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「国際的に活躍する若手研究者の登竜門」 UJA論文賞の開催報告

更新日:2月3日

松山聡子(シンシナティ小児病院/UJA論文賞部)

山本亮(カリフォルニア大学ロサンゼルス校/UJA論文賞部)

時實恭平(ワシントン大学セントルイス校/UJA論文賞部)

河野龍義(インディアナ大学/UJA論文賞部/UJA理事)

UJA活動の中で、大きく発展を遂げている論文賞のご活動です!取り組む人たちにも学びとやり甲斐が感じられる、自律性と透明性を持った体制作りは、とても勉強になると同時に中の人でも応援したくなってしまいます!ぜひ、ご一読下さい!(UJA編集部 土肥栄祐)

はじめに


国際的に活躍する若手研究者の成果を表彰するUJA論文賞が2023年も開催されました(写真1)。振り返るとアメリカ中西部のインディアナ州で、根岸英一先生(2010年ノーベル化学賞)が審査委員長を務める優秀論文賞(IT-IJC Outstanding Research Paper Award)として2015年に設立された本賞も8年目の開催になります。これまでにアメリカの15の研究者団体と共同開催することで、UJA論文賞として地域や研究分野を拡大して開催してきました (論文賞ウェブサイト)。



特色


この論文賞の1番の特色は「海外に住む研究者達が手作りで運営してきた」ことです。毎月開催されるUJA論文賞ミーティングでは各地の研究者たちがボランティアとして多忙な本業の合間にオンラインに集います。今年の運営メンバーも過去の開催メンバーからバトンを受け継ぎ、このUJA論文賞がより多くの若手研究者の挑戦を応援できるようにと工夫を凝らしています。今年はベルギー、ドイツの研究グループが参加し、ヨーロッパを対象とした部門も設立されました。UJA論文賞の拡大に伴い運営メンバーも East, Central, West,事業部の4チームに分かれて協力しながら明るい雰囲気の中で若手研究者を応援し、大きく発信するために限りある予算の中で様々な工夫を凝らすことでこの企画を支えてきました。



授賞式の様子


今年の授賞式は日本時間の5月18日にオンラインで開催されました。4つのZoomのセッション分かれて、部門ごとに受賞者講演が行われる形となりました。どの発表も非常にレベルの高い内容で、どのセッションも講演後には活発に質問や討論が行われ充実した内容となりました。受賞者の一人は留学中に19稿もの論文を出版され、そのコツを受賞者講演の内容に盛り込んでくださった方もいらっしゃいました。女性研究者の発表が半数以上のセッションもあるほど、今後の日本の研究の多様性を感じさせるような会でした。受賞講演中にお子さんが登場される場面もあるなど、研究内容だけでなく、受賞者の方のお人柄も感じさせるような会になりました(これは招待式のアットホームな開催だったことが一因になっていたのかもしれませんね)。

また、受賞者代表挨拶でも多様性を高めようというメッセージがあり、本会を象徴するような挨拶でした。


セッション後の懇親会では異なる分野の受賞者の方々から、海外での研究生活、言語や文化、最初の困難な日々、多様性の理解など、研究を発展させると同時により大きなネットワークを得ることにつながる体験のお話をたくさん聞くことができました。共同研究のアイディアが話し合われるなど受賞者と運営のコミュニティの広がりも感じるものとなり、全体では217名の参加の中で盛況のうちに閉会となりました。



ハイレベルな受賞者


ここ数年のUJA論文賞は北米だけにとどまらずヨーロッパなどの応募地域や分野が拡大しており応募者は右肩上がりで増えています。今年の受賞論文のインパクトファクター平均は15.34と高い水準であったと考察できます。さらに「Nature」が発表する主要な 43 の Life Sciences 学術誌に掲載された論文に当てはまる今年の受賞論文はWest:5, East:10, Central:8 とトータルで23報もあることがわかりました。単純に比較はできませんが、年間で23報ということはNature Indexを元にカウントすると概算で日本のトップ20位の研究機関が年間に発表する論文数に近い数値です。筆頭著者のみがUJA論文賞に該当するということも考慮するとその価値はもっと高いと推測されます (Nature Indexは共著も含むため)。


過去の受賞者の中には世界中で独立研究者として活躍されている方や、日米の企業で開発に関わる研究者も輩出されています。さらに近年創設された日本の創発的研究支援事業に過去の受賞者が高い確率で採択されているという嬉しい声も届いています。受賞をきっかけに就職の話が進んだ、授賞式で同席した方と共同研究が進んでいる、アメリカの永住権獲得に受賞が役立ったという声などもあります。



