義, 松居彩, 森岡和仁, 柳田絢加 & UJAワーキンググループメンバー


2020年8月12日

 UJAは、人種、性別、年齢、地域や宗教、思想、専門分野、さらに心身機能*1など多岐に渡る社会的多様性を、しっかりと理解・尊重し、我々の言葉で表現することで、新たな学術的多様性を推進し、日本に関わる全ての研究者が安心して国際的に活躍するサイエンスの未来を創造していきます。


本指針を表明するに至った経緯

 私たちが暮らすこの世界は多様性に満ち溢れている-こう表現するのはとても簡単です。しかし、私たちは「多様性」の本質について本当に理解しているでしょうか。そもそも日本人研究者というある種の同質性をもった集団であるUJAが、なぜ多様性を重要視しなければならないのでしょうか。

 海外で生活する日本人研究者は、人種の問題、ジェンダーバランス、政治・宗教上の対立など日本にいるだけでは十分に感じ取れない、グローバルな課題を実感する機会に直面します。しかし、日本人的価値観から思考停止に陥ったり、自分自身の文化的・教育的背景による偏りによって表面的な理解に留まったり、日本に戻った瞬間に課題に対峙する機会が失われることもあります。分野融合や国際連携、若手研究者活躍の推進に男女共同参画などの様々な取り組みは、当事者にならない限り自分とは無関係なもの-そう割り切ってしまっている現状の深刻さに気づいたことがこの取り組みのきっかけでした。


活動指針

 海外留学を経験している/していたとはいえ、多様性に関して長期にわたり対峙してきたメンバーもいれば、最近改めて問題を再認識したものもおり、UJAのメンバー皆が多様性について充分な意見を構築できているわけでもありません。ポリティカル・コレクトネス*2を追求しようとするあまり窮屈な状況を生み出すことになれば本末転倒です。そこで、UJAは様々なキャリアステージにあるメンバーやサポーターがオープンなディスカッションを通じて、「あっ、今の発言はちょっとまずいかも」「そういう表現は控えよう」「あの企画には多様性の意識が足りないかも」などと気兼ねなく指摘しあえる、コンセンサスを欠かさない環境づくりを積極的に進めていきます。


1. 気付き:「無意識のバイアス」と「アファーマティブ・アクション」の理解を深めます。

  • 無意識のバイアスとは、「誰もかもが潜在的に持っているバイアス (偏見) のことです。育つ環境や所属する集団のなかで知らず知らずのうちに脳に刻み込まれ、既成概念、固定観念となっていきます」*3。その克服方法などについて理解を深めます。

  • アファーマティブ・アクションとは、「少数民族(黒人,ヒスパニック,先住民,アジア系,太平洋諸島出身者)と女性をめぐる差別を積極的に是正し,結果的に平等を実現しようという政策」*4です。アクションの内容だけでなく、その結果に対するフォローを含めて理解を深めます。



2. 学び:多様性に関する国内外の現状を把握するための活動を検討します。

  • 様々な組織・個人における人種、性別、年齢、地域や宗教、思想、専門分野、心身機能等の多様性の推進・尊重に関する現状を把握するための活動を検討します。

  • 具体的には匿名を基本として、かつてどのような問題に直面し、どう解決したかの調査、及びメンバーの所属母体などでどのような取り組みがなされているか学んでいきます。



3. 場の設定/共有:個人、団体、社会が多様性に関して議論しやすい環境作りを考えます。

  • 個人が安心して多様性に関する議論、情報発信をできる環境を考えます。まだまだ多様性に関する理解が十分でないUJAのメンバーが、悪気なくしかし問題となり得る言動をとった際に、厳しい言葉で叱責し、排除するのではなく、考える契機となる情報共有や機会を提供することを原則とします。

  • さらに個人だけでなく、団体として理解を共有できる場を提供し、社会として建設的な議論をしやすくするにはどうしたら良いかを考えます。


これからの継続的・包括的取り組み

 さらに、UJAとして継続的かつ包括的に、以下の取り組みを検討します。


  1. 「Diversity drives innovation」を念頭に、UJAとしての日本人のための多様性に関するビジョン、ゴール、アクションを策定し、UJAのメンバー及び団体が、将来的に学術的多様性の議論を牽引できるようになることを目指します。

  2. 研究者=研究に関わる全ての人々 (大学院生、技術系職員、事務系職員、ポスドク、企業の研究者、研究経験者、大学教職員、研究者を志す人(高校生、大学生を含む)等) と捉え、日本人研究者だけでなく、日本に関係する様々な人々への展開を考えます。

  3. With-COVID-19時代に人と人との交流が変化し、リモートでの交流が主体となったり、バーチャルリアリティ空間でアバターを介してのみ交流するようなケースも今後想定されます。多様なアバターを介した会話では、無意識のバイアスはなくなるのでしょうか?リアルとバーチャルリアリティが行き交う世界での多様化とは何を意味するのでしょうか?今後発生しうる新たな課題に対しての議論を早期に開始します。


参照


*1 精神・身体的機能の障害を機能的多様性と表現したり、広義の多様性に含めるべきかどうか、については別途議論が必要である。本指針は今後様々な議論を継続していくことを重要視していることから、その対象に加えることを明確にするために、記載に含めている。


*2 ポリティカル・コレクトネス:人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること。1980年代ごろから米国で、偏見・差別のない表現は政治的に妥当であるという考えのもとに使われるようになった。言葉の問題にとどまらず、社会から偏見・差別をなくすことを意味する場合もある。 - デジタル大辞泉


*3 無意識のバイアス - Unconscious Bias -とは、誰もが潜在的に持っているバイアス (偏見) のことです。育つ環境や所属する集団のなかで知らず知らずのうちに脳に刻み込まれ、既成概念、固定観念となっていきます。バイアスの対象は、男女、人種、 貧富などと様々ですが、自覚できないために自制することも難しい。- 「無意識のバイアス - Unconscious Bias - を知っていますか?」男女共同参画学協会連絡会著(2019)


*4 アファーマティブ・アクション:1964年のアメリカ合衆国公民権法第7編で〈人種,宗教,性,出身国,皮膚の色〉を理由とする雇用などの差別は禁止されたが,とりわけ黒人などは,長年の差別によって,差別が廃止されたからといって白人と対等に競争する準備は当然できていない。そこで考えられたのが,少数民族(黒人,ヒスパニック,先住民,アジア系,太平洋諸島出身者)と女性をめぐる差別を積極的に是正し,結果的に平等を実現しようという政策,つまりアファーマティブ・アクションである。- 世界大百科事典 第2版


なお、「社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別な機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のこと)」をポジティブ・アクションといい (ポジティブ・アクションとは 内閣府男女共同参画局)、日本においては女性の活躍推進の文脈で取り組まれている (厚生労働省 女性の活躍推進協議会)。



謝辞

 本指針の作成にあたり、重要な情報提供及び助言をいただいた東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN) 機構長直別補佐の久保真季氏、一般社団法人Papa to Children創業理事の高橋俊晃氏に感謝の意を表する。


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