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【COVID-19クライシスレビュー】「海外で活躍する日本人研究者がおかれている現状は?」UJA編集部 赤木 紀之

更新日:2021年2月15日

doi: 10.34536/covid19-019


これまでUJAには23名からの報告が寄せられ、多くの記事を掲載することができた。それぞれが大変な状況の中で、貴重な時間を割いて記事を執筆して下さった方々には心より感謝申し上げたい。 どの記事も日本の報道では見えてこない、深刻で切実な状況がよくわかる記事ばかりだ。是非すべての記事に目を通して頂きたいと思い、これまでの記事のダイジェストを作成した。それぞれリンクを貼ってあるので、原著に戻っていただき、研究者たちの生の声を聞いて欲しい。 UJAでは研究者達からの声を引き続き募集している。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)-研究者がおかれている現状は?-」。こちらに寄稿してくださる方は、是非コンタクトから連絡を頂きたい。この難局を乗り越えるために、まずはあなたの声の発信から始めてはどうだろうか。 それではこれまでの報告を振り返ってみよう。 ----------------- アメリカ

米国化学系企業に勤めている水原氏からの報告によると、勤務形態を2チーム制にし、週の勤務日数を減らすことで、研究所としてのCovid19対策や費用の削減を目指しているとのことだった。一時的に解雇扱いされている従業員もいるようで、人間関係にも影響が出ているという。

またハーバード大学の黄地氏によると、研究所のramp downにより研究室に入れる人数が制限され、多くの苦労があったようだ。つまり、ラボの他のメンバーの実験動物の取り扱いも、ラボの代表者がする必要があり、互いの意思疎通を慎重に行った様子が伺える。

一方、UCSFの城戸氏からは驚くべき報告がなされた。USCFは来年6月30日まで、全てのポジションについて原則新規雇用を中止するという。この措置により、自身のライフプランを大きく変更することになった人々が多数いるのではないかと推察される。

パデュー大学の渡邊氏からは「共同研究者がCovid-19により逝去した」という信じがたい報告を受けた。身近な研究者の死はあまりに衝撃的で、今回のCovid19がいかに残酷か現実を突きつけられた。

インディアナ大学の河野氏は「卒業間近の大学院生が卒業のために感染の危険よりも実験を優先する姿勢」が心配だという。学生やポスドクの心のケアが今後の課題になってくるようだ。

学生視点で報告してくれたのは水田氏だ。フロリダ大学の大学院生である水田氏によると、8月までは全ての授業をオンラインで実施するそうだ。また、秋入学予定だった学生は、春入学へ変更することが決定したらしい。迅速な決定だ。


ユタ大学の江島氏の所属する研究室では、不測の事態に備えどのマウスを優先的に管理するか選定し、精子や受精卵の凍結保存を早急に行うなどの対応をとったそうだ。実験動物の処分は行わなかったのが不幸中の幸いとしている。


シカゴ大学の石原氏からは、雇用関係で深刻な報告があった。石原氏自身の職位はタイミングよく異動できたそうだが、多くの友人がオファーや面接が凍結になったとのこと。シカゴ大学を始め多くの大学が今後数年間のファカルティハイアリングを禁止しているようだ。


状況はケンタッキー大学も同様だ。河島氏によると7月の時点でインドや日本からの留学生がこの秋に来る予定だったが、ビザが取れない状況だという。一方でケンタッキー大学では原則在宅勤務であるが、申請をすることで入館可能で、研究もあまり問題なく行えるという。


昨年、バージニア大学で研究室を立ち上げた森岡氏は「出鼻を挫かれた状況だ」という。しかしながら、今の時間を「大きな意味を持った時間であった」と近い将来に振り返られるよう、前向きに考えているとのことだ。