アンケートから見えたUJA論文賞の課題と未来


UJAでは受賞者や授賞式参加者からアンケートを取っています。概ね開催内容への評価は高く、スポンサーや運営メンバーへの感謝が多い中に少ないながら、「国際的な感覚を率先して実行すべきUJAの企画でありながら、女性の審査員や受賞者が少ないことは残念だった。真剣に改善してほしい」などの厳しい声が毎年あります。本年も期待を込めた厳しいご意見が寄せられました。

審査員の負担の観点から持続性に問題があるように思いますし、そもそも各組織内部で賞を出す排他的な様子に疑問を持ったのは私だけではないはずです。UJAはひろく参加者を募っている団体でありますし、やはり応募者を全員まずはひとまとまりにプールして、そこから分野ごとに審査と受賞を行う方向に持っていくのが公平性と裾野を広げる意味で大事なのではないでしょうか。

このようなご意見を受けまして、数ヶ月にわたり運営メンバー一同での議論、理事会での議論など様々な形で意見を交換し、改善策を練っております。


過去の開催で応募を広くすると「受賞できないと判断して応募しない人が増加している」というパラドックスを産んだ過去があり、実際の開催は外部からみた様子とは少し異なっているのかもしれません。


地域ごとの開催にはコミュニティー活動の活発化という非常に大きなメリットがあります。一方でどこの地域からでも参加できる分野を4つ用意しており、応募資格には限定があるものの、できるだけ多くの方に参加するチャンスをと思い、様々なバックグランドを持つ運営メンバーで最適解を見つける努力を続けています。


もともとインディアナで開催され、少しずつ団体や運営メンバー、スポンサーが増える形で拡大されてきた中で、限られた予算と現役の研究者がボランティアで進めてきたこの賞も、毎年の応募者が当初の10倍以上になり運営や開催方式に大きな変革が必要な時期となってきました。インディアナでは盛大な受賞式が行われる形に成長しており、他の地域でも研究者以外の組織との連携が広がっています。現在、新しい運営委員長への転換期であり今後のUJA論文賞に期待したいと思っています。コロナ禍での留学には逆風も多かったので、その中で発表された論文には一人一人の研究者の様々な想いが詰まっていることだと想像しています。


ウェブサイトには留学や論文の裏話や受賞者が研究者を目指したきっかけなどが掲載されています。「若手研究者の登竜門として」多くの方に認識されつつあるUJA論文賞への皆様の参加をお待ちしております。


最後になりますが、運営に関わった全てのメンバー、審査員、スポンサーの方々に心から御礼を申し上げます。



UJA論文賞2023運営メンバー 


安藤 啓(ミシガン大学)、石原 萌惠(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、岩澤堅太郎(シンシナティ小児病院)、大須賀覚(アラバマ大学バーミンガム校)、大谷 隼一(日本赤十字社医療センター)、小倉洋二(イェール大学)、小野原 大介(エモリー大学)、神頭 志津子(UJA)、久保田 穣(ペンシルベニア大学)、河野 ゆりか(インディアナ大学)、小澤慶(Helmholtz Zentrum München)、小原成美(エモリー大学)、正田 哲雄(シンシナティ小児病院)、嶋中雄太(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、高橋岳浩(イェール大学)、高橋 まり子(マサチューセッツ病院)、田久保勇志(ジョージア工科大学)、館腰 勇輝(ノースウェスタン大学)、田村 光(パデュー大学)、月岡祐介(イムス葛飾ハートセンター)、時實恭平(ワシントン大学セントルイス校)、内藤 千絵(シンシナティ小児病院)、西澤光洋(日本赤十字社医療センター)、古屋 圭一朗(パデュー大学)、前川洋(ノースウエスタン大学)、松山聡子(シンシナティ小児病院)、村岡成(ミシガン大学)、森岡和仁(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)、河野龍義(インディアナ大学



著者略歴


山本亮。愛知県名古屋市生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒。同大学でコンピューターサイエンスの学士を取得。現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校で生物情報学の博士課程学生。専門はRNA-seqデータを解析するメソッドの開発


松山聡子。石川県羽咋市生まれ。金沢大学医学部卒、同大学院で博士号取得(医学)。泌尿器科専門医・指導医。小児泌尿器科認定医。現在はシンシナティ小児病院生殖科学分野にてリサーチフェロー。専門は性腺の発生・発達。


時實恭平。愛知県名古屋市生まれ。名古屋大学で博士号取得(医学)。現在はワシントン大学セントルイス校発生生物学分野にて研究員、同大学で日本人研究者ネットワークの管理者。専門は哺乳類における個体老化研究。


河野龍義。アメリカユタ州生まれ。東北大卒。同大学院修士及び博士号取得(農学)。細胞生物学者。インディアナ大学糖尿病センター研究員などを経て同大学Associate Research Professor of Pediatrics。2019年より日本社団法人/米国NPO法人 海外日本人研究者ネットワーク理事。インディアナ州研究者組織 代表幹事。株式会社Quantaglion米国アドバイザー。専門は糖尿病とエネルギー代謝。



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