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ベッドサイドでの思いを研究留学にのせて

  • 11 分前
  • 読了時間: 7分

中川 諒


はじめに

現在、Cincinnati Children's Hospital Medical Center(CCHMC)でリサーチフェローをしている、中川諒と申します。留学前は東北大学病院血液内科に所属しており、2026年1月から、CCHMCのThe Division of Experimental Hematology and Cancer Biologyで白血病幹細胞の研究をしております。留学について右も左もわかりませんでしたが、UJAの「研究留学のす>め!」を拝読し、大変感銘を受けて、私も今後留学を考えている方へ参考になればと思い、筆を執らせていただきました。


CCHMC内での1枚
CCHMC内での1枚

留学のきっかけ

まず、自分が白血病研究の道に進んだ原点は、研修先である虎の門病院においてのベッドサイドでの経験にあります。血液内科で最初に担当した急性白血病の若年女性の患者さんは、まさに人生の幸せの真っ只中に、白血病と診断を受け、移植等の大変な治療を重ねたものの、再発を余儀なくされました。それでもめげずに次の治療に向かう前向きな姿に心打たれました。また残念ながら、患者さんの最期の時に、ご家族の涙を見て、自分は「医師・研究者として白血病の根治を目指さなければならない」と強く心に誓いました。

研修後は一旦仙台に戻り、その後大学院に進学し、白血病モデルマウスで多くの実績がある、石川文彦先生(理化学研究所・ヒト疾患モデル研究チーム)の門を叩きました。石川先生には、マウスモデルを用いた白血病研究のいろはを教えてもらいました。国際的に活躍される石川先生の背中を追いかける中で、自分も海外で研究したいという気持ちが自然と芽生えました。


留学準備

東北大学血液内科に海外ラボとの繋がりが無かったため、アメリカやヨーロッパの海外学会に参加し、目当ての先生に直接アプローチしたり、興味のある研究テーマを行なっているラボにメールを送ったりと、地道で泥臭い方法で留学先を探すことになりました。効率が良いとは言えない探し方でしたが、振り返ってみれば、国際学会で多く質問をしたり、海外ラボの研究者に自分の研究をプレゼンしたりと、当時の経験は大きな糧となりました。張替秀郎先生(現:東北メディカル・メガバンク機構)には、留学先や進路について親身に相談に乗っていただきました。幾つかの候補の中から、研究テーマ、待遇、ラボメンバーとのインタビュー時の雰囲気から、Courtney L. Jones博士のラボに決めました。Courtneyの論文は、大学院生の時から何度も読んで、自分の研究の参考にしていたので、そんな先生と一緒に働けると決まった時はとても嬉しかったです。「留学したいが何から手を付ければ良いか分からない」という方も多いかと思いますが、受入の可否は当時のラボの空き状況やグラントの獲得状況などに大きく左右されます。そのため、まずは何より志望するラボへ連絡を取ってみることが大切です。学会で直接話すのが相手の印象に残り、効果的ですが、距離・時間的に難しい場合はメールでも可と思います。そこでインタビューのチャンスを貰って、幸運にも決まれば良し、ダメでも反省点を次の候補先ラボに活かせば、留学に向けた大きな進歩です。

Cincinnatiといえば、私にとってはメジャーリーグのCincinnati Reds(以前、秋山翔吾選手が在籍していた球団)くらいしか馴染みがなく、留学前は地理すら全く把握していませんでした。そのため住居探しにも苦労していたところ、見かねたのか、Courtneyが同じDivisionで働く日本人ポスドクの方を紹介してくれ、住む場所やセットアップのこと等多く相談に乗っていただきました。他にも、同じ血液学を専門とするポスドクの方や、同じアパートメントに住むポスドクの方など、多くの日本人研究者の皆様に、留学前から現在に至るまで、家族ぐるみで接してもらい、大変心強く感じています。

2025年8月に受入先が決まってからは、順調に手続きが進み、2026年1月から研究開始となりました。年末ギリギリまで病院勤務があったため、夜間や休日を縫ってビザや引越しの準備を進めました。単身留学も検討しましたが、せっかくの初海外留学であり、異国の地で家族と沢山の思い出を作りたいという想いから、妻と生後半年の息子と3人で渡米することにしました。ありがたいことに、息子は日本からアメリカの長期フライトでも、バシネットですやすや寝てくれ、無事にCincinnatiに到着することができました。