マサチューセッツ工科大学の中嶋氏からは女性ならではの問題点を指摘している。米誌のある記事によると、ロックダウン下に男性研究者の論文投稿数が1.5倍に増える一方、女性研究者の論文投稿数が半減した分野があるとのことだった。在宅ワークで如実に差が出たようだ。 ヨーロッパに目を向けてみよう。

ドイツ

マックス・プランク研究所の中野氏によると、「在宅勤務」の目的が「重要なタスクを遂行するために出勤する仲間を感染から守る」である、という。植物の飼育や機器の維持のために出勤してくれるスタッフの感染リスクを減らすために、それ以外の人はなるべく研究室に行かないという位置付けだ。

浜村氏が所属するハンブルグ大学は、学長から「大学は閉鎖しないものの、在宅ワークを中心にするように」との通知があったそうだ。ラボのPIからは、浜村氏は研究を続けるよう指示が出たそうだ。PIからの期待が大きい様子が伺える。 フランス 約2か月に渡る外出禁止措置を取っているフランスはどうか。 ストラスブール大学/IBMC研究所の金澤氏は、帰国はせずあえてフランスに残る選択をしたそうだ。自身の社会保障等を日本―フランスでその都度切り替えるのは煩雑であるし、移動に伴う感染リスクも考えた上での判断だったようだ。

ソルボンヌ大学の島垣氏は、研究の性質上それほど不便は感じてないという。バイオインフォマティクス研究であり、コンピュータがあれば、十分研究は遂行できるという。それでも部屋で一人黙々と作業を続ける事は労力を要するとのことだ。 イタリア ヨーロッパで最も早くCovid19が拡大したイタリアは深刻である。 パドヴァ大学の大森氏によると、英語圏でないイタリアではイタリア語でニュースが流れるという。しかもデマも多いらしく、正確な情報を把握するのに苦労したそうだ。ご本人が産休中だったということもあり、復帰の目途はたっていないという。

同じパドヴァ大学の長井氏は、やはり情報源がイタリア語であるため、情報収集に遅れをとったという。知人から得た情報によると、街の医療体制が深刻な状態だったため、家族で帰国を決意したそうだ。帰国までの道のりは緊張の連続で、是非、長井氏の寄稿を読んでいただきたい。  トリノ大学の渡邉氏からは、イタリア全土が封鎖(2020/3/10)になる2週間前からラボへの出勤を減らすよう指示が出ていたらしい。トリノ大学が位置する北イタリアは、特に激しく新型コロナウイルスの影響を受けているようで、官民あげてこの危機を脱しようと協力しているそうだ。 イギリス イギリスのボリス・ジョンソン首相が新型コロナウイルスに感染したニュースは世界を駆け巡った。 中能氏と柳田氏によると、ケンブリッジ大学では、ポスドクなど経済難を抱える人たちへ利息のつかないローンを提供しているそうだ。大学自体が例年より経済的に難しい状況にあるにも関わらず、身を削って関係者を守ろうとしている姿に感銘を受けたそうだ。

また天久氏の所属するインペリアルカレッジロンドンは、3月23日から研究所が閉鎖しているという。実験動物の飼育等の必要不可欠な仕事以外は原則的に禁止で、研究室の代表者数名のみがこの作業のために定期的に出勤できるらしい。それでも約2-3週間に一度程度だという。 日本 日本はどうか。 ノースカロライナ大学チャペルヒル校への留学が決まっていた金城氏は、留学できずにまだ日本にいるという。ビザも入手しすべての準備が整っていたにも関わらず、大学側の判断で、全留学生の受け入れを9月まで延期するという通達が来たそうだ。今はリモートワークで、留学先とコミュニケーションを取っているという。

千葉大学の山形氏からも同様の報告があり、山形氏の知人は3月末より留学予定であったが、ニューヨークのロックダウンに伴い、こちらも急遽留学延期になったという。 ---------------------- 繰り返しになるが、UJAでは、まだまだコロナ関連の記事を募集している。こちらに寄稿してくださる方は、ぜひコンタクトから、連絡を頂きたい。

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