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留学後も未来へ羽ばたくために 〜海外でPIのオファーを勝ち取るための準備〜

執筆者:

平林 享 (MRC Clinical Sciences Centre, Imperial College London)

留学先:

マウントサイナイ医科大学 (アメリカ)

私がアメリカの大学でポスドクとして働き始めてすぐに、同僚のポスドクがジョブハンティングをはじめました。その同僚がアプリケーションを送り、インタビューに呼ばれ、セミナーやチョークトークの練習をし、晴れてPI (Principal Investigator;研究室主宰者)として自分の研究室を持つに至った経過を目の当たりにしたのはとても良い刺激になりました。この経験から、私はポスドクのあとは自分の研究室を持つのだと強く意識するようになりました。同時に、ポスドク期間中は研究業績をあげるだけでなく、PIになるため、PIのオファーを勝ち取るために必要なトレーニングを受ける期間なのだと再認識することになりました。
アメリカでは9月頃から公募が出始め、12月頃からインタビューがはじまります。業績が出たらすぐにアプリケーションを送り、ジョブマーケットに乗ることが大事です。業績が出て最初のラウンド(1年目)でオファーが得られなかった場合、2ラウンド目(2年目)にはインタビューに呼ばれることも難しくなるようです。この場合、次の業績を出してから再挑戦ということになります。したがって、業績が出たら一気にオファーを勝ち取る必要があります。もちろんPIのポジションにアプライするためには業績がなくてはなりませんが、業績が出てから準備をはじめたのでは手遅れになりかねません。ポスドク時代は研究を進めつつ、論文を発表した暁にはすぐにジョブマーケットで戦えるように必要な技術の習得に邁進することが肝要だと思います。
本稿では、私自身のアメリカとイギリスでのインタビューの経験を振り返り、その準備に役 立った経験を紹介したいと思います。

(1)文章力を鍛える。

ジョブハンティングはアプリケーションを送ることから始まります。アプリケーションは表書き(カバーレター)、履歴書(文献目録を含む)、研究計画書(過去・現在の研究内容のまとめ、今後の研究計画)から構成されます。審査委員はまず文献目録に目を通し、次に表書きに目を通します。ここで充分にアピールできなければ研究計画書が読まれることはありません。したがって、表書きは非常に大事で、研究計画書を読みたいと思わせるような文章力が必要になります。
文章力を鍛えるには、とにかく書くしかないと思います。自分の論文はカバーレターも含めてすべて自分で書きましょう。私は論文を書くときと科学研究費の申請書を書くときに何度か英文校正サービスを利用しましたが、自費でも利用する価値があると感じました。
研究計画書を書くには科学研究費の申請書を書いた経験が役にたちました。私は特にボスの科学研究費の申請書を書かせてもらった経験がとても役にたちました。ボスの科学研究費は研究室にとって死活問題なので、何度もボスと議論を重ね、その内容を推敲しました。私の場合は論文をまとめる前にこの申請書を書いたので、今後の研究をどのように展開していくかを考えるよい機会にもなりました。この科学研究費の申請書はある程度、ジョブハンティングのアプリケーションの表書きや研究計画書にも活用できました。

 

(2)人脈をつくる。

推薦状はアメリカでもイギリスでも非常に重要です。大抵3通、多いところでは5通必要でした。形式的な推薦状は印象が悪くなるので、研究内容だけでなく自分のことをよく知っている人に頼む必要があります。大学院博士課程の指導教官と現在のボスの推薦状は必須として、あと3通、推薦状を書いてくれる人を確保する必要があります。私は共同研究先のPIと同じ学内で私の仕事をよく理解してくれているPIに頼みました。私は5人目のあてがなかったので、推薦状を書いてもらい たいPIに正直にその旨を伝え、セミナーをさせてもらったうえで推薦状を書いてもらいました。直前になって慌てることがないように、あらかじめ推薦状を書いてくれるよき理解者を5人確保しておくとよいでしょう。
また、アプリケーション用の書類もボスだけでなく、他のPIにも見てもらうと、より客観的なフィードバックが得られます。自分のボスの他に親身になって相談に乗ってくれるPIを2−3人つくっておくことは、将来のことも含め、ポスドク時代の重要なことがらのひとつです。

(3)プレゼンテーション力を鍛える。

インタビューに呼ばれたら、セミナーとチョークトークで自分の研究内容と今後の研究計画をプレゼンテーションすることになります。この準備として私はあらゆる機会を見つけて発表をするようにしました。デパートメント内のwork-in-progressセミナー、学内のポスドクretreatや、他のグループとの共同ミーティングなどでは積極的に発表し、セミナーのあとはボスや同僚に感想を聞いて、すぐにスライドやプレゼンテーションの構成を改善するようにしました。また、大きな学会でポスター発表をするのではなく、口頭発表に採択されそうな比較的小さな学会に積極的に参加するようにしました。質疑応答の内容はすぐに記録しておき、次に似たような質問を受けた時は完璧に答えられるようにしました。最初のうちは英語がうまく伝わらなかったり、質疑応答がうまくできなかったり、恥ずかしい思いをたくさんしました(今でもしますが)。しかし、セミナーの数をこなすたびに、発表スタイルが確立されていくのが実感できました。
チョークトークの準備は難しいです。通常2−3枚のスライドで10分間、今後の研究計画を話すことになります。そのあとは1時間から1時間半5人−10人からなる審査委員会による質疑応答です。チョークトークは通常非公開なので見る機会がないですが、私の学内ではチョークトークの模擬発表をし、そのフィードバックが得られるプログラムがありました。こういう機会を利用すると良いでしょう。このようなキャリア・デベロップメント・プログラムも論文を発表してから参加するのではなく、その前から積極的に参加しましょう。あとはラボミーティングでのディスカッションを大事にする、セミナーを聞きに行ったときは必ず質問をする、セミナースピーカーとランチ等の機会があるときは参加する、などの日々の小さな心がけの積み重ねがチョークトークでのやりとりに生きたのではないかと思います。

(4)英会話力を鍛える。

実際のインタビュー当日は研究の話だけをすればよいわけではありません。1次面接、2次面接ともに丸1日もしくは丸2日間、PIとの個別面談があります。また、アメリカでのインタビューでは他のPIと3食を共にします。研究の話だけでなく、雑談も多いです。したがって、ある程度楽しく雑談をする会話力が必要になります。これもやはり、セミナースピーカーとランチ等の機会に参加し、積極的に会話に加わった経験が生かされました。また、正式にインタビューに呼ばれる前のやりとりやインタビューのあとの交渉などは電話で行われることが多いです。電話での会話がスムーズにできるように、普段からなるべくメールではなく電話をする習慣を身につけるようにしました。

最後に1番大事なことは、早くからまわりのみんなに「PIになりたい!」と公言することです。そして、同じくPIを目指すポスドクのコミュニティーに積極的に参加しましょう。このような集まりの中 に入るとPIになるためにポスドク期間中に学ばなければならないことを日々意識するようになります。またこのように公言することで、ボスや他のPIからキャリア・デベロップメントに関して様々な助言が得られ、いざというときに力になってもらえると思います。

2015/11/19

​編集者より

​執筆者紹介:

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編集後記:

夢や希望を口にだすことで起こる変化。思い切って、口にだすとき、既に自分の中で変化が起こっていると思います。また、周囲からいろいろな助言や情報などが入ってくることを、私も沢山体験致しました。世界の舞台で独立し、サイエンスを謳歌するためのエッセンスの数々をシェアして頂き有難うございます!

編集者:

Atsuo Sasaki

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