家族と友人と訪れたイエローストーン国立公園の風景
家族と友人と訪れたイエローストーン国立公園の風景

研究環境

ラボのメンバーは、ヨーロッパ、アジア、南米からと非常に国際色豊かです。そのため、ボスのCourtneyは、英語があまり得意ではない私との会話でもゆっくり話してくれたり、私の拙い英語を聞き取ってくれるようにしてくれ、とても助かっています。Courtneyとは、週1回に1on1のミーティングがあり、そこで研究の進捗やプランについて深く議論をし、フィードバックを貰います。Courtneyは研究の事以外にも、今後のキャリア形成についても親身に相談に乗ってくれ、自分も将来こうありたいと思う、理想のPIです。ラボ全体のミーティングもあり、担当の週には、自身の研究プロジェクトをプレゼンし、皆で活発に意見を交わします。メンバーは各自の独立したプロジェクトを推進しつつも、誰かが困ったときは、自然と皆で助け合い、協力する風土が根付いており、非常に恵まれた環境で研究ができています。

職場のCCHMCは、ハイウェイを利用してアパートメントから20-30分程度のところにあり、渡米直後は慣れない運転で毎日ヒヤヒヤしながら通勤していました。また、レストランやカフェに行く時にも、歩道がないので、車で移動する必要があります。アメリカの地方都市に留学予定で普段あまり運転をしていない方は、想像以上に車社会のため、(交通ルールの違いはありますが)留学前に運転の練習をしておくことをオススメします。

私の研究は、白血病の代謝機構を専門にしております。大学院時代に取り組んだ白血病細胞の脂質解析が、現在の研究領域へ関心を深めるきっかけとなりました。現在は、特に、治療抵抗性に関わる白血病幹細胞のエネルギー代謝の特徴を捉え、それを標的とした新規治療開発を目標にしています。自分の今の研究結果が、将来の白血病で苦しむ患者さんと家族にとって希望の光になると信じ、日々実験しています。


休日の過ごし方

日本で働いていた時よりも、オンとオフの切り替えがしっかりしており、週末は家族と過ごす時間を大切にしています。Cincinnatiには、上述のReds(MLB)やBengals(NFL)の本拠地があり、夏にはテニスの世界のトップ選手が集うCincinnatiオープンが開催されたりと、スポーツイベントが豊富で、週末によく家族でスタジアムに足を運び、本場のスポーツエンターテインメントを満喫しています。また、自然豊かな公園がたくさんあるのもCincinnatiの魅力の一つです。天気の良い日に家族でお弁当を持ってピクニックに出かける時間は、心身をリフレッシュし、翌週からの研究への原動力になっています。さらに、同じく渡米中の大学同期とも久しぶりの再会を果たし、市内を観光したり、国立公園へロードトリップを敢行したのは良い思い出です。


シンシナティオープンの試合会場
シンシナティオープンの試合会場

最後に、留学を考えている方へ

まだ留学途中ですが、アメリカで、様々なバックグラウンドを持つ人たちと交流を深め、国際的な感覚を身につけることは、きっとかけがえのない財産となります。初めての留学で不安だらけでしたが、幸い多くの方のサポートのおかげで、こうして充実した留学生活を送れています。これから留学を考えている方も、これまでの自分が積み重ねてきた経験を活かしつつ、新しいことにチャレンジする前向きな気持ち・行動力が大切だと感じます。最後に、こうした挑戦が出来ているのは、家族のサポートがあってのことと思います。妻は一番近くで自分をいつも応援し、研究室にいた時も、病院に勤務していた時も、私の仕事観を良く理解してくれたお陰で、仕事に集中して取り組むことが出来ており、感謝しています。

この体験記がこれから留学を考える方にとって、何かひとつのきっかけや参考になれば、幸いです。


Frank Lloyd Wright設計のWestcott House
Frank Lloyd Wright設計のWestcott House

著者プロフィール

シンシナティ小児病院医療センター・リサーチフェロー、東北大学血液内科・非常勤講師。東北大学医学部を卒業後、虎の門病院で初期・後期研修。2019年より東北大学大学院医学系研究科に進学し、RIKENの石川文彦先生の下で白血病研究に従事。大学院卒業後、仙台市立病院血液内科・医員、東北大学病院血液内科・助教を経て、2026年1月より現職。


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