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【COVID-19クライシス#18】江島 弘晃(アメリカ・ユタ大学)

更新日:2021年2月15日

執筆者:江島 弘晃

執筆日:2020年5月14日

国名:アメリカ

所属:ユタ大学

トピック:研究室の運営について、科学的財産の維持について、海外での生活について

doi: 10.34536/covid19-020


海外の一研究室の現状 はじめまして。現在ユタ大学でポスドクをしております江島弘晃と申します。世界中で大変な危機的状況を迎え、また徐々に研究の再開が見え始めた今、第二波を抑えるためにも寄稿させていただくことで、情報を共有できればと思います。 冒頭

私はユタ州のユタ大学で約2年前から単身ポスドクとして、培養細胞や実験動物を主に用いた研究に従事しています。今年の2月付近、中国から新型ウィルスが発生したことを知った時は若干他人ごとのように私も周りも考えていたことが、3月に同じビルの別の研究室から罹患者が出たことで状況は一変しました。直ちにビル(研究室)の出入りが禁止となり、原則すべての実験が即中止になりました。基本的にはパンデミック発生前後の実験に関しての変更・支障は他の先生方の投稿と同じ状況のように感じておりますが、動物実験やラボの状況などに関して事例を記載することで現状を皆さんに知っていただければと思います。

パンデミック初期のラボの対応

実験動物の維持系統はラボの重要な知的財産、また生命を犠牲にして得られる研究成果でもあり、非常に重要な案件です。とくに遺伝子改変動物に関して、3〜4月中は原則、ラボメイト一人ひとりが各管理しているコロニーを維持するように動物飼育室に週1回出入り、チェックすることで維持系統を図っておりました(実験動物室への出入りは許可されています)。とくに不測の事態に対応してどのマウスを優先的に管理するのか否か選定する、遺伝子改変動物の凍結保存(将来また実験を再開するための胚・精子の保存)を早急に行うなどの迅速な対応を余儀なくされました。幸いこれらのマウスの処分は行わなかったのが不幸中の幸いだと思います(ある海外のラボではすべてのマウスを処分してしまったと聞いています)。培養細胞は比較的実験の再開が容易ですので、インキュベーターに入っていたすべてのプレート(サンプル)を処分し、待機という形で収まりました。 現在のラボの状況

5月中旬、現在、大学での実験の再開が少しづつ開始されています。これまでは必要最低限(緊急を要する実験)以外は基本行えず、ラボの出入り禁止でしたので、この時期に実験を再開できることは大変有難いです。しかし、各ラボに2人まで、狭い部屋では1人のみ滞在可などの条件の下、誰がどこにいるのか意思疎通、コミュケーションが重要となっています。まず、私たちのラボでは話し合いの末、一人数時間の交代制で朝、昼、夕方にラボに出入りし、実験を開始できるように至っています。Google calendarで何処で、どんな、何時という実験の情報を共有し、ボスが承諾し、大学への申請後、許可が下りた上で初めて実験を行うことができます。また携帯電話で今ラボにいる、ラボから離れたなどの位置情報をラボ全員で共有しています。さらに、ラボに出入りの際にはマスク着用、手洗いの徹底、ベンチを使用した際の記入(用紙が至る所に貼られています)、コート着用などルールが設けられ、これらに違反がある際は即座にラボのシャットダウンにつながるそうです。日本滞在時に同じ状況に陥ったことがなく、現状把握できていませんが、非常事態の際のアメリカの徹底ぶりは見習うべきであり、アメリカの良いシステムの一面を知ることができました。また非常事態にも関わらず、ルール順守の下実験を実施できる環境を整備してくださった周りの方々(単にボスなどの研究室関連の方だけではなく、州の医療従事者の方々など)に感謝すべきだなと感じています。実際、ラボの近くに大学病院が近接しており、大変な状況の中日夜出勤している医療従事者の方々を目の当たりにしています。あらためて当たり前だった環境は多くの人との関わり合いや助け合いの中成立している当たり前ではないことに気づかされました。 何故、寄稿させていただいたのか

以上、アメリカの一研究室(大学の状況)の情報を知っていただき、日本の方々には参考にしていただければと思います。一研究者として日本国内外の大変な状況の中、できることは研究成果を社会への還元として、また日々の有難さを痛感しながら、私たちができること、私達だからこそできることを見極め実施するべきだと思い、情報を提供させていただきました。日本でも緊急事態宣言が解除されたことで、緊張感が解かれたのではないかと思いますが、実際ユタでも(私の周りでは)、公園などでは多くの人が出入りし、緊張が解けてきた印象が御座います。油断大敵の言葉のように、鎮静化がはっきりと分からない状況ですができるだけ不要外出を避けてこの危機的状況を少しでも緩和できていければと思っています。


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