top of page

留学後も未来に羽ばたくために〜米国での大学院留学、独立の経験から〜

執筆者:

行川 賢(シンシナティ大学・シンシナティ小児病院)

留学先:

ハーバード大学医学部/マサチューセッツ総合病院

はじめまして。シンシナティ大学・シンシナティ小児病院で研究室を主宰している行川賢と申します。大学院の博士課程在学中の2004年から留学したのですが、漠然とした憧れに導かれ、留学の道を選びました。 それほど戦略的に計算して留学生活を送ったわけではないのですが、結果として2009年に独立し、現在の研究につながってきました。本稿では、“留学後も未来に羽ばたくために”留学経験をどのようにキャリア形成に活かしていけるのか、私の留学体験を交えて考察したいと思います。これから自然科学の研究者として海外留学を目指す方々の道標になれば幸いです。


留学の意義:一流に学ぶ
 

私の留学生活での成功の鍵は、留学先の指導教官であったと思います。当時、大学院できのこを使った減数分裂の研究をしていました。しかし、きのこの研究では留学先もなく、留学で哺乳動物の系に変えようと漠然と思っていました。どうやって、留学先を探していいかわからなかったので、とりあえずハーワードヒューズ医学研究所(HHMI)のwebsiteで面白そうな研究室をいくつか探して応募してみました。HHMIはそれぞれの分野の独創的なリーダーだけが選ばれているアメリカの財団です。結果としてはこの作戦がよかったのだと思います。一流の研究室に留学することができました。


私の指導教官のDr. Jeannie LeeはX染色体不活性化の研究では、当時、若いながらもすでに分野のリーダーとして活躍していました。学術の都ボストン、ハーバード大学医学部でJeannieと仕事をし、的確な指導を受け、一流の仕事を学ぶことができたことが貴重な留学経験でした。今でも、自分の研究室の運営において、Jeannieだったらどうするだろうかと様々な局面で考えて決断できることが、自分にとっての財産だと思います。
 

留学の意義に、語学や海外生活など、様々なメリットがあると思います。私の留学体験では、これらの点でも学ぶことが大きくありましたが、最も重要であったのが、Jeannieから学んだ一流の仕事でした。自然科学の研究では、英語が共通言語であるように欧米分化の上に成り立っていると言っても過言ではありません。そのために、留学を通じて、欧米文化に根ざした一流の研究者に学ぶことを、今後留学を目指す方におすすめしたいと思います。


留学の成功の鍵:ポジティブフィードバック
 

海外留学では様々な成功の可能性があります。一方で、海外では成果主義で、評価が厳しく月並みな成果では生き残れない現実もあります。では、どう対応すればよいでしょうか。一つ、共通していえることが、予算獲得と論文発表を積み重ねていけば、生き残れるという点だと思います。特に、ポスドクとしては筆頭著者の論文発表とフェローシップ獲得がうまくいけば、自然とうまく回っていくと思います。そのためには、効率よく質の高い論文を出し、フェローシップを獲得するのを積み重ねれば、そのポジティブフィードバックで、キャリアを築いていくことができます。効率よくするためにはスピードを意識して、要領よく迅速に取り組む必要があるでしょう。


私の場合は、幸運にも博士課程の3年から留学できたので、その時の成果で、ポスドクになってすぐに論文発表が連続して、フェローシップも連続して獲得できました。結果として、ポスドクになってから3年半後に独立ポジションに応募でき、4年半後には独立することができました。
 

では、どのように日本人が留学でポジティブフィードバックを呼び込むことができるでしょうか? 留学を通じて気がついたことは、日本人は欧米人に比べて、要領よく実験をこなしますが、論文作成の要領が概して悪い点が共通しているということです。そのため、一流の研究室に留学しても、ボスが論文を書いてくれるのを待っていては、要領よく論文発表はできません。特に人数の多い研究室では、放任主義であることが多いと思います。まずは、毎年一報は筆頭著者で論文が出せるようにプロジェクトを自己管理して、自分で完全な原稿を書いてボスに渡せば、それをエディットして投稿してくれるでしょう。自分から積極的に論文発表を意識し自己管理することが成功への秘訣だと思います。キャリアの早い段階で留学することも重要なことだと思います。アメリカでは、PhD獲得直後には応募できるフェローシップが多いですが、年々減っていきます。つまり若いキャリアに有利なシステムになっています。
 

成功へのメンタリティー


海外生活で気がつくことは成功する人の共通点として、的確な判断力とポジティブなメンタリティーがあげられると思います。日本から留学される人は謙虚な方が多いですが、アメリカでは成功している人はドヤ顔で強烈な個性をもった人が多いです。強烈な個性は天性のものかもしれませんが、困難な局面に対応できるポジティブなメンタリティーは、日本人が留学で身につけるべき点はないかと思います。才能のある日本人が自分の可能性に自信がもてないために、チャンスを逃しているように感じることが多々あります。


アメリカでは独立ポジションの面接では、論文投稿やグラント申請を乗り切るタフさがあるかどうかが一つの判断基準になります。論文のリジェクトなどは、最初のころはショックが大きいですが、長いキャリアでは慣れますので、冷静に理由を分析して次につなげていく必要があります。英語での生活も不安の要素になると思いますが、大人になってからの留学では、英語はどうやっても完璧にはなりませんので、開き直れば困ることはありません。私の場合は、大学院の恩師である東京理科大学・坂口謙吾先生から、先生が長い留学の中で培われたポジティブなメンタリティーを学びました。大学院での経験が、留学に役立ったと思います。
 

留学の楽しみ:想像もしなかった人生
 

アメリカでの留学では研究の中での様々な発見があるだけでなく、人生においても自分の可能性の広がりを実感できる点が留学の楽しみであると思います。私がアメリカに来たときにはまさかそのまま独立するとは思わなかったのですが、チャンスを手にしていくうちに、思いがけない可能性に気がつくのではないかと思います。特にアメリカでは独立ポジションの数が日本より圧倒的に多いので、ポスドクの後にすぐ独立するチャンスを得ることができます。いざ、独立ポジションにつくと、周りのサポートもあり、思っていた以上に研究を発展させてくることができました。私は、研究においても、人生においても、予期できない発見をしてみたいと思い、常にチャレンジしていきたいと思っています。アメリカはチャンスをくれる国であることを、これまでの11年間のアメリカ生活で実感し、想像もしなかった人生を歩むことができていると実感しています。


海外での可能性:女性研究者の社会進出
 

海外での研究生活の特色として、女性研究者の社会進出が挙げられると思います。私の場合、ここまで研究生活を続けられた理由の一つに、妻(濱田文香:現シンシナティ大学助教授)と一緒に切磋琢磨できたことができた点もあります。私たちは大学院で同じ研究室に所属し、留学前に結婚しました。同時にボストンに留学し、それぞれ別々の研究室でポスドクをしたあと、シンシナティ小児病院から同時に2つの独立ポジションのオファーを得てそれぞれ独立することができました。アメリカでは女性の独立研究者が多く、夫婦で同時にオファーをもらえることもあり、とくに女性研究者にとっては大きな可能性があると思います。また、夫婦で研究をしていても、子育てなどしやすい環境が整っているのが特徴です。


おわりに:日本人研究者の成功のために
 

日本人は高度な実験技術をもっているわりには、留学で必ずしも成功しているわけではないと思います。その背景にはさまざまな理由があると思いますが、一つには情報の不足があったと思います。今後、留学を通じて成功していくために特に大切になってくるのは、ネットワークと情報網です。UJAなどのつながりで、留学経験を共有できることは今後留学を希望する人たちへの大きな支援となるでしょう。アメリカが留学先として魅力的なのは、情報発信の場として世界に君臨しているからです。このように、情報網の持つ力がアメリカを支えています。UJAが留学に関しての情報発信の場として発展していくことで、私たちの留学の質の向上につながることを願っています。本稿では、留学にどのような可能性があるか私見を紹介しましたが、ネットワークを深め、更なる留学の意義と魅力を探っていきたいと思います。

2015/11/19

​編集者より

​執筆者紹介:

-​

編集後記:

一流に学ぶ。まさに留学に期待することであり、留学での成長の大きな鍵になるものだと思います。メンターだけでなく、一流の同僚、コラボレーター、はたまた学生からも同じように、大きく学びことができます。様々なバックグランドを持つ一流の研究者と、交流していきやすいのは、海外留学での醍醐味だと思います。ポジティブフィードバック、そして成功へのメンタリティー。貴重な体験談とアドバイスを有難うございます!

編集者:

Atsuo Sasaki

bottom of page