【COVID-19クライシス#5】浜村 有希(ドイツ・ハンブルク大学)

最終更新: 5月24日

執筆者:浜村 有希

執筆日:2020年4月28日

国名:ドイツ

所属:ハンブルク大学

トピック:研究室運営、海外生活


COVID-19による接触制限措置が言い渡され早5週間、未だ変則的な生活が続いており、私の所属する研究室でも日々刻刻と状況が変わっている。私と私のラボのしっちゃかめっちゃかな現状が良い例になるか疑問だったため、当執筆に際して多少の躊躇があった。それでも書いてみようと思ったのは、もしかしたら私の経験が何かの参考になることもあるかもしれないと思うと共に、私自身が少し立ち止まって振り返ってみたいと思ったからだ(なので自己満と言われても否定できない)。


まず最初に、私はボスをはじめ大学の上層部の方々に喧嘩を売りたいわけではない。このような、日々正解のない判断を迫られている彼らは、毎日頭を痛め断腸の思いで難しい決断をしているのだろうと容易に想像できる。自分が彼らの立場だったら、逃げ出したくなると思うし、優柔不断な私にはとても務まらないと思う。


3月下旬、「在宅ワークを中心にして長期的な実験以外はラボでの研究を遂行すべきではない。が、大学閉鎖はしない。」と学長よりお達しが出た。さぁボスはどう出るか?とオンラインに切り替わったラボミーティングを待った。ボスは一人ひとりと話して、組織培養と卒業が迫った数名の学生を残して、大体のラボメンバーの仕事について止めるか大幅に縮小するように言い、私の番が来た。「有希は続けて。植物捨てなくていいから!」意外過ぎて少し笑ってしまった。私は3年の契約更新が決まっており、正直、一刻も早く論文化を!というような切羽詰まった案件は特になかった(いや、契約更新云々じゃなくて研究者として危機感持てよ!という突っ込みは…受け入れる)。これまでも折に触れボスの熱い期待を薄々感じてきたが、この期に及んでも「行け行けどんどん!」なのか!?正気か?と思ったが飲み込む。私自身、顕微鏡から離れてしまうと何の存在価値もない石ころのような人間なので、驚いたが少しホッとした。(不謹慎な事はわかっている。申し訳ありません。)要はわがラボのCOVID-19対策は具体的な線引きがなく、この時点で何が長期的な実験で何がそうでないかの定義付けがされないまま、とりあえず在宅勤務推奨、実験は縮小だけど来たいなら来てもいいよ、という曖昧な状況が作られてしまった。


蓋を開けてみると、だいたい毎日来ている人(7−8人)、週に2回くらい来る人(5−6人)、ほぼ在宅勤務に切り替えた人(残り約15人)となった。これはPhD学生以上の人数で、修士や学部生はラボに来てはいけない事になった。いつ、誰がラボに来るのか皆が把握できるように、そして出勤者が同じ時間帯に過多にならないように、オンラインで時間ごとに出勤者の状況を皆で共有することになった。


しかしながら、ラボでの生活自体はあまり変わりがなかった。食堂が閉まり、手洗いやうがいを頻繁にして、ほぼ皆の通勤が自転車になったことを除いて。ラボセミナーはオンラインになった。週に一回その時間だけラボメンバーが一堂に会してサイエンスの話をする、貴重な時間である。リアクションがわかりづらかったり、ネット接続の問題で聞き取りにくいことが度々あるが、概ね普段のセミナーと変わらない楽しい時間が過ごせている。


ラボセミナーだけでなく、世界的な外出制限施行のためオンラインセミナーがあちらこちらで企画され、自宅に居ながら遠く離れた場所とオンラインで繋がり、セミナーに移動距離ゼロ、時差ボケゼロで参加できたりするので、その点は現在の状況に少し感謝している。今後、学会もオンラインで行われることが主流になる時代が来るのかもしれない。それよりも先に、授業もオンラインでいいね!と大学教員が削減されない事を祈る。


さてさて、そうこうしている間に徐々にラボメンバー間で焦りが見え始めた。在宅組で「効率よく働けていない。実験も止まっているし、ボスからの評価が悪くなるんじゃないか?」と危惧する声が聞こえてきた。植物の片付けの話題でついに在宅組と出勤組が一触即発の事態になった。「新しい植物のスペースが欲しいので一度自分の植物を確認して片付けを進めてほしい」とのある出勤組の人の意見について「私たちは居たくて家にいるわけではない。COVID-19の感染拡大を防ぐために泣く泣く家にいる。だから無理だ。そもそも、新しい植物とは何ぞや!?長期的な実験以外は止めるのではなかったか」と。最もな主張だった。個々で長期的実験の解釈が違っていた。直後に開かれたラボセミナーで方針を確認することになった。が、結果的に曖昧なまま終わった。片付けは強制しない、来れるならやる。新しい植物についても育てることは禁止ではない。はっきり言えば、なあなあである。ボスとはどうしてなんとなく結論を濁しつつ、しかし反論を言わせない事が上手なのか!(褒めている、と捉えてもらって差し支えない。)要は、ここでも長期的な実験が何か定義付けされなかった。


