top of page

ヨーロッパへの留学と国際共同研究/千住洋介

更新日:2023年12月18日

執筆者 :千住 洋介

留学先 :ヘルシンキ大学 バイオテクノロジー研究所

留学時期:2012年 4月 ~ 2019年 3月

現在  :岡山大学 異分野基礎科学研究所・講師

doi :10.34536/finding_our_way_010


私は2012年から2019年の7年間、北欧フィンランドのヘルシンキ大学へ留学しておりました。ヘルシンキでの生活や研究については、日本膜学会膜誌の留学体験記に具体的に記しておりますのでご参照いただければ幸いです [1]。誌面の制約上記載できなかった他国での共同研究の経験について、記憶が風化する前に記させていただければと思います。海外での共同研究の経験は、今でも大切なネットワークになっています。これから留学を考えておられる、特に若手研究者の方の参考になれば幸いです。


私はヘルシンキ大学に滞在中にも、フランスのキュリー研究所、ドイツのハイデルベルク大学、 イギリスのUniversity College Londonなどに滞在して共同研究を行いました。


私が研究滞在したフランス、パリのキュリー研究所は、マリー・キュリーによって設立され、これまで多くのノーベル賞受賞者も在籍しています。私はキュリー研究所で、細胞サイズのリポソーム (GUV: giant unilamellar vesicle) を光ピンセットで牽引することでナノチューブを形成し、膜の曲率を認識するタンパク質を同定しておりました [2-3]。私の個人的な印象になるのですが、フランスは独自の (芸術的な?) 実験手法を確立してオリジナルな研究を進めるスタイルの雰囲気を感じました。


ハイデルベルク大学は、ドイツ最古の大学でノーベル賞受賞者も数多く輩出する歴史のある大学です。ハイデルベルク大学では、ニコンイメージングセンターで超解像顕微鏡を用いて細胞間接着の細胞骨格の超微細構造を観察しておりました [4]。ドイツにはライカやカールツァイスといった高性能な顕微鏡を開発しているメーカーもありますので、日本のニコンの顕微鏡を使いに行くのも少し変な感じでしたが、当時フィンランドには超解像顕微鏡がなかったので共同研究しました。これも私の個人的な印象になるのですが、ドイツの研究は堅実で、ノーベル賞の受賞にも見られるような超解像顕微鏡の開発や物理学に強い印象を受けました。


University College Londonは、オックスフォード、ケンブリッジに次ぐイギリスで3番目に古い大学で、ノーベル賞受賞者も数多く輩出する歴史のある大学です。私はそこの研究室で独自に開発された装置を使わせていただき、上皮細胞の細胞間接着の強さを計測し、上皮細胞シートの張力や粘弾性などを測定しておりました。滞在した研究室は多国籍で (イギリスでは一般的かもしれません)、研究室同士でタッグを組んで論文を書くことも多いようです。また、イギリスでは毎週金曜日の夕方はパブへ飲みに行くのも通例でした。


簡単になりますが、以上の共同研究の機会はヨーロッパで開催された学会に参加してディスカッションする中で得られたものです。フィンランドはヨーロッパの他の国にもアクセスしやすく、ヨーロッパでは共同研究が盛んでEU内など国同士の風通しも良いため、このような機会に恵まれました。


留学したことで海外の優秀な研究者に出会い、たくさんの知り合いができたことは、今後国際共同研究を進める上で自分の大きな財産になっています。これからも多くの、特に若い日本人研究者が海外に留学して研究する希望を持たれることを願っております。もし何か留学に際しての情報収集や疑問点などございましたら、遠慮なくご連絡いただければ幸いです。


末筆になりますが、これまでご指導いただいた先生方、私の留学への思いをかなえ、サポートいただいた日本学術振興会二国間交流事業、公益財団法人アステラス病態代謝研究会、スカンジナビア・ニッポンササカワ財団、金原一郎記念医学医療振興財団、一般財団法人フォーデイズ自立支援協会、Academy of Finland、The Company of Biologistsに改めて感謝申し上げます。



ネッカー川沿いのハイデルベルクの美しい街並みとハイデルベルク大学のニコンイメージングセンター。EMBL(欧州分子生物学研究所) やMax Planck Instituteも近くにあります。


【参考文献】

1. 千住 洋介, 北欧ヘルシンキへの留学, 膜, 2023, 48 巻, 5 号, p. 244-247

2. Tsai FC, Bertin A, Bousquet H, Manzi J, Senju Y, Tsai MC, Picas L, Miserey-Lenkei S, Lappalainen P, Lemichez E, Coudrier E, Bassereau P. Ezrin enrichment on curved membranes requires a specific conformation or interaction with a curvature-sensitive partner. Elife. 2018 Sep 20;7:e37262.

3. Tsai FC, Henderson JM, Jarin Z, Kremneva E, Senju Y, Pernier J, Mikhajlov O, Manzi J, Kogan K, Le Clainche C, Voth GA, Lappalainen P, Bassereau P. Activated I-BAR IRSp53 clustering controls the formation of VASP-actin-based membrane protrusions. Sci Adv. 2022 Oct 14;8(41):eabp8677.

4. Senju Y, Mushtaq T, Vihinen H, Manninen A, Saarikangas J, Ven K, Engel U, Varjosalo M, Jokitalo E, Lappalainen P. Actin-rich lamellipodia-like protrusions contribute to the integrity of epithelial cell-cell junctions. J Biol Chem. 2023 May;299(5):104571.


【プロフィール】

愛知県蒲郡市出身。東北大学理学部物理学科卒業。東北大学大学院理学研究科物理学専攻修了。博士 (理学)。東京大学博士研究員、助教を経て、ヘルシンキ大学に博士研究員として留学。帰国後は、岡山大学異分野基礎科学研究所で助教、講師として、細胞膜と細胞骨格の生物物理学、構造生物学の研究・教育をしています。

コメント


bottom of page