UJA留学のすゝめ2021 @MBSJ2021 日本の科学技術を推進するネットワーク構築 開催報告

更新日:2月14日

岸 誠司 川崎医科大学腎臓・高血圧内科学

doi:10.34536/finding_our_way_009


海外日本人研究者ネットワーク(United Japanese researchers Around the world 、通称UJA)は、海外で活躍する日本人研究者を束ねる組織として活動しており、研究留学を志す若手研究者の積極的なサポートも行っています。その一環として、日本国内の学会やフォーラムなどで交流イベントを実施しています。日本人の海外留学者数が減っていく中、COVID-19パンデミックも海外留学と言う選択肢に大きな影響を及ぼしています。このような過去に例を見ないような大変な状況にありますが、今年もUJAでは第44回日本分子生物学会年会にて(2021年12月2~4日)で「UJA留学のすゝめ2021 日本の科学技術を推進するネットワーク構築」と題したフォーラムを開催いたしました。様々なステージの7人の研究者が登壇し、それぞれの留学体験を語っていただき、オンライン、現地合わせて100人ほどの参加をいただきました。この記事では、そこでの発表内容を要約して紹介します。


パネリスト

辻井 悠希

Hawkesbury Institute for the Environment, Western Sydney University, NSW, Australia,

Department of Biological Sciences, Macquarie University, NSW, Australia

岡⽥ 萌⼦

神戸大学大学院 農学研究科 植物遺伝学研究室

森 雄太郎

ハーバード⼤‧医‧ブリガムアンドウィメンズ病院‧内科‧腎臓部⾨

瀬川 孝耶

国立感染症研究所薬剤耐性研究センター

井上 剛

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内臓機能生理学

吉⾒ 昭秀

国⽴がん研究センター

新⾕ 政⼰

静岡大学大学院総合科学技術研究科工学専攻

静岡大学グリーン科学技術研究所


モデレーター

岸 誠司

川崎医科大学腎臓・高血圧内科学/Harvard Medical School留学

鈴木 仁人

国立感染症研究所/Harvard Medical School留学



辻井 悠希さん

―生態系生態学、地球規模での現象の解明―

京都大学を卒業され、学術振興会海外特別研究員を経て現在も特別研究員(PD)として豪州‧マッコーリー⼤学⽣物学科にてオーストラリアの植物のリン利⽤戦略の研究を継続されている辻井さん。植物のリン利⽤戦略が⽣態系のリン動態に与える影響に興味を持たれ、海外を調査地にして研究を続けてられています。地球規模での現象を理解するためには、各国の研究者とのコラボレーションだけでなく現地調査など多くのことが必要で、その経験はラボ内にとどまらず、マレーシアの熱帯雨林の調査などとてもスケールの大きいものになっています。そこでは様々な生態系を見るだけでなく、多くの文化にも触れることができることをお話しいただきました。一方で、オーストラリアでは膨大な書類作業、マレーシアでの調査許可を取ることの大変さなども紹介いただき、日本の良さにも触れていただきました。ネットワーキングの手段としてのシドニー日本人研究者会の紹介もいただきました。


岡⽥ 萌⼦さん

―博⼠学⽣の中期留学のすゝめ〜⾮英語圏へコロナ禍での留学〜―

神⼾⼤学⼤学院農学研究科植物遺伝学研究室に在籍して、主にコムギ近縁野⽣種を対象とした研究をされていた岡田さん。2018年4⽉のパンコムギゲノム配列解読を受け、大学院での博⼠学⽣⽣活を送っておられた中で、スイス、チューリッヒ⼤学の清⽔健太郎教授からの勧めで、JSPS若⼿研究者海外挑戦プログラム制度を利⽤して1年間の研究留学をされました。チューリッヒ⼤学に学位取得を⽬指す中でいわば佳境と⾔える時期に留学され、自身のデータ解析も続けながら新しい研究テーマにも取り組まれ論文発表されたことをお話しいただきました。合わせて、当時できたばかりの研究助成制度への申請、渡航してからの研究⽣活、COVID-19によるロックダウンの経験、スイスという非英語圏での生活などについてもお話しいただきました。


森 雄太郎さん

―シャークタンクを生き延びて、卓越研究員として帰国―

東京医科歯科大学を卒業され、腎臓内科医としてのトレーニングを受け、大学院にて学位を取得された森さん。基礎研究の発展を希望され、大学院卒業後に一般病院勤務を経て、ハーバード大学に留学されました。留学された先輩への憧れ、研究テーマへの行き詰まり、アカデミックポジションの獲得が難しかったことなどがきっかけとも言われました。留学までの道のりも決して平坦ではなく、まずは留学を現実的に可能とするフェローシップ獲得の苦労をお話しされました。留学後も、英語の問題、子供の教育、妻のキャリア、そして自身のご病気のことなど多くの困難があったようですが、精力的に研究を勧められ、Cell Metabolismに論文を発表されています。さらに上原記念生命科学財団、学術振興会海外特別研究員と留学後はグラントも獲得に成功され、来年度よりは卓越研究員として母校にて研究を継続されると言う、留学後のキャリアプランについてもお話しいただきました。


瀬川 孝耶さん

―コロナの中の留学―

COVID-19流行が拡大をする中で、自分の成長が望める環境での研究を追い求めて米国ミネアポリスのUniversity of Minnesotaにて細菌学の基礎研究をされた経験談をお話しいただきました。留学前における受け入れ先の決定がとても重要であること、またグラント獲得が重要である点もお話しいただきました。瀬川さんは上原記念生命科学財団の留学助成を獲得されておられます。

英語でのコミュニケーションに最初は苦労されたが、その後に日本語ではない英語でのコミュニケーションを通して科学研究における議論の大切さを学ばれたお話しをいただきました。また自分の研究の軸を、留学を通して形成できたこと、主体的に行動することの大切さを学ばれたことをお話しいただきました。

生活面では居住地の治安の問題と医療へのアクセス、アメリカ留学で経験する歯科医療(自身で歯科用のセメントを使って対処されたお話し)のこともお話しいただきました。


井上 剛さん

―バージニア大学への留学。留学時の研究テーマの選択とその後のキャリアプラン―

⻑崎⼤学医学部を卒業後に、腎臓内科医として研鑽を積んだあと、⼤学院博⼠課程(東京⼤学⼤学院医学系研究科)へと進学された井上さん。クロマチン⽴体構造変化を介した転写メカニズムに関する研究を⾏われたのちに、バージニア⼤学腎臓内科へと留学されました。

⼤学院時代にやっていた研究をより深化させるか、もともとの専⾨である腎臓に関する研究を⾏っている研究かの2択でかなり悩まれたそうですが、最終的に初⼼に戻る選択をされ、神経系―免疫系を介した抗炎症‧腎臓保護メカニズムの解明に関する多くの業績を挙げられました。帰国後東京⼤学⼤学院医学系研究科慢性腎臓病病態⽣理学講座を経て、2020年5⽉より⻑崎⼤学⼤学院医⻭薬学総合研究科内臓機能⽣理学教授に着任されています。留学にあたり、海外特別研究員に面接を経て採用された過程での苦労、戦術や留学先でのコラボレーションが成功し、現在もプロジェクトが進行していることなどをお話いただきました。また、家族と一緒に留学すること、家族との時間の有効な使い方についてもお話しいただきました。


吉⾒ 昭秀さん

―アメリカ東海岸留学の魅⼒-

東京大学血液内科でスタッフとして、白血病の診療と教育、さらに特に転写因子をターゲットとして研究されていた吉見さん。車無しの生活ができるところ、ということで⽶国東海岸(ニューヨーク)を選ばれています。研究に専念して、多くの業績を挙げながらも私生活も充実していたことをお話しされました。また、東海岸の良いところとして、有能なPIが多く、その上で共同研究が上手であること、情報が早いこと、潤沢な研究費、施設の研究のコアの充実、ノーベル賞研究者と話せる環境など、世界の中心にいる感覚を体験できたとのことでした。約5年間の留学で、Nature誌をはじめとしていくつかの研究成果を報告された後に現在の所属先にPIとして帰国し、研究室を運営されています。


新⾕ 政⼰さん

―オーストリア‧ドイツでの在外研究〜教員になってからの留学〜―

新谷さんにはアカデミアで教員になってからの、ドイツ語圏で最古の大学であるウイーン大学への留学経験をお話しいただきました。自身のご専門である遺伝子の水平伝播に関する研究テーマをNatureの出るラボに持ち込まれた経緯に始まり、ネットワーキングで研究が発展し、教授宅で論文執筆されるなかで海外研究者の論文執筆法を学ばれたユニークな経験をお話しいただきました。また、ヨーロッパの歴史と音楽のお話や、ヨーロッパ人の朝が早いこと、有給休暇の日数を皆が把握しており、心に余裕があることなど、我々日本人が忘れかけている多くのこともお話しいただきました。帰国後も静岡大学で研究室を運営されています。


全ての講演終了後には、毎年、この企画に協賛いただいているトミー精工様より演者の皆様に卓上遠心機を贈呈いただきました。写真は贈呈いただいた時の様子です。