もやもやした気持ちを抱えつつ、1週間が経ち、いよいよ連邦政府と州政府より制限措置の緩和が発せられた。それに従って、大学も徐々に再開に向けて動き出した。ラボ毎にシフト制にするなどしてラボ滞在人数を減らすこと、ラボ滞在時も距離を十分確保することが求められているらしく、ラボセミナー時に話し合った結果、種々の実験のタイムコースを考慮し、月~水曜(+日曜)の週前半出勤組、木~土曜の週後半出勤組に分けることになった。修士以下の学生は、指導しているPhD学生の実験時間を確保するため3日のうちの午前か午後の半日しか来てはいけないことになった。万一、一方の組に感染者が出た場合、この組の者は皆2週間の自宅待機になるが、もう一方の組は出勤可能であるらしい(現在のところは。私自身は一人でも感染者がでてしまったらラボ完全閉鎖だろうなと覚悟している。)また、休日が固定されている家族との時間を確保できるよう、4週間ごとに前半組と後半組を入れ替えることになった。実験台やオフィスの机の場所も他者と1.5メートル距離を保てるよう一人ずつ新たに指定され、顕微鏡室や電気泳動室、お茶部屋に至るまですべての部屋の最大入室人数と座席位置が決められた(そういえばトイレにはなかったが、いいのだろうか)。他者との距離を常に1.5メートル保ちつつラボ生活を行うのは、時と場合によっては難しい。実験手法の説明等、近寄らないと不可能な事もある。その際は、両者マスクを装着する事となった(基本的に1.5メートルの距離を保てるのであればマスクは装着しなくてよい)。加えて、他の研究室と兼任の職員はどちらか一方に専任で勤務することになり、研究室間の往来も制限がかかった。かくして、政府が制限緩和に乗り出した後になり、やっと具体的かつ厳密なCOVID-19下でのラボ生活の規則ができた。


もやもやと過ごした1ヵ月余りが嘘のような厳しい規則にちょっと怯みつつも、少し安心している自分もいる。正直、厳密な規則なく出勤していた時には、罪悪感があった。友人からは強制的にラボが完全閉鎖になって例外も認められない、というような話も聞いた。自分達はこれでいいのだろうか、いつか自分の周りの誰かが犠牲になる事態が起きてしまったら、と恐怖もあった。恐怖を押し込めるために、自分ができる最大限の予防はしてきた。買い物は7−10日に一度、リストアップして短時間で済むようにして、マスクは着用義務が出る前から装着しているし、公共交通機関は3月中旬以降利用していない。ラボ以外での外界との接触は可能な限り絶った。でもラボには規則がなかったので寧ろラボで広まったらもう仕方ないと思っていた。今回厳密な規則ができたことで少し安心したのはこのためだ。しかしながら、これからも自分が感染者になって誰かに感染させてしまうかもしれないとの恐怖はずっと付き纏う事になるだろう。と言うか、忘れてはいけない恐怖だと思う。できる限りの対策をして、正しく恐れて緊張感を持ち続けていくべきなのだと思う(疲れそうになるけれど)。


私個人では、この間に契約更新と滞在許可証(労働許可証)の更新があり、ヒヤヒヤしていた。ハンブルク大学では新規雇用は停止しているとの情報をボスから聞いて、まさか更新も!?と思っていたのだが、大学との契約書のやりとりは秘書さん全面(遠隔)サポートのもといつも通り行われ、閉鎖されている役所もメール(書類にはデジタル署名)で対応してもらえて、申請書、パスポートや現在の許可証の写真を送るとすぐに仮の滞在延長許可書を発行してもらえた。このお陰で、5月以降もちゃんと不法滞在になることなく、お給料もいただける、はずだ。


私はずっと出勤組!との雰囲気が全面に出た文章だったかと思うが、実は10日くらい部分的に在宅組になっていた。愛車の知り合いからいただいたおさがり自転車が立て続けに何度もパンクして、いよいよ寿命か…と観念して新しい自転車をオンラインで買ったはいいが配達予定日になっても過ぎても一向に到着せず、10日くらいして痺れを切らして、既に営業が再開されていた自転車屋さんに35分歩いて買いに行った。10日くらい荷物が届かない程度で痺れを切らすなんて、まだまだ海外慣れてないね、とか、自転車のタイヤ交換もできないでドイツ住みなの?は、まぁ言われても仕方ない(少しだけ反論しておくと購入からキャンセルまで23日あった。流石に遅くないか)。


この間在宅組も少し経験したが、普段家で仕事をしない生活をしていることもあり?集中できなくて仕事ができなさ過ぎて自分でも驚いた。全く生産的でない!何か生産的な事を!と焦ってなぜか今まで頑なに拒んでいたドイツ語の勉強をはじめた。完全に在宅勤務の副産物だが、夜間や週末などにラボに行く時には電話で警備員さんに鍵を開けてもらうようにお願いする必要があるため、片言でほんの少しだけだけれどコミュニケーションが取れるようになってきたので、この調子で続けていきたい(いや、家でも頑張って働きます)。


こんなにドイツ語ができない私が、COVID-19下のここドイツで、特に警察にお世話になるわけでもなく問題なく過ごせているのは、間違いなく、政府発表がある度に昼夜関わらず数時間後には日本語に訳した内容を送信していただいている日本国総領事館の皆さんのおかげだ。当事者まで届くことはないのかもしれないが、とても感謝しているのでここに記しておきたい(メールに返信してみたらいい…のか?)。まとまりのない文章になってしまった。いかに自分が文章を書き慣れていなくて下手か、改めて自覚してしまった。今の一番の恐怖は、COVID-19ではなく、オンラインに載ってしまうというこの文章、これでよかったのか?ということかもしれない…それでも人生は続く、前進あるのみ!どうか皆さんもお元気で!


写真1:最大入室人数1人!との顕微鏡室の注意書


写真2:最大入室人数10人になったお茶部屋(普段30人程で使っていた椅子が積み上げられている)

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