【COVID-19クライシス#25】秋葉 龍太朗(アメリカ・ワシントン大学)

執筆者:秋葉龍太朗

執筆日:2021年4月2日

国 名:アメリカ

所 属:ワシントン大学(Postdoctoral Researcher)

トピック:研究室の運営について、海外での生活について、雇用状態について

doi: 10.34536/covid19-027


 私が2019年3月に大学院を卒業し、米国・シアトルのワシントン大学への留学が決まった際には、COVID-19のことなど予想するすべもなかった。渡米後での研究生活を楽しみにしつつ、ビザの書類などの渡米手続きに勤しんでいた。同年9月には単身渡米しワシントン大学でのポスドク生活が始まり、アパートの入居や車の購入、SSN発行など基本的な生活セットアップを行なったのち、10月に妻と当時0歳10ヶ月の息子が合流し、シアトルでの生活が本格的に始まった。

 2020年1月、やっと米国での生活にも慣れてきたと思った矢先に、自分たちの住むワシントン州で米国初のCOVID-19症例が確認された。当初はCDCによって感染拡大のリスクは低いため通常の生活を継続するように報道されていたが、症例数はあっという間に増加の一途をたどり2月にはワシントン州で緊急事態宣言が発表され、米国全土で大規模なロックダウンが開始された。


 研究面では安全講習などを全て終えてやっと実験が始まるタイミングだったこともあり、正直先の見えない研究生活に不安は募る一方だった。私の所属する研究室はボスが早急に感染予防具を買い揃え、同じ部屋に大人数が同時に滞在することのないようなシステムづくりなど、速やかにCOVID-19体制へと移行することとなった。大学からは必須業務以外は最低限の出勤にとどめるよう指示が出され、自宅でできる解析業務などはリモートワークで行う体制となった。

 研究を進める上で幸いだったのは、我々の手法が電子顕微鏡を用いる研究であったことだ。私の研究室の用いている電子顕微鏡は、サンプル前処理を終えて、いちどサンプルを乗せてしまえば自動で数週間にわたって切片の作成・画像取得をおこなってくれるタイプの顕微鏡であったため、テクニカルスタッフの全面協力のもと、ほぼ人と接触することなく研究を継続することができた。そのあとは大量の画像解析が必要となるため、このプロセスはリモートワークで家庭から行うことができ、人との接触による感染リスクを最低限に抑えながら解析業務を進めることができた。PIも家庭でのリモートワーク環境のためタブレット購入などの支援をしてくださった。しかし一方で、皆が出勤してコミュニケーションを取り合っていれば円滑に進む内容も、それぞれが別々に出勤してメールでやりとりを行うため実験の進捗スピードが遅くなったことは否定できない。

 またミーティングは全てZoomを介して行われることとなり、ラボで同僚と対面して話すことが極端に少なくなった。こうなってみると、研究室で自然発生的に同僚やボスとディスカッションをする機会、生データを眺めながらその場にいた同僚と一緒に考察すると言った機会が失われ、せっかくの貴重な留学期間を有効に過ごせていないのではないか、という思いもある。

 COVID-19によるリモートワーク体制は決して快適なものではないが、この生活スタイルが長引くにつれて少しずつメリットも見えてきた。学会や講演会がこぞってオンラインに移行したことをきっかけに、当研究室では他大学や他国のラボとの共同ミーティングを開催することとなり、地理的に移動する必要のないことからこういったコラボレーションの敷居は下がっていると言えるかもしれない。

 生活面においては、リモートワークで最も困難なのは育児と仕事の両立かもしれない。我が家には現在2歳になった息子がおり、デイケアには通わせていないため家で息子の面倒を見ながら仕事をしている。いっとき閉鎖されていたデイケアは現在開いてはいるが、いまだ感染の不安もあることと、妻が専業主婦のため家で見ている。仕事の合間に子供の食事や昼寝、そして散歩など、子供の世話はスケジュール通りにはいかないことが多く、仕事をよりフレキシブルに行う必要がある。一方で家族とこれほど長い時間を共に過ごせる機会は今後ないと思われるため、子供の成長を身近に感じられることはありがたくもある。

 原稿を作成している現在2021年4月の時点では、この状況を打開する良いニュースも増えてきた。ワクチンの普及である。原稿作成時にはワシントン州を含む複数の州で4月中に16歳以上が全てワクチン接種対象となることが発表された。ワクチン接種率が上がっても、すぐに元どおりの社会生活が戻ってくるわけではなく、依然感染予防策をしながらの体制になると考えられるが、限られた米国での研究期間を最大限に充実したものにできるよう人的交流や社会活動が可能になることに希望を抱いている。


プロフィール

2012年に医学部を卒業後、2年の臨床研修を経て眼科に入局。2016年より大学院生として、神戸理化学研究所に所属し網膜色素変性症に対する再生医療の研究に従事。2019年よりワシントン大学にて博士研究員として所属し、網膜変性過程における神経回路の可塑性に注目し、電子顕微鏡を用いた研究を行なっている。

メールアドレス:ryuwolf359@gmail.com


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