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日本の国際競争力強化に向けて

UJA理事/福岡工業大学工学部生命環境化学科・教授

赤木紀之 (あかぎ ただゆき)


海外日本人研究者ネットワークUJAが発足して、まもなく10年が経過します。UJAは「“信頼の見える化”によって、“研究者のウェルビーイング”を育み、すべての日本人研究者が安心して、国際的に活躍するサイエンスの未来を創る」という大きなビジョンを掲げています。このビジョン達成のために、多様なイベントを開催し日本の科学技術のプレゼンス向上と次世代人材を育成したり、幅広い情報発信を通して世界の最先端研究と現場の生の声を届けたりしています。こういったUJAの活動は、若手研究者、ポスドク、医師、大学教員、大学院生などがボランティアベースで参加し運営しています。


なぜ我々はこういった活動を推進しているのでしょうか。それは、世界で進められているグローバル化に大きく出遅れ、国際競争ではすっかり負けてしまった我が国を、なんとしてでも復活させたいという強い思いがあるからです。


Nature Index 2017(日本版)では「日本の科学研究はこの10年間で失速していて、科学界のエリートとしての地位が脅かされている」と指摘されていました。確かに博士課程進学者や国際誌への論文数の減少は続いています。ところが、その指摘から6年が経過した今年、Nature Index 2023(日本版)では「日本の科学が転換点にさしかかっている兆しがある」という論調に変化しました。確かに日本政府は新たに「10兆円大学ファンド」の創設や、それと連動して「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」を推進することで日本の研究力の底上げを図っています。


しかしながら、依然として学術論文の出版数では中国と大きな差をつけられ、研究だけでなく、あらゆる局面で日本は世界に出遅れているのも事実です。それがダイレクトに日本経済に影響を及ぼし、多くの日本人の生活に陰りが出ています。もし我が国が資源豊かで、地中に原油や天然ガスが眠っていれば、それを発掘することで海外に売り、経済的に豊かになったのかもしれません。天然資源がない我が国では、世界とどうやって戦ってゆけばよいのでしょうか。それは人材育成とイノベーションの創出がキーワドになってくるのではないでしょうか。


日本が国際競争で勝ち残るために、どのような人材をどのように育成してゆけば良いでしょうか。日本の教育システムは本来悪いものではなく、義務教育の9年間でかなりの基礎的な能力が身についています。大学4年まで卒業すれば、相当な知識や経験を得ることができます。問題なのは「皆が平等で同じ」が美徳となってしまい、「普通」という概念が子供の頃から叩き込まれてしまっている点ではないでしょうか。この「普通」という考え方がやっかいで、「普通」でないことをすると変な目で見られたり、軌道修正されたりすることが多々あるのではないでしょうか。各個人がまだ自分の能力や適性に気づいておらず、本来発揮すべきチカラがあるにも関わらず、うまく活用できていない人材の背中をそっと押してあげる、そういう仕組みがあると良いのではないでしょうか。


日本がどれほど画一的であるかは、海外に出るとすぐに分かります。例えばアメリカは様々な国から人々が集まっています。そのため、多種多様な文化が交じり合い多様性に満ち溢れています。互いに多様性を尊重する姿勢が自然に生まれ、国際交流も活発です。日本人が海外でこのようなマインドを醸成することが、国際競争に立ち向かうグローバル人材に育つのではないでしょうか。


その上で、留学経験で得たものを、我が国発のイノベーションにつなげることが競争力強化には必須です。多様性を広く知ることで世界の様々なニーズを知ることができます。新たな技術開発もイノベーションですが、もしかすると、既存のものからも大きなイノベーションが生まれるかもしれません。以前は写真といえば現像してアルバムに収めておくだけでした。それが今では写真に新たな価値観が生まれ、Instagramなどは社会的影響力の大きな媒体となりました。


日本の国際競争力強化には、多様性を尊重、国際連携、異分野融合を推進し、その先にあるまだ見ぬイノベーションを創出することが必要です。この目標を達成するために、次世代を担う若者たちがまずは海外に出て、海外を知り日本を知ることが大切だと私は考えています。我が国が持続可能な発展を遂げるためには、つまるところは人材育成であり、次世代育成こそがサステナブルな社会の構築への近道です。UJAの活動を通して、海外に留学する日本人の応援やお手伝いをすることで、中長期的には日本の競争力強化につながると信じています。



著者略歴

赤木紀之 (あかぎ ただゆき)

1998年横浜市立大学生物学課程卒業。2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員DC1、金沢大学医学部再生分子医学ポスドク、UCLA医学部/Cedars-Sinai Medical Center血液学腫瘍学部門ポスドク、金沢大学医薬保健研究域医学系助教、同上准教授を経て、2020年4月より現職。

https://www.t-akagi-lab.com/